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2013年03月05日22:46

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【音楽】向谷 実・ニコ生ライブよりPV「もうこんなじかん」と若干のアイドル歌謡論。

 無知は恐ろしいものだ。YouTubeを見たら、この曲が「古内東子のサウンド」だとか、訳知り顔で書いていた馬鹿がいたのだ。あんな肛門顔ブスの名前が何故ここで出てくるのだと、呆れかえってモノも言えなかったが、イヤミったらしくしっかり誤りを正しておいたが(笑)。

 ということは、最近のJ-Popなるものの女性アーチストや、アイドル歌謡において、アルバム収録曲でさえ、リズム隊のキメが多いフュージョン風のアレンジや、ファンキーなブラスやストリングスがフィーチャーされたAOR調のアレンジの作品が減りまくり、耳に届いていないということなのだろうかと思えた。

 この曲は、一世を風靡したフュージョンバンド「カシオペア」のキーボーディスト・向谷 実氏のアレンジである。
 フュージョンを我々のように熱心に聴くということが無かった世代でも、TV番組のフィッシングやゴルフ中継などのBGMやCMに使われまくったカシオペアの曲を耳にしていない者はないはずだ(最近知った豆知識では「探偵!ナイトスクープ」の小ネタコーナー終わりのジングル、オチを表す「チャッチャチャ!」がカシオペアの曲「ROAD RHYTHM」のエンディングだと初めて知って今更驚いた。あの曲はサンバにしてはめったやたらに速すぎて音楽的ではなく、かそわしい曲なので、最後まで聴いていなかったのだ。笑)。

 Aメロ「あんなに朝早く起きたのに/もうこんな時間〜」のバックの、頭抜きでシンコペーションのある細かいリズム(ウ・ター・タッタ・タータン)は、典型的にカシオペアっぽいリズムである。ただし、特別かといえば、そんなこともなく、フュージョンっぽいリズムのAORには良くあるパターンだ。ところが、これがたまたま聴いた女性アーチストの曲調だと思ってしまう連中がいるというのが不思議であった。

 しかし、疑問が氷解したのは、このニコ生レコーディングのメイキング映像を見たときである。要するに、打ち込み主体の貧しいレコーディングが横行する昨今、生ストリングス(バイオリンだけで12人)に加えて、ブラスも4管編成の本物、それに4リズムに加えて、もう一人キーボードがいるという、完全生録音が行われていたからだ。

 要するに、粗製濫造されるアイドルの曲に、もはやこれほどの人数を集め、スタジオ代をかけた生録音が行われておらず、それは歌姫だの女性アーチストだのと言われる連中のものでも同様なのだろうということである。
 そもそも、最近は打ち込みがドミナントなので、プロのレコーディング・スタジオですら、生ドラムのレコーディングを想定しない設備になっている所が多くなっているというご時世らしいのだ。信じられない。

 アイドルは、芸術至上主義的なロックやフォーク系アーチスト(=「武士の商法」)とは違って、売り上げが見込めるので、アルバムを出すときには、ヒット狙いで大御所に頼んだ通俗的な売れ線以外の曲調のものを詰め込めるので、若いミュージシャンやアレンジャー、作詞家の実験場のようになっていたものだった。また、信じられないほどゴージャスな大物ミュージシャンが参加していたりするものだった。
 アイドルのアルバムなのに、斬新な曲……まるでプログレのような曲や、丸っきりフュージョンな曲、スティーリー・ダンのような曲、EW&Fのような曲……様々な実験やお遊びが行われていたものだった。それを宝物を探し出して聴き、ほくそ笑むというのが、ミュージシャンクレジットを見て、買ったり借りたりする時のかつての楽しみだった。

 ところが、おニャン子クラブの後、CX乙女塾あたり以降の「アイドル冬の時代」にはまだあった、予算制約の中で打ち込み中心にならざるを得ないがゆえに、自宅作業なので時間だけはかけられるから凝り倒す!といった健全な方向性から、最近のアイドルの曲はまったく打ち込みが前提なので、単に生バンドを使わないという貧しさがドミナントなだけという状況になってしまっている。

 さて、この曲のイントロは、流石のアレンジ力で、一瞬にして聴く者を惹きつける。TV番組のテーマになりそうな吸引力である。
 リズムアレンジは、歌メロとのシンクロ、ユニゾンを踏まえたものになっていて、確かにカシオペアっぽい。最後にはベースが、まるでウィル・リー(ex-24 Street Band)のようにランニングするところなど痺れてしまう。

 そして、私が敬愛する天才キーボーダー&ハーピスト&愛猫家たる西脇辰弥大先生のストリングスアレンジが凄い。
 普通のストリングスアレンジに良くある、駆け上がりのフレーズと、それ以外の場所が二分音符や白玉になってるだけというのではなく、裏メロとして不自然にならないように動きつつも曲に寄り添い、6連符×2の連続駆け上がり等で盛り上げるところは盛り上げるというToo muchにならないゴージャスさは素晴らしい仕事である。
 別にストリングスアレンジくらいできるのに、わざわざ向谷さんが西脇さんに頼んだ理由が分かるというものである。

 しかも、この12人のバイオリニストは、高嶋ちさ子のプロデュースする、あのクラシック畑の12人なのだ。
 総じて、ストリングスはクラシック出身であって、スタジオ・ミュージシャンをやっている者でも、日本の弦セクションは、海外のようなノリが出せないことが普通である。
 西脇さんは自身のブログで
 日本のストリングスの演奏というのは、いかにも日本的な「他人(それが先輩ならなおさら)より先に音を出してはいけない」というような歪曲された体育会系クラシックの伝統の呪縛で、どうしてもスロー・アタックになってしまいがちだったため、グルーヴの音楽の中に、彼らを入れようとすると、なかなかいい感じになってくれないことが多かった。
と言っている。

 ライブ映像の中に、西脇さんが彼女らに、もっとダイナミックにとアーティキュレーションの指示=指揮をしている部分が映るが、よくぞ全くのクラシック畑の人間に、あそこまでやらせたと感心してしまう。アーティキュレーションさえできれば、テクニカルな面では普通ポップスのスタジオワークをやっている弦プレイヤーより上手いはずなので、かけ上がりのフレーズなどはテクニカルに細かなことをやってもらうことができる長所もあるのだ。
 普通なら6ー6ー4ー2くらいのストリングスセクションだから、静かなバラードに入れる弦ならビオラやチェロも必要で、同様にするならそのパートはシンセで補うのだろう。私の聴いているファイルと、安物インナーヘッドフォンでは、この曲には1st・2ndバイオリンしか聞き取れない。

 ブラスアレンジは特筆するほどのものではなく普通である。ジェリー・ヘイ(Seawind Horns)のアレンジを感じさせるほどのキレはないが、プレイが、シンセではない人間のプレイでしかだせない味のアーティキュレーションになってはいるので、そこは満足している。

 そして、普通のカッティングしかしていないが、間奏でソロがフィーチャーされているのが、フュージョン・バンド「フラジャイル」……最近は手数王・菅沼孝三氏のかわりに、弟子の川口千里ちゃんがドラムを叩くことも多いフラジャイルだが……のギタリスト・矢堀孝一大先生だ。

 これをニコ生で演ってたときに、生で同時に見てみたかったなぁ。


 AKBの三人はどうでもいいといえばどうでもいいのだが(特になぜブスの中村麻里子[13期生?]がメンツに入ってるのか分からない)、佐藤亜美菜は作詞をしたというので、作曲や編曲と肩を並べられる作詞家のプロというものがどんなものかを考えれば、アイドルや女性アーチストにありがちな「詩なら書ける」という考えが錯覚だと分かるので、いい勉強になっただろう。
フォト
佐藤亜美菜

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