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2014年01月29日02:11

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【これ読んだよメモ】島崎藤村『春』(新潮文庫)

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昨年末に読んだ「桜の実の熟する時」の続きとなる話です。
話の内容が続きモノだときくとついつい読みたくなっちゃう。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1919525114&owner_id=4799115


登場人物はみんな仮名になっていますが、作者の自叙伝体のものだ。
ちょっぴり小難しく、派手な話でもないので他人には勧めにくい作品だなあ。

僕は小説ですと作り話っぽいものの方が好みですのでこの作品は読むのに時間がかかっちゃいましたが、文章の美しさはかなりのものでした。
表現の豊かさ、言葉の巧さは素晴らしい。
いくら盛っても、僕は自分のこれまでの人生をこんなに美しくは書けない。


恋する若者がたくさん出てきますが、時代も明治ゆえ、地味です。

が、例外みたいなことを言ったのがひとり、北村透谷がモデルのキャラクターが出てくるのです。
北村透谷、僕は全然この人の作品を知らんのですが、詩や評論を書いていた人です。

「恋愛は人世の秘鑰(ひやく)なり」と文芸雑誌で発表して物議を醸したのだという。
作中でもその話が出てきました。

「秘鑰」の鑰は「鍵」という意味だそうです。

モテないルーザーからすればナニ言ってんだコイツ……ってかんじですが、発表されたのが明治時代のことですから、当時の人たちからはルーザーとは違う意味でナニ言ってんだってたいそう驚かれたのだそうです。
実際に自身若くして恋愛の果てに結婚したというこ憎たらしい野郎だ。
今風なら自由恋愛っていうんですか?
モテないルーザーにはサッパリわかりませんが、そういう系のなんかアレを主張したような人です。

ところがこの人、思想の渦に呑まれ疲れたか、理想に現実の狭間で病み憑かれたか、精神を壊して若くして自殺してしまう。
作中で一番語られる考えが面白くって、一番引用されてる文章が難しくって、一番楽しそうな生活をしていたのに。

藤村ヴィジョンの描写とはいえ、その苦しみは辛いものでした。
なにかしたいのに、なにもできない、書けない、考えられない。
誰も理解してくれない気がするのだという。

夫の死後、結婚する前に夫が自分に宛てて出した手紙を妻が読むんです。
人生に迷っていた頃の夫の手紙を読み終わった後に妻がつぶやくせりふが涙不可避、曰く、「この時分から、父さんは狂人(きちがい)だったんだよ」


/


友人らが各々己の目指すべき道を定めていくなかで、自分もどうにかせねばいかんと、藤村の分身である主人公は悩み悩んでひとつの行く道を見出すわけですが、今まさに己の道に悩う渦中にいるルーザーの気持ちと符合するものがありました。

ちょうど良いタイミングで古臭い青春小説が読めた気分です。
僕もいろいろ迷ってみようかと思っている。


これのさらに続き的な位置づけになるのでしょうか、島崎藤村壮年期の出来事を描いた『家』という作品があるそうですが、重苦しいのばかりでは疲れそうなのでまた今度にしよう。
次は『破戒』か『夜明け前』を読まねばなりませんな。

あと『若菜集』か、詩を読まねばならんが、僕は詩を読むと眠たくなります。
だいたい詩は意味がわかりません。
僕には解する才能がないのでしょう。
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