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2009年12月20日11:51

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【自分】 カメ君の怒り

静かな気持ちで。


カメ君は親切でした。
ちょっと変わり者でしたが、周りのみんなからは好かれていました。
カメ君も周りのみんなを好きでした。

でもカメ君は、独りになるとイラついたり、訳もなく怒ったり、自信をなくしたりしていました。
なぜだろう?
自分でもよく分かりませんでした。

カメ君は長く生きてきました。
たくさんの友達が、他の魚に食べられたり、人間に獲られたりして、いなくなるのを見てきました。
そして思っていました。
「何で我々は生きているんだろう?」

友達は皆、一生懸命に生きています。
美味しいエサを求めて努力したり、
子孫を残そうと連れ合いを求めたり。

でも、どんなに努力しても、必死に生きていても、
大きな魚がやってきて、あっという間に飲み込んでしまう。
夢も希望も努力も、すべて飲み込んでしまう。
残るのは何もない。無。

それでもみんながんばって生きている。
自分にふさわしい場所を求めたり、
自分の使いやすい寝床を工夫したり、
新しいエサ場を探したり。

「なんでそんなにがんばるの?」
カメ君は聞いてみました。

でも誰も分かっていないみたい。
「がんばらないでどうするの?」
「どうせ生きるなら楽しく生きたほうが」
「達成感を求めているんだよ」
「平和な老後を迎えるため」

全然ピンとこない。
みんな何を言ってるんだろう?

生きてたってどうせ死ぬんだ。
鯨に食べられるか、人間に捕まるか、
あるいはもっとしょうもない理由でたくさんの仲間が死んでいる。

意味も分からずがんばって生きて、そうして何になるんだろう?
何の意味もないじゃないか。

そうしてカメ君は気付いたのです。
自分がみんなを馬鹿にしていることに。

意味なんてないのに、そのことさえ知らずに、ただ闇雲にがんばって生きている。
何のためにがんばっているのか、自分でも分かっていない。
そんな友達たちを馬鹿にしているのでした。

そして、馬鹿にしている友人たちに
「カメ君は親切だね」
「カメ君はすてきだよ」
と言われるたびに、いらいらしてしまうのでした。

「僕は君たちを馬鹿にしてるんだよ。それにも気付かないの?」
「僕が親切だなんてとんでもないよ」

そして、さらなる怒りの原因に気付きました。

カメ君は、自分の事も馬鹿にしているのでした。
それが腹立たしかったのです。

結局自分だって生きているわけです。
そんなにがんばってはいないにしても、せっせとエサは食べるし、寝床もしつらえてある。
馬鹿にしている友人たちと、結局は同じことをしているのです。

いや、友人たちよりもさらに阿呆です。
だってカメ君は、自分が生きていることに意味なんてない、と思っているからです。

友人たちは、意味がない、と思っているのかどうかは分かりません。
意味があると思って生きているように見えます。
意味があると思えば、意味はあるのかも知れません。
それなら別に生きていたっていいんでしょう。

でもカメ君は、自分に意味がないと思っている。
それなのに、こうして生きている。意味もなく。
これこそまさに馬鹿馬鹿しさの極みといえましょう。

そう、カメ君は、自分を馬鹿にしていたのでした。
だから毎日イラついていたのです。
自分を馬鹿にしている自分に腹を立て、怒っていたのです。

カメ君は絶望しました。
馬鹿にしている自分と別れるためには、生きる意味を見つけるか、自分を二つに割るしかありません。
自分自身に馬鹿にされながら生き続けているのは、腹も立つし、なにより疲れるのです。

いっそのことと、鯨に飲まれようともしますが、硬過ぎて飲まれません。鯨も嫌がります。
人間の網にかかれば、自分の重みで網が切れてしまいます。

まったくどうしたものか。
カメ君は、生きる意味を求めて、独り深海に向かいながら、怒り続けるのでした・・・。
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