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2014年11月30日21:25

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【映画】 嗤う分身(再) 【☆4.3】

※ネタバレ全く自重していませんので、今後観る予定のある方は読まないことをお薦めします。
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【嗤う分身】 (Theatre)
2014年
総合評価 4.0 → ☆4.3

「シナリオ」 (1.0) … 3 → 3
「演出全般」 (1.2) … 5 → 7.2
「心理効果」 (1.5) … 4 → 6
「視覚効果」 (1.1) … 4 → 4.4
「音響効果」 (0.9) … 4 → 3.6
「教養/啓発」 (0.8) … 3 → 2.4
「俳優/声優」 (0.7) … 5 → 4.2
「独創性」 (0.8) … 4 → 3.2

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【ストーリー】
キモ男の主人公が、イケイケのドッペルゲンガーに虐められる。

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【魅力】
・シュルレアリスム演出
・俳優

【不満】
・特に無し

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【少し突っ込んだ感想】

≪魅力≫
映画も二回目の鑑賞になるし、原作も読んだ事だし、今年特にお気に入りの映画なので、改めてレビューを書き直してみたいと思います。

やはり、この映画の魅力を一言で言うなら、「シュルレアリスムの演出センス」だと思います。不条理な出来事や不自然な会話、そして非現実的な設定の世界観、また映像や音楽に至るまで、全て「シュルレアリスム」の演出の一部だと考えられます。この映画の面白さが形容しがたいのは、ひとえにマイナーなジャンルである「シュルレアリスム」の面白さだからだと思います。

「シュルレアリスム」という概念がなかなか難しいのですが、「深層心理の表現」と言い換えることも可能だと思います。この映画は、深層心理に直接訴えかける手法を使っていると思います(というか、それ以前にこの映画の設定そのものが深層心理の世界だと思っていますが)。

ま、そんなわけで、個人的にはこの難解映画の謎解きはあまり意味が無いと思っています。

要するに、深層心理なので、時間すらも含めたあらゆる概念が明確な意味を持たなくなるので、当然論理的整合性が執れなくなってきます。

例えば、私の考えでは、ワシコウスカに散々詰られて最初に自殺した人物も主人公ですし、最後に自殺したのもまた主人公です。また、ワシコウスカが覗きの事を知っていた事もあまり意味がなく、所詮は潜在意識の話なので、実際はバレていなくても、主人公の罪悪感が創り出した妄想の可能性が高いからです。

そうなると、ワシコウスカが主人公の事を実際どう思っていたのか?という事もあまり意味がなくなります。結局は、主人公をキモ男扱いしていたワシコウスカは、主人公の被害妄想が生み出した妄想で、最後に主人公の愛に気づいたワシコウスカは彼の願望が生み出した妄想となります。

そんなわけで、あらゆる現象に対して現実的な説明をするのは無理があるので、敢えてするならば、「リアルの主人公がどういう精神状態でこの妄想を生み出したのか」という形になると思います。個人的にはそこまでする気はありませんが。

ただ、黒人の守衛さんは気になりますね。彼は後半で白衣を着た医者になっていました。頻繁に登場しますし、おそらく、現実世界では主人公にとってかなり重要な人物でしょう。主人公が精神病院に入院していて、主人公を管理する立場の人なのかもしれませんね。それが深層心理では守衛さんとしてキャスティングされているとか。


一般的な映画は、表層意識や論理を刺激して楽しませてくれるので、魅力を語り易い、とも言えます。ちなみに、大半の映画は論理的整合性が取れていますが、そこにリアリティがあるとは限りません。時として、リアルを越えた「シュルレアリスム(超現実主義)」の方が、より本質的で、リアリティを感じさせる事があると思います。少なくとも私は。

また、ダイハードは非現実的ですが、基本的に登場人物が論理的整合性の取れた役割を果たしているので、もちろん「シュルレアリスム」ではありません。ハリーポッターも同じ理由で違います。アレはそもそもファンタジーというジャンルになります。

「シュルレアリスム」は、あくまでも現実世界のパーツを使うことが暗黙のルールだと思います。マグリットの「ピレネーの城」などに、ドラゴンが描かれていたら、もはやそれは「シュルレアリスム」とは呼べません。カフカの小説も、出てくる人物は全員ごく平凡な人達ばかりです。ただ、言動が絶妙にゆがんでいるだけです。

この「ゆがみ」の表現こそが、「シュルレアリスム」の必要条件だと思いますが、この作品のリチャード・アイオアディ監督は、そのセンスにかなりの才能があるように感じました。どのシーンを切り取っても、絶妙にゆがんでいます。

「シュルレアリスム」はあまりウケが良く無いようですが、そこに果敢に挑戦する若き才能に今後も期待です!




≪蛇足≫
映像の明暗は、監督曰く「光と影の演出」らしいです。なるほど。

音楽のチョイスは、その情景にあった歌詞のものを選んだらしいですが、何故に「SUKIYAKI」?他にも同じような歌は腐るほどあるだろうに。思うに、この曲は、海外でも意味も解らず涙を流してしまう事がある程の名作だと聞いたことがありますので、きっと曲そのものが深層心理を刺激するレベルの出来だと判断したんでしょうね。私も別に世代じゃないのに、凄くノスタルジックな気分になれます。デヴィッド・リンチの「マルホランド・ドライブ」の音楽も非常にそれを意識しているように感じました。

俳優のアイゼンバーグは素敵ですね!何が素敵かっていうと、あまり主張が強くない。イケメン過ぎることも無いので、キモ男の役も、ナンパな役も両立できます。見れば見るほど、魅力を感じてくるタイプかも。ワシコウスカも、ちょっと狂った役にピッタリ。この作品の登場人物は、皆どこかしら狂っていますからね。

ちなみに、鳩の死骸は、心理学的には「人間関係のトラブル」の暗示だそうです。何故藁が内部から出ていたのか?「この世界は現実じゃなくて作り物なんだよ」、というサインでしょうかね?




≪特に好きなシーン≫
「SUKIYAKI」がかかる直前で、ワシコウスカがメモと1コインをテーブルに残して、それをアイゼンバーグが見つけた時、妄想イメージで、ワシコウスカがコインをトスしますが、これは妄想の中の更に妄想という、貴重なシーンですね。背景も切り抜かれたようで、凄く印象的で大好きなシーンです。大抵のシーンは好きですが。



≪原作に関して≫
一応頑張って読みきったので、感想レビューは別途日記に記載してあります。実際、あの読みにくさを体感するだけでも、読む価値あり!
ちなみに、邦題「二重人格」は、あまり適切ではないような気がします。やはり、原題通りの「ドッペルゲンガー」がしっくりきます。

基本、出来る分身にいじめれられる設定などは同じですが、原作は「シュルレアリスム」とは言い難いです。特定の部分を除いて。




≪分析≫
あまり分析したいわけじゃありませんが、今のところ一番しっくり来る前提条件としては…

冴えない本体が、イケてる自分を妄想する。

しかし、本体が冴えないのに、イケてる人間になりきれるわけがない。

妥協案として、「自分が見た、イケてる自分」を妄想する。イケてる他人ならば、いくらでもサンプルがあるので、これなら簡単!

しかし、本体は本質的に偽善者なので、イケてる人間は大概要領が良くて性格が悪いもの、と先入観が入ってしまう。

結果的に、自分の弱点を知り尽くした、性格の悪いイケてる自分が生まれる事となり、当然のように本体をいじめる。



結局のところ、全て潜在意識の中の話だと思いますけどね!


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"『採点方式に関して』
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