人は、謙遜する時、それを否定して欲しいと思っている

私もうオバサンだわ、と言われたら
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僕は、京都で小さな鍼灸院を開業している。
仕事柄、どうしても中年以降の女性を治療することが多い。
だから、こういった年齢に関する話題は、本当に多いのだ。
特に、年齢的な見た目の話。
これには、僕も返答に困ってしまう。

まあ、30代から40代そこそこの女性に、

「ワタシ、おばちゃんでしょ。」

と言われる分にはまだいい。
何故なら、最近の女性は本当に若く見えるからだ。
だから、いくらでもワザとらしくなく否定することができる。
また、言った本人も、本気で自分がおばさんだと思って言っているわけではない。
いわゆる謙遜という、社交辞令だ。

だが、僕の患者さんには、70代から80代の女性が多いのだ。
そういう方が僕に向かって、

「ワタシ、ヨボヨボのお婆ちゃんでしょ？」
と訊かれることがある。

この返答は本当に困ってしまう。
ヨボヨボとはいかなくても、年齢的にはお婆ちゃんだ。
というか、実際に孫が居るのだ。
いや、人によっては、曾孫が居たりする。
だから、"いやいや、まだ、おばあちゃんという感じじゃないですよ。"と答えるのは、あまりに嫌味だ。

だが、こういった話を僕に振ってくるときは、本人は少しは否定して欲しい。
少なくとも、ヨボヨボは否定して欲しい。
これをまともに、"いやぁ、そうですよねぇ。"
なんて肯定しようものなら、僕は、空気の読めない奴だ。

そんな時、僕は取り敢えずは、聞こえなかったフリをする。
それでも、訊き直されたら、

「いやいや、僕だって同じずつ歳を重ねてるんですから、みんな一緒です。」

と論点をすり替えてみる。
まあ、この手の話は返答が難しい。

だが、僕の周りには、本当に空気の読めない奴がいる。
それは、僕の3歳になる息子、はるちゃんだ。

はるちゃんは、昔から、ポッチャリした女性がおばあちゃんに見えるらしい。
おそらく、はるちゃんのどちらのお婆ちゃんも、ポッチャリしているせいだろう。

去年、嫁の運転免許証の更新があった。
そこで、運転免許試験場に皆で行き、僕とはるちゃん、そして、まだ生まれて間もないみのりくんは、試験場で嫁の運転免許証更新を待っていた。

すると、同じように付き添いで来られていた、60歳前の少しポッチャリした女性がはるちゃんと遊んでくれた。
はるちゃんは、もともと人見知りしない性格なので、その女性と仲良くなった。

すると、はるちゃんは、その女性を呼ぶ時、大声で、

「おばあちゃん、ちょっと、こっちにおいで〜。」

と叫んでいた。
あの時は、どうしようかと思った。

まあ、それはまだいい。
その女性は、はるちゃんくらいのお孫さんがいらっしゃるそうだったから。

だが、先日はるちゃんと2人で近くの公園で遊んでいた時、たまたまご近所の奥さんが通りかかった。
その奥さんは、僕より若いのだが、少しポッチャリしておられた。

すると、はるちゃんはその奥さんと僕が挨拶しているのを見掛けて、

「あ、おばちゃんがいるな。」

とその方に聞こえるか聞こえないくらいの声で言っていた。

この時だけは、本当にどうしようかと思った。