※自分で書いておいて問題作だと思うくらい、読みづらいし重いしイミフ内容だと思います。
これを読んで不快感を持たれた方、すみませんm(_ _)m
●<題材>
如月千早「眠り姫」 マスミュ用Edit
http://www.nicovideo.jp/watch/sm13705863
テーマソング:西野カナ『会いたくて 会いたくて』
(参考) 2010年
如月千早誕生日 エルミナモノローグ
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1422705985&owner_id=4433310
●<本文>
「次の歌は、新曲『眠り姫』です」
テレビから聞こえる千早の声。新曲、か……。あいつは、今も進んでいるんだな。
男はグラスの酒を口につけながら、その歌に耳を傾ける。
あいつとの出会いは、鐘を鳴らすかのように頭を打ち付けられた衝撃があった。
「如月千早です。趣味は、歌を歌うこと。……それのみです」
順調にアイドルランクを駆け上がり、プロデュースも幾ばくか経った、ある日。
「八年前……とても大切な人が、私たちの前から、突然、姿を消しました。たったひとりの兄弟と、幸せだった時間を、同時になくしたんです」
あいつは交通事故で弟を亡くし、そのせいで家庭は崩壊してしまった。だから自分には歌しかない、と。俺に打ち明けてくれた。
SS『眠り姫』side_Producer
どんな苦難だって、千早と一緒なら平気だと思っていた。二人で手を取り合って、ずっと、歩いていけると思っていた……
気づいたときには、俺の傍らにいると思っていたあいつは、遥か遠くへと行ってしまった。俺には見えない遠く……。引き止めた、手を伸ばした、何度も名前を叫んだ……呼んだんだ……、呼んだって、あいつが振り返ってくれることはなかった…………
現実を受け入れられなかった。引退? 関係がぬるくなった? たしかにそうかもしれない、けどいいじゃないかっ。Bランクなんて、そうなれるもんじゃない。いいじゃないか、地道にやったって。なのに……終わりは待ってくれなかった。俺の最後の仕事、コンサートは、……失敗に終わった。千早のせいじゃない、俺のミス、俺のせい、俺が……、俺が…………。……俺はプロデューサーを解任され、お払い箱になった。
悪い夢ならいい! 何度そう願ったことか。だけど。
俺はたしかに千早と誓った―― 一緒にトップアイドルを目指すと――けれど……儚い夢さ。その誓いも、砂のように脆く、崩れてしまった。
千早は前を見続けた、歌うことを諦めなかった。千早はひとり、先に進むことを選んだ。
男は自分の唇にそっと手をあてる。想い出が、とめどなく涙となって溢れる。幾度となく、声にならない嗚咽を漏らした。
『眠り姫』……か。さながら俺は、眠れる森の騎士? ってとこか。
俺は目覚めることができるのか? 姫を失ったこの俺が。
…………はあ、もうこんな時間か、帰らんとな。
時計はもう二十八時を回っていた。今日も何杯の酒をあおったか、なんて、もう数える気も起こらない。
ビルの立ち並ぶ灰色の森は、冷たく、まるで生命を失った自身のようで。
男は今宵も独り考える。
夜が明けたら、明日になったら、自分の未来を見つけるためにがんばらないとな。泣いてなんかいられない。
枯れたと思ったのにまた涙が溢れてきて……。両手で涙を拭う。
日の昇る蒼白い光、その光が指す向こう、空見を上げながら、男はあてなき先へとさまよう。
夢の中でも、頭の中を駆け巡り、幾夜とこだまする叫声――
誰にでも明日があって、朝があるはずなんだ!
目を開けろ!
俺の流した涙を、きっと希望に変えていくために。
俺は、新たに生まれ変わるんだ!
プロデュースも終盤の頃、あいつはこんなことを俺に言っていた――
「私は歌なしでは、生きていけません……」
……結局、俺がいるだけじゃダメだった。
「崩れない物が欲しいんです。もろい物ではなく、ずっと手に残る物」
……結局、俺自身が脆かったってことか。
「どこにもないんですか? 私が、私でいられる場所なんて?」
……結局、俺じゃ千早の居場所になってやれなかった。千早は、あいつはふがいない俺を、見限った――
朝とも昼とも言えない時間に、男は目を覚ます。
また、うなされてたのか。
眠っていれば悲しみを忘れられる、そう願って眠りについても、そんなに甘くなく。
あいつと過ごした日々は、もう半年も前になるだろうか。一緒にがんばってレッスンして、オーディションを乗り越えて。よくケンカもしたなぁ。
俺はまだ迷っているのか。長い眠りについているような。
早く起きないとな。
誰の助けも要らない。俺は独りでもやっていける!
ただ歩き出すために、自分の未来を見つけるために、涙を拭い去って、俺はあの空を、蒼き希望の光を見上げるんだ!
あいつは最後に、俺にこう言ってくれた……
「プロデューサー、ありがとうございました。私の思いの行き場になってくれて……。今なら、どんな海も飛び越えていけそうです。プロデューサーがくれた、翼があるから」
千早は旅立ってしまった。俺は、それを……見送ることしかできなかった……
「俺は……無力だ」
全身を襲う脱力感。立つこともできない。
千早は脆く、誰かが必要で。それが俺だったらいいな、なんて思ってた。
違った……
俺に必要なのが千早だったんだ。
千早が俺に依存してたんじゃない、俺が千早に依存してたんだ!
なぜ、気づけなかったッ! なぜもっと早く、なぜ……手遅れになる前に、いなくなる前に、俺は、俺は…………
下唇に血がにじむほど食いしばっても、手のひらに爪痕が残るほど握り締めても。やりきれない。
俺はもっと強くならなきゃいけない。もっと、もっと、高みにならなきゃいけない。
もしも……もしもまた、千早と会える運命が巡ってきた時、つりあう男になるために。後悔しないために。
あ、そういえば、今日は二月二十五日か。千早にももう、仲間がいて、新しいパートナーがいる。
「俺の声は、届くのか?」
千早は成長した。もう独りじゃない……
いや、信じろ! 好きなんだろ! 好きでいたいんだろ!
千早が変わったなら、俺も変わればいい。あの結果を生んだのは、俺が止まったからだ。
もっと強くなる。ならなきゃいけない。どんな関係であれ、必要とされるように。だから、だからこそ、新しい扉を開け、未来と向き合おう。待っててくれなんて言わない。俺が何倍も走って、追いついてみせるから!
いつか、また直接言ってやる。今は、ここで。
「誕生日おめでとう」
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