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2013年05月20日23:07

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フランシス・ベーコン展

5月19日のメイン・イベントは中央区交響楽団の演奏会でした。
その前に、東京国立近代美術館にて、「フランシス・ベーコン展」を観ました。

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観に行った動機は、怖いもの観たさが半分です。
もう一つ、シェーンベルクの音楽との類似性があるか知りたいという動機もありました。

近代音楽に免疫の低い人が、シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」やモノドラマ「期待」や、「モーゼとアロン」などを聞いたとします。
その人は、神経を逆なでする不協和音や人間の不気味な声にぞっとするかもしれません。
その、ぞっとする感じは、ベーコンの醜く歪めて描かれた人物像を見たときに人が感じる感覚と近いような気がします。

それで、実際はどうなのか、確かめに行ったわけです。

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実物の絵を観て、思ってたんと違ったのは、ベーコンの絵がとても美しいということでした。
色彩は大変美しい。
見とれるくらいの美しい色づかいです。

印刷されたものと、実物の色彩の美しさとの間には雲泥の埋めがたい差がありました。
そういえば、エゴン・シーレの絵も、印刷で見ると汚く見えるのですが、実物はとても美しかった。

シェーンベルクの音楽も、中途半端なオーディオ装置で聴くと嫌な響きに感じるのですが、実演でよい演奏に触れると、その美しい響きに驚いてしまいます。
私はそうやってシェーンベルクの音楽の本質を理解してきました。

ベーコンの絵も、人物の造形をことさらに歪めて描いているにも関わらず、その色彩の美しさは快感ですらありました。

そして、次第に身に染みてきたのは、ベーコンの、非常にデリケートな優しい感性でした。
ベーコンは観る者に醜い現実を突き付けようとするのですが、彼の深い優しさは隠しようもなく、会場を歩いていて私はとても癒されました。

ここには一つの逆説があります。
暴力的な作品を作るアーティストに限って、普通の人よりはるかに優しい場合があるのです。
ベーコンしかり、ジョン・ケージしかり、先日LFJで聴いたヌーブルジェもそうですね。

本当に暴力的な人は、こうした美術や音楽の美しさは、全然理解しないものですよね。
そして、見る人を傷つけるのは、よく見せようとして描かれたキッチュな作品だと思います。
うわべをよく見せようとするさもしい意匠が、人間への幻滅を引き起こすのです。
ベーコンの作品は、まったく逆でした。

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ベーコンの生前の映像も観ましたが、非常に内気でナイーブな人という印象を受けました。
ベーコンのナイーブさは、その作品を観る人に差し出す提示の仕方にも表れています。
ベーコンは前面がガラスで覆われた額縁を好みました。
生々しいものを描こうとしているくせに、それを観る人に直接提示するのはためらっているのです。
ガラスの反射は「ただの事故」で、ガラスに観る人が映り込んだりするのはベーコンの狙いではありません。
でも、直接突き付けるのは嫌なんだって。

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ベーコンは、ベラスケスが教皇を描いた作品に惹かれて、エイリアンみたいな「叫ぶ教皇」シリーズを描いていますが、それで、スペインに行った際にベラスケスの実物を観たかと聞かれて、
「いや、全然観ませんでした。彼の作品を冒涜した後で、彼の絵を観るのは怖かったのです。」
と答えています。
まったく、ベーコンったら、可笑し過ぎます。

また、彼の作品は、なんとなく舞台とか、ステージを思わせる構図が多いです。
どんなに怖い演劇でも、俳優が観客を殴ったり噛み付いたりすることはまれです。
観る人とのダイレクトな、双方向的な関わりを迫る現代美術に比べると、ベーコンの作品は本当に遠慮がちに観る人に差し出されているのです。

シェーンベルクとの共通点もいくつか感じられました。
シェーンベルクは、ベーコンよりはずっと激しい人でしたが、自分の作品を聴かせることに意外なくらいためらいがちな面も見せていました。
ベーコンは、作品作りで重要なのは、自分が何をやっているのか分からなくなるような(無意識のままに描いてしまうような)チャンスが来ることだと言っています。
これなど、シェーンベルクの作曲観とそっくりです。
そして、シェーンベルクが描いた一部の絵と、ベーコンの一部の絵は、実際によく似ていました。

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こんなのとか、こんなのとか。

シェーンベルクの絵は素人くさいですけどね。

会場では、ベーコンの身体表現に触発された、土方巽とウィリアム・フォーサイスのダンス映像も上映されていました。
重力に体が耐えかねて、地べたをはいつくばるようなダンスです。

それはそれで楽しかったけれど、ベーコンのある革新的な面を引き継いではいるが、ベーコンの非常に優しい精神に触発されている訳ではない。

シェーンベルクの12音技法は戦後どんどん一人歩きして拡散したけれど、シェーンベルクの「優しさ」に注目した人はいない(少ない?)。
そんなところも似ています。

ベーコンの絵の美しさや優しさにすっかり癒されて、気分よく会場を後にしました。

会場の外には普通、図録とか、絵葉書とかを売るミュージアム・ショップがありますが、顔を背けて足早に脇を通り抜けました。

粗悪な複製品で目を汚されたくなかったのです。

そんな私が、数時間後には粗悪な複製品(録音)を作っていたのでした。
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