気持ちはよくわかる

■７７歳作家の男を逮捕＝原爆慰霊碑にペンキ―広島県警
(時事通信社 - 11月13日 19:05)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=4&from=diary&id=2221561

≪今年１月、広島市中区の平和記念公園内の原爆死没者慰霊碑にペンキが吹き付けられた事件で、県警広島中央署などは１３日、器物損壊容疑で、作家三好誠容疑者（７７）＝大阪府吹田市千里山松が丘＝を逮捕した。容疑を認めているという。
　逮捕容疑は、１月４日午前０時５５分ごろ、同区中島町の慰霊碑に刻まれた碑文「安らかに眠って下さい　過ちは繰返しませぬから」の、「過ちは〜」の部分に金色のペンキを吹き付けた疑い。
　捜査関係者によると、三好容疑者は「碑文の文言に腹が立ってやった」と説明しているという。防犯カメラの映像などから浮上した。≫

　この三好某という人物（作家らしいが）がやった行為自体は甚だ問題があるのだが、気持ちはよくわかるような気がする。

　と言うのも、原爆慰霊碑の碑文、すなわち「「安らかに眠って下さい。過ちは繰返しませぬから」というのは、前々からすごく違和感を感じる、ヘンテコリンな文章なのである。自称作家としては、こういうヘンな日本語がエラそうにふんぞり返っているのは許せなかったのだろうか。

　そもそも、この文章の主語は「わたし」だろうか「わたしたち」なのだろうか？　でも日本人が原爆を落としたわけではないから、「過ち」の主語が日本人というのはどうにも居心地が悪い。

　戦争というものは喧嘩と同様に、「売る側」と「買う側」の両方がいないと成立しない。欧米のアジアへの帝国主義的な侵略行為がまずあって、後発的にそれと同じような行為に便乗した日本とそれを苦々しく思う欧米列強との双方の利害が中国大陸で衝突して起きたのが太平洋戦争であり、そういう意味では「どっちもどっち」、喧嘩両成敗ということになる。
　
　ただし、それでも既に「死に体」の日本に対して、単に核兵器の実験をしてみたいというのが主たる理由で、ウランとプルトニウムの両方の原爆を広島と長崎にそれぞれ投下したのは米国であり、「過ち」の主体は米国であると考えるのが、最もシンプルな整理であろう。しかし米国はいまだに原爆投下について非を認めてはいない。したがって慰霊碑の碑文の主語が「米国人」であると考えるのは不自然であろう。

　だからと言って、いきなり抽象度をぐんと上げて、全人類的な見地から、「日本人だ米国人だと細かいことを言っていないで、戦争で罪のない大勢の民間人の命を奪うような行為をしたこと自体が「過ち」であり、「人類」としてそういう「過ち」を繰り返さないと誓っているのである」、といった「キレイごと」にされてしまうのも、これはこれで居心地が悪い。左翼的な頭でっかちな人たちはこういう解釈を好むのだろうが、広島の人たちはこんな説明では納得しないに違いない。

　戦争というものは、ドロドロとした民族と民族の殺し合いであり、自分たちの利益を守るために外国人を殺してしまう行為である。日本人は７０年ほど前に、経済力も軍事力も生産能力も圧倒的に上回っている相手に対して無謀にも戦争を仕掛けて、ボコボコにされて国を滅ぼしてしまったのである。広島や長崎の人々は、いわば甲斐性のない祖国の犠牲になって命を落としたということになる。

　したがって、一応僕なりの首尾一貫した解釈を試みるのならば、「弱くて甲斐性もないくせに、よせばいいのに無謀にも戦争なんか始めたせいで、大勢の国民を犠牲にしてしまってゴメンナサイ」「もしこの次やるとすれば、勝てる見込みのある戦争しかしませんから」といった意味で、自分たちの「過ち」を認めているのだと考えるしかないのだろう。そういうことであればこの碑文の主語はやはり「わたしたち」日本人ということになる。意地の悪い言い方をするならば、業績が悪くて倒産した会社の社長の言い訳みたいな碑文だということになる。

　でもこの碑文を当時考えた人たちは、そうではなくて、たぶん前述のようなもっと左翼的でキレイごと的な意味を込めたのであろうが、そういうのはいまどきは流行らない。そもそもこういう曖昧でいろいろな解釈ができてしまうような不細工な文章を碑文にするから後世の人間が解釈に悩まないといけなくなるではないか。

　そういう意味では、三好某がどのような政治的立場の人かは知らないが、ペンキで塗りつぶしたくもなる気持ちはよくわかる。だったら、いっそのこと、一回ぶっ壊して、新しい慰霊碑をいまの時代の感性に基づいて作り直すというのはどうだろうか。丹下健三のつくった平和記念公園自体、東京都庁同様にあんまり趣味が良いとは言えないので、ちょうど良いではないか。