光は点滅を繰り返しながら、ゆっくりと自分たちの方に近づいているのでは、とチャーリーは感じた。
時折、びっしりと吸盤の付いた何本かの脚が見えた。
それは不気味にゆらりと動き、まるで手招きしているかのようだった。ダイオウイカのゲバルトだった。
ゲバルトは乱暴者だった。
何しろ、あの巨大なマッコウクジラとケンカをするような奴である。
脚は十本もあり、眼を鋭く光らせながら脚を揺らめかせて泳ぐ様は、何とも恐ろしくグロテスクだった。
脚を開けば真ん中には口があり、ぱっくりと開けば黒々とした底なしの穴の、そこで蠢く赤い舌があった。
それを見たものは、メデューサの髪の如く、恐怖のあまりに動けなくなるのだった。
口には凶暴な鋭い歯が並び、獲物を脚でがっちり捕え動けないようにして、その鋭く硬い歯で獲物に噛み付くのだった。
そして、骨まで砕いてばりばり食べる姿は、まさに海のデビルだった。
ゲバルトは、ゆっくりこちらの様子を伺っている様子だった。
チャーリーの頭ほどもある巨大な眼球をぎょろりと動かしながら、さて、どれを食ってやろうか、などと値踏みしている様に見えた。
チャーリーは驚き、もう、背びれを立ててシェリーに粉をかけている場合ではなかった。
すぐに逃げようと、しかもその危険をシェリーとアーノルドに知らせることもなく、チャーリーは一直線にゲバルトの見えた反対方向に走った。
擬態で身を隠す方法もあったが、そんな余裕はなかった。
チャーリーは、丁度ゲバルトとシェリーたちの間にいたので、すなわち走った方向にはシェリーたちが居た。
怖さのあまり目を白黒させながら走るチャーリーに、二人は見えていなかった。
二人の間を上手くすり抜ける、などとは出来ず、チャーリーはアーノルドに勢いよく衝突した。
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