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2014年06月08日21:48

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「鬼の食事」 日本の詩 (月碧選) 2

泣いていた者も目をあげた

泣かないでいた者も目を据えた


ひらかれた扉の奥で 火は

矩形にしなだれ落ちる 一瞬の花火だった


享年四十三歳 男子

お待たせしました と言った


火の消えた暗闇の奥から おんぼうが出てきて

火照る白い骨をひろげた

たしかにみんな 待っていたのだ


会葬者は物を食う手つきで 箸を取り上げた

礼装していなければ 格好のつく事ではなかった




石垣りん 詩集「表札」より 「鬼の食事」




子供にあまり読ませたくないなと思うのは、何もエロ本ばかりではない。
この詩も、何の先入観もない子供には、ちょっとキツイかなあ?と思う。

多分、大人にしか読むことが許されない詩、ではないかと思う。
人の死について、葬儀というものについて、一度でも考えを巡らせてきたと、そんな感覚をもってでないと、この詩の可笑し味、ユーモアは、分からないのかもしれない。

例えば、お待たせしました、と言ったのは誰か?

文脈から、葬儀の係員ではないだろう。焼かれている故人かと思う。
この忙しい中、皆さんすいませんねえ、てな感じ。

極めつけに、物を食う手つきで、と詠う。
葬儀という厳格な行事、その決まり事に対し、この表現はちとデンジャラスである。
更に、格好をつけていても、本音はどうなのよ?と、挑むような言い回し。

この詩は、一歩間違えば人の死を揶揄したような、または題名からしてただ怖いだけの、不謹慎で不遜な語り、としか捉えられない畏れがある。
しかし詩人は、そう思われることも厭わず、またはワザとそう思わせるように書いた、とも感じられる。

そんな、危険な際どさと、どこか太々しく (ふてぶてしく) ヘソ曲がりでヒネくれて、突き放したような視点。
それが妙に面白く、心地よかったりする。






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