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2014年10月06日16:23

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新日フィル・メッツマッハーによる《ミサ・ソレムニス》

☆新日本フィルハーモニー交響楽団 トリフォニー・シリーズ#531定期演奏会
■2014年10月4日(土)14:00開演 
■会場:すみだトリフォニーホール
■プログラム
♪ツィンマーマン作曲 管弦楽のスケッチ『静寂と反転』
♪ベートーヴェン作曲 ミサ・ソレムニス ニ長調op.123
※この公演は、指揮者の強い希望により、途中休憩はございません。
■出演者
指揮:インゴ・メッツマッハー
ソプラノ:スザンネ・ベルンハルト
メゾ・ソプラノ:マリー=クロード・シャピュイ
テノール:マクシミリアン・シュミット
バス:トーマス・タッツル
合唱:栗友会合唱団
合唱指揮:栗山文昭


私は近年《ミサ・ソレムニス》にはまっている。
「おんがくの共同作業場」の演奏会で生まれて初めて聴いて、すぐに歌いたくなり、
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合唱団に入り、
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合宿もして、
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オペラシティで歌った。
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さらに、ロンドンのプロムスで、ガーディナーの指揮で、世界最高レベルの演奏も聴けた。
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今回は、日本のプロオケと、国内最高レベルの合唱団による演奏を聴くことができた。

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久しぶりに来たすみだトリフォニー。

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例によって私の好みでかなり前の席を取っている。
合唱とのバランスからいうと、オケに近すぎた感もある。


♪ツィンマーマン作曲 管弦楽のスケッチ『静寂と反転』

ベルント・アロイス・ツィンマーマン(1918年3月20日-1970年8月10日)。
彼の作品を、初めて聴いた。
強い印象を受けた。
この曲を最初に持ってきたことが、演奏会のコンセプトを決定づけたと思う。

ツィンマーマンは、1970年にピストル自殺を遂げている。
管弦楽のスケッチ『静寂と反転』は、ツィンマーマンが自死を遂げた年に完成した、ほぼ最後の作品だという。

当時の前衛音楽シーンと対決しながら、前衛陣営からも大衆からも理解されない苦悩。
重い眼病であったこと、抑鬱状態であったことなどが、自殺の原因として推測されている。

メッツマッハーは、ツィンマーマンの作品をNJPの演奏会で取り上げ続けている。
去る7月18・19日に「わたしは改めて、太陽の下に行われる虐げのすべてを見た」という作品を日本初演した。
大作の最後に「倒れても起こしてくれる友のない人は不幸だ」という、旧約聖書の絶望的な言葉が放たれ、バッハのコラールが荘厳に引用されると、音楽は突然断ち切られる。
作曲家の心の闇を覗かせる、衝撃的な作品であったようだ。

また、9月29日には、大オーケストラのためのプレリュード「フォトプシス」の日本初演と、「ユビュ王の晩餐のための音楽」が演奏された。
「ユビュ王―」では、劇作家、長谷川孝治による書き下ろしの詩が長谷川自身によって語られた。
その言葉は鋭い批判に満ちている。
3曲目では、今の日本の政治状況への罵倒が、青森弁で皮肉を込めて語られた。
これも、聴きたい内容だった。


私は、そういった、なんらの予備知識なしに『静寂と反転』を聴いた。
ウェーベルン的な点描と、静けさの中から、不気味なイメージがひたひたと滲んでくる。
私の眼には、あるヴィジョンが浮かんできた。

テレビで観た白黒の記録映像。
寒々としたカチンの森で、虐殺され埋められた人々の死体を掘り起こしている光景。
近現代の歴史の中で、虐げられた人々の怨念、怒り。
そうしたものが込められている音楽だと感じたのだ。

作品の中で、「ニ音」が終始鳴り響いている。
それは作品の後半になるにつれ、静かに、しかしいっそう長く持続されていく。

『静寂と反転』が、静かな「ニ音」の持続が消え入るように終わったとき、荘厳な「ニ音」とともに、《ミサ・ソレムニス》が始まったのだった。


♪ベートーヴェン作曲 ミサ・ソレムニス ニ長調op.123

『静寂と反転』に続いて《ミサ・ソレムニス》を演奏したことから、メッツマッハーの狙いがよく分かったように感じた。
共通するのは、人類への愛、神への愛、暴力への怒りといった、芸術家の心の叫びだ。

♪キリエ
一定の抑制が効いた、見事な演奏。
『静寂と反転』の余韻から、それが、作品の表層を突き抜けた、遠い彼方に視線を向けた表現と聴こえてくる。

♪グローリア
新日フィルメンバーが、釈迦力になって弾きまくる。
全力投入の演奏だ。
それでも、プロオケらしさを崩さない精緻なアンサンブル。見事だ。

《ミサ・ソレムニス》は、グローリアとクレドという、長大で力強い楽章が二つ続くことが、鑑賞の障害となる。
変化に富みつつも、強い刺激が続くことで、聴衆の聴覚が麻痺してしまう可能性があるのだ。
メッツマッハーは、巧みな緩急によってこの問題を克服した。
激しい音楽のさなかに、「アドラームステ」と、突然静かになる部分がある。
そこのテンポを思い切ってゆっくり歌わせ、違う音楽が挿入されたと感じる程にコントラストを強めて表現したのだ。
今にして思えば、引用をよくしたという、ツィンマーマンとの共通点を浮き彫りにする表現でもあったのだろう。

国内合唱団最高峰の、栗友会合唱団の歌唱は全く見事。
ソプラノの音は全く下がらないし、各パートのバランスが見事に取れている。
丸の内グリークラブというおじさん合唱団で歌っていた頃、直接指導に触れた木場義則(こばよしのり)先生も、合唱団の一人として歌っておられた。
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ソリスト陣のアンサンブルもとてもよかった。
メッツマッハーの指揮は力強く、その男性的な背中を見ていると、実に信頼感が湧いてくる。
曲の最大のクライマックスを、最後の最後に持ってくる設計も明確だった。

♪クレド
休憩をはさまずクレドへ。
グローリア以上に、クレドをより大きな山場にしようという狙いが伝わってきた。
グローリアよりも更に力強い!
ベートーヴェンは、クレドでスフォルツァンドを非常にたくさん書き込んでいる。
並々ならぬ気迫と力強さを表現したかったことが伝わってくる。
新日フィルと栗友会合唱団は、スフォルツァンドを律儀に演奏して、クレドのあるべき姿を明らかにしていた。

途中の部分も良かったが、最後の二つのフーガについて。
第一フーガは割と速めのテンポで演奏した。
私の好みとしては、この部分をうんとゆっくりにしたガーディナーの演奏がよかった。
転じて、第二フーガはガーディナーと同等の疾風怒濤だった。
まったく乱れない合唱、すごい!上手い!
そして、フーガに続くGraveの部分が、全曲を通しての最大のクライマックスだった。
合唱団とオケの最大音量がここで爆発した。
まさにメッツマッハーの狙い通りだったといえよう。

♪サンクトゥス
この楽章が一番泣けた。
それというのも、ソリストを務めたコンマス、崔文洙氏の意気に打たれてしまったからである。
厳かな前奏曲の間、崔文洙氏の緊張が、すぐ近くにいた私に痛いほど伝わってきた。
彼が、芸術家としての使命感からこのソロにかける責任感、意気込みをひしひしと感じた。

出番になると、彼は立って演奏した。
その音は、とろけるような美音とまではいかないが、素晴らしかった。

サンクトゥスについては、水野克彦先生のおかげで自分なりの理解ができている。
ベネディクトゥスの、悲しみを秘めた美しさは、自己犠牲の精神の美しさなのだ。
一人立って演奏するコンマスの姿が、十字架のキリストに重なってくる。
それは、人類に愛を注いだベートーヴェンの姿でもある。
そして、崔文洙氏の役は、ウィーンの初演ではシュパンツィヒが務める筈だった役でもある。
筈だった、というのはウィーンの初演でサンクトゥスは演奏されなかったからだ。
ベートーヴェンの無二の親友、太っちょのシュパンツィヒは、耳が聞こえないベートーヴェンをサポートし、
「お前の思いは、全部俺が引き受けてやる」
との思いでコンマスを務めていたことであろう。
その思いを綿々と引き継いで、今、崔文洙氏が演奏している。

そんなことを考えながら聴いていたら、泣けてしまった。
自分で作った物語に、自分で酔ったようなものだ。
自分もまた、物語に弱いことを、自ら証明したようなものだった。

♪アニュス・デイ
良かったのだけれど、ツィンマーマン作品とのつながりと、現代に生きる聴衆へのメッセージを伝えるためには、もうひと押し、激しさがあってもよかったのではないだろうか。

全体を通して、非常に水準の高い優れた演奏であったことは確かだった。
自分としては、《ミサ・ソレムニス》を聴けたこと以上に、ツィンマーマンとの出会いの方が収穫であったかもしれない。
現代において、聴くべき作曲家に出会った、という感慨である。

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演奏会の後、マイミクはるさんが秋葉原に開いた店、Create Meに寄る。
Mixiページ
http://page.mixi.jp/view_page.pl?page_id=316064&from=home_members_list

はるさんとの音楽談義は面白く、時間が経つのも忘れてしまう。
仕事の邪魔をしてしまうので、今回は自分のフィギュアも作ってもらった。
閉店後、居酒屋に場所を移し、話し込む。
話題は多岐に渡った。
はるさんの突き抜けた自由な思考は、私の固まった思考に風穴を開けてくれるようだった。
有意義な時間、出会いに感謝せずにはいられない。

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おまけ
すみだトリフォニーで、12月28日の、交響楽団CTKのチケットを購入。
マイミクさん皆におすすめのコンサートだ。

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