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2014年10月07日18:32

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最初の選択肢まで紹介30

Kindleゲームブック「SAIKAI 〜another story〜」

プロローグ

 気がつくと、体が宙に浮いていた。どうして浮いているのだろうと視線を下に向けると、5メートルほど下の歩道に髪の長いセーラー服姿の女の子がうつ伏せで倒れているのが見えた。女の子の体はピクリとも動かない。私はその女の子の真上に浮かんでいた。すると、横断歩道を数メートル過ぎた道路の左脇に停まっていた軽自動車からお爺さんが慌てた様子で降りてくると、倒れている女の子に駆け寄って助け起こす。

「大丈夫ですか!?」

 助け起こされて女の子の顔が見えた。

 あっ!

 うつ伏せで倒れていたのは私だった! どうやらあの車にひかれてしまったらしい。じゃあ、この浮かんでいる私はやっぱり......。

 倒れている私とお爺さんの周りに人が集まってくる。その中のスーツ姿の若い男性が、携帯でどこかに電話している。

 お父さん、お母さん、ごめんなさい。17年しか生きられなかった私を許してください。そして、信治。こんな形で突然お別れすることになってしまってごめんなさい。

 彼とは約1年前に出会い、すぐに付き合うことになった。私をいつも大事にしてくれて、会えない日には必ず電話やメールをしてくれた。付き合って1周年の記念日には2人で旅行にでも行こうと話しており、私はその日をとても楽しみにしていた。記念日まであと数日だった......。

 その時、けたたましいサイレンを鳴らしながら救急車が混んだ車の間をぬって到着した。降りてきた2人の救急隊によって私は担架に乗せられ、再びサイレンを鳴らしながら救急車が走り去っていく。私はその光景をただ呆然と見つめていた。

 あの世へ旅立つ前に、もう一度信治に会いたい!

 そう思った瞬間、信治が住宅街に挟まれた道を歩いているのが目に飛び込んできた。どうやら瞬間移動したようだ! 凄く便利な能力が使えるようになっていることに驚く。こちらに歩いてくる信治の顔を空に浮遊しながらじっと見つめる。信治に霊感があったなら、私の存在に気づくことができたのに。

 しばらくすると、信治はズボンのポケットから携帯を取り出し、誰かと話し始める。

「はい」

「えっ! 未希が!?」

「わかりました! すぐ行きます!」

 私が車にひかれたという知らせの電話だったようだ。信治は携帯を持ったまま突然駆け出した。私は飛行して、その後を見守るようについていく。信治は目の前から走ってくる自転車に乗った男性の行く手を遮り、

「すみません! 後で必ず返しますから、ちょっと自転車を貸してください!」

 と懇願する。男性は事情を察したのか、すぐに自転車から降りて、快く貸してくれた。信治は自転車にまたがると猛然とペダルをこぎ出した。 信治が向かった先は、約1年前、雪の降る道で滑って膝を痛め、信治に連れられて手当てを受けた病院だった。信治は入り口に自転車を停め、ドアを開け放って院内に入り、階段を駆け上がる。私は開けっ放しのドアから院内にすべり込むようにして入り、信治のすぐ後を飛行して2階まで上がる。信治は私の名前のある病室を見つけると駆け込んだ。私も後から入ると、そこにはお母さんが待っていて、ハンカチ片手に泣いていた。傍らには医師の姿もある。信治はベッドに横たわる私に歩み寄ると、震える手で顔にかけられた白布をそっとめくる。その様子を見ているだけで言いようのない悲しみが伝わってきた。信治は愛おしそうに私の頬に触れた。

「嘘だろ......」

 すでに温かさは失せていたのか、信治は力が抜けたように両膝をつき、ベッドに横たわる私に泣きつく。私は声を上げて泣く信治の後ろ姿をすぐ後ろで見つめていた。私の目にも涙が溢れ、信治の後ろ姿が滲み出す。幽霊でも泣くことができるんだ。お母さんは医師とともに、横たわる私から片時も離れずに泣き続ける信治をいつまでも見守っていた。

 お父さんが慌てて駆けつけてきた時には、私は病室から移動させられようとしていた。

「未希ーーっ!」

 信治の悲痛な叫び声が少しずつ遠ざかりながら、何度も院内にこだましていた。私はそれを聞きながら、次第に目の前が真っ暗になってくるのを感じた……。


【1】

 光のない真っ暗な闇の中を何かに導かれるように飛んでいた。とても穏やかな気持ちだ。この先には愛に満ちた幸せな世界が待っている。そう感じた瞬間、突然目の前に眩い大きな光の塊が現れた!

《未希さんですね》 

 その光は中性的な澄んだ声で私の脳内に直接語りかけてきた。

「あなたは?」

《いずれわかります。それよりも、信治さんが数時間後に異世界のある町に体外離脱して来ます》

「えっ! 信治が!?」

 信治が体外離脱できるなんて聞いていなかった。

《彼はあなたにどうしても会いたいようです。信治さんは初めての体外離脱で、異世界には不慣れです。再会のその時までに体外離脱後の町をあちこち見て、どんな世界なのかを知っておくべきです。今のあなたなら、すでに使った瞬間移動と飛行の他に、テレパシー、物体すり抜け、金縛り、憑依を使えるようになっています。役立てなさい。信治さんとの最後の時間を過ごした後、私たちの世界に来るのですよ》

 それだけ伝えると、眩い大きな光は一瞬目を開けていられないほどの強烈な光を放った。私は思わず目をつぶり、右手を目の前にかざして光を遮る。



 眩しい光がやむと、明るい太陽が照りつける見慣れない町の空に浮かんでいた。どうやらここが信治が体外離脱して来る町らしい。視線を下に向けると、デパートらしき建物の10メートルほど真上に浮かんでいるのがわかった。屋上遊園地には今は誰もいないから動いていないけれど、ミニSLやティーカップ、飛行機や動物の乗り物などがある。その中で可愛い象の乗り物に目が留まる。北側には双眼鏡も設置されている。それを見て財布のことを思い出し、スカートのポケットに手を突っ込んで中の物を取り出す。右に携帯、左にサイフとハンカチが入っていた。携帯を開くと、電波がつながっている。ひかれた時に壊れていなくて良かった。このハンカチの裏には信治と付き合うことが決まった日に2人で行った公園で私がベンチで書いた相合傘と信治と私の名前がある。サイフの中を確かめると、千円札が3枚と100円玉が5枚入っていた。

 それらをポケットに入れ、空を漂いながら屋上の周囲を見渡していると、近くにいくつかの気配があることに気がついた。それは南西と東にあり、南西のはここからすぐ近く、東のは自転車に乗っているかのような速さで南へ移動している。体外離脱後の町にはどんな人たちが暮らしているのだろう。気配にアクセスする感じで瞬間移動することにした。



南西の気配 5へ

東の気配 13へ


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