「アメリカン・デモクラシーの逆説」

　図書館本「アメリカン・デモクラシーの逆説」（岩波新書赤版）を読了。ベストセラー「貧困大国アメリカ」を、ジャーナリストではなく人類学者が書いたらこうなる、と言う書評を見たので読んでみた。


　確かに学者っぽい本。印象論ではなく細かいデータ、細々とした描写。でも、それは長所でもあり欠点でもある。結局、ゴチャゴチャしていて、何を言いたいんだか良く分からない。無理にまとめるなら「アメリカには色んな問題があるけれど、それでも自己を客観視出来る健全さを持つので、自分でその問題点を修正出来ると信じる」ということかしら。なので、親米エコノミストはこの本の方が好きなんでしょう。


　しっかし、共和党時代のアメリカって、中世化の方向だったような... 「国家は夜警国家のように必要最小限のサービス提供にとどめ、福祉は教会、特にメガチャーチに頼る」という。


内容メモ
　・　ニューオーリンズに対する差別は、黒人住民が多いことだけではなく、フランス
　　系やカトリックが多い（フランス語も公用語）ことも一因。
　・　カトリーナ復興支援では、なぜか自宅を持っている富裕層が優先された。
　・　パットロバートソン「イスラム教徒はナチスよりたちが悪い」
　・　キリスト教保守派のリベント・アメリカという組織では「ゲイの祭りを毎年開く
　　ニューオーリンズへの神の審判がカトリーナ」「神はユダヤ人を天国に送るために
　　ヒトラーを地上に遣わした」
　・　政治献金規制には、PAC(政治活動委員会）を経由させるという抜け道がある。オ
　　バマは利用しなかったが、普通の議員は資金の30％をPACに頼る。
　・　オバマは、選挙戦終盤、ゴールデンタイムに30分のテレビ広告を打った。費用
　　500万ドル。
　・　選挙広告費制限は違憲という判決有り。
　・　政党のしばりが弱いのが、アメリカの政治風土。子倫・パウエルもオバマを支持
　　したり。
　・　批判されがちなロビィストだが、貧困層代表もいる。
　・　ライシュ「人間の物の筈の義務と権利が、企業にも付与されていることが、民主
　　的な意思決定を歪める」つまり、企業犯罪は個人を罰するべきだし、法人税は無く
　　し株主に課税するべき、とする。
　・　小選挙区で民主と共和の政策が接近。争点が価値観面になり、民主党がエリート
　　のための政党と見られるようになってしまった皮肉。
　・　アメリカ人の80％が二大政党制には問題があると考えており、25％が第三政党が
　　必要だと考えている。
　・　富裕層はゲーテッドコミュニティに住む。97年は800万人だった住人が、07年に
　　は2000万人に増えている。例を挙げると、一戸100万ドル以上、平均年収17万ドル
　　85％が白人、など。
　・　メガチャーチが増えている。ショッピングモールのように巨大で、色んなセルに
　　細分化され、様々なサービス（結婚案内、キャリアカウンセリング、レジャー、老
　　後、他）が提供されている。カジュアルな雰囲気。信者の関心とニーズを重視。信
　　者数2000以上、２万というものもある。全米に1300以上。福祉国家のミニチュア
　　版。
　　　それに対し、従来型教会は出席率が３分の２に減っている。140人以上の教会は、
　　全体の４分の１と少ない。
　・　格差は50年代に一度縮小する（当時の累進税率90％）が、70年代後半に再び拡大
　　（レーガン、ブッシュ）（累進税率20〜30％）。フードスタンプ受給者4100万人。
　・　インドのカルカッタから、伝道修道女がシカゴに食料援助しに来ている。
　・　グラミン銀行ニューヨーク支店は、2500人に約16万円ずつ融資している。
　・　貧困の原因は新自由主義だけではない。リベラルにも限界。住民主導の非営利組
　　織で解決している地区もある。
　・　黒人の生活レベルは確実に向上している。60年代後半と比較すると、
　　　貧困層は70％→46％と減り、中間層は27％→37％、富裕層は３％→17％と増加。
　・　取り残された人はイスラム化（現在信者600万人）。
　・　製薬業界と医学の癒着。創り出される新しい病気（DSMなど）。
　・　ポストモダンによる道徳の後退。かえって個人が疎外される。
　・　非英語家庭は20％。英語のみが公用語なのは50州中30州。
　・　東部エスタブリッシュ（ボストンのバラモン）ではブルーカラーと結婚すると差
　　別されたり。ただ、その家族内では寛容だったりもする。
　・　アメリカ人が最も信用しないのはイスラム教徒ではなく無神論者。ただオバマは
　　無神論者にも配慮する。
　・　多文化主義は希望であると同時に、受け手の認識によっては米帝のカムフラー
　　ジュと見られることもある。
　・　反米主義もアメリカから生まれる懐の深さ。
　・　アメリカはアメリカだけのためでなく、公共財でもある。
　・　コリン・パウエル「オバマはムスリムではない、というのが正解。だが、もっと
　　正しいのは、アメリカにおいてはイスラム教徒であることに何の問題もない、とい
　　うことだ」