新聞記事より
金属製ののへらと、日本髪を結うのに使うツゲの木の毛筋棒が、まだやわらかい
土の塊に鬼の顔を描き出す。鋭く切り込みを入れ、表面を平らにならす作業の繰り返し。
しばらくすると、ヘラの先端をペロリとひとなめ。
「水に漬けるのが面倒。親父は唇に泥がついてたよ」
鬼瓦一筋66年の名倉孝さん(81)袋井市堀越在住が照れくさそうにほほ笑む。
日本家屋の屋根で長年にわたり存在感を放ってきた鬼瓦。遠州地方は太田川沿岸
などで良質な粘土が採れ、瓦の産地として発展した。名倉さんは江戸末期創業の「鬼
秀」四代目。15歳で三代目の父に弟子入りし、伝統を受け継いだ。いつの間にか染み
ついたへらをなめる癖は、父の背中をひたすら追い続けてきた証しだ。
時代が変わり、家屋の様式が変化して受注は激減した。それでも「利益を考えて仕事
はしない」柔和な表情の裏に、代々の職人かたぎが確かに宿る。
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