転調の多い楽曲が好きだ。目の前の風景が鮮やかに切り替わっていくようで。20代の時期はコード展開の妙にばかり耳が傾いたものだ。スティーリー・ダン、トッド・ラングレン、プリファブ・スプラウトなんかがお手本だったな。もちろん、彼らがアイディアの源泉としたであろうバート・バカラックなんかも参考になった。バカラックはダリウス・ミヨーの弟子だったから、そこからフランスの六人組にも入っていけた。そうそう小沼純一『バカラック、ルグラン、ジョビン 愛すべき音楽家たちの贈り物』(平凡社, 2002)って本があったけれども、思えばバカラックもミシェル・ルグランもアントニオ・カルロス・ジョピンも、転調の達人だった。
ついでに白状するけど、コード一発のおもしろさを理解し始めたのは、つい最近のことなんだよ。
巧いなあ、ほれぼれするなあと、転調ばかりに気を取られていたけど、ほんとうに凄いのは、さりげなく、ちょっと聴いただけでは気づかれないような、微妙な効果をもたらす変化だ。
それでも音楽の構造上では、確実に調が変わっているといったような。
ホラやっぱり、音楽を文章で説明するのってやっぱり難しい。実際に聴いてもらうのが一番手っ取り早い。
というわけで、【今日の一曲】は、
ポール・マッカートニーの“C-Moon”です。
まあ、Aメロは通常の循環コードに枝葉がついただけなんだけど、Bメロに耳をそばだててください。
キーをCとすると、2小節間Dm−Cときて、二拍Gが挿入されたのちGmに同主調転調する。ここがミソ。
DmーC−GーGm(ah~ah~ah~)、このGmがあるからこそ陰影が加わり、次のD7ーG7という借用和音を経過してのドミナントへ解決にいたる道筋が映えるという仕掛け。
たぶんポールは、そういった企み抜きで、ピアノで遊びながら作ったと思うよ。
「さて、レゲエのリズムでなにかこしらえようか。うーん、ちょっと単純すぎるかな、どれ、このへんちょっぴりコードいじくってみよう。ああこれだこれ、こんな感じでどうかなリンダ?」
曲調の端々からうかがえる、限りない自由さというか開放感が、このシングルB面の曲を、ポールの(ビートルズ解散後の)代表作のひとつに数えられるゆえんになったのだと、ぼくは考える。
いつもより長くなりました。それでは聴いてください。
そういえば、英国のプログレッシブ・ロックのグループ、キャメル(Camel)に、“chord change”ってインスト曲があった。言うほどチェンジしないんだけど、じつに和むよ。
http://www.youtube.com/watch?v=6vrAWeYtP04&feature=player_embedded
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