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2009年11月15日14:45

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2009-04_海までは何マイル?

 08年から09年始めにかけては自分にとって激動の時だった。
 折からの不景気で仕事の方は連日遅くまで残業、その上に業績は上がらないといった状況で、最悪のタイミングで責任の押し付けられるように、そこそこのポストを与えられた僕は、毎日の激務と肩にかかる重圧で身も心もボロボロになっていた。
 日付が変わったあとに帰宅し、ストレスのためにそれから暴飲暴食、休日もほとんど疲れて寝てすごし、体を動かすことの無かった為にシャツはいつしかLLが窮屈になっていた。
そして今年の一月の終わり、ついに体調を崩し会社に通い続けるのが、困難なまでになってしまった。
 僕がまだ若ければ、または、景気が良い時ならば退職して休養を取るといった選択肢もあっただろうが、このご時世一度職を失えば、なかなか再就職もうまくはいかないだろう。悩んだ末に僕が出した結論は、二ヶ月間の休職だった。
 休職したことにより出世への道は閉ざされただろう。その代償に手に入れた二ヶ月間の最初の一ヶ月半はひたすら寝て過ごした。食も細くなり、体重は減っていったが筋肉もどんどん落ちていった。
 さすがにまずいと思い、少しずつ散歩に出かけるようになった。季節は桜の蕾が綻び始める頃。
 ゆっくりと流れる時間の中で久々に人間らしい時間を取り戻せた気がした。
 自分の住んでいる町の知らない姿を沢山見れた。
 桜の花の舞い散る様の美しさに心が震えた。
 散歩が日課になり歩く距離が一時間から二時間、三時間と伸びていった。
 そんなある日、弟が乗ってないマウンテンバイクがあるけど乗る?と聞いてきた。
 ブリジストンのいわゆるマウンテンバイク ルック車だった。
 そして、その日から僕の自転車との日々が始まった。

 乗ってみる? なんて言われたものの、その自転車の状態はひどいものだった。
チェーンは錆びて回らず、タイヤは空気が抜けている。ライトも付いておらず、そのままでは到底乗れる状態ではない。
 とりあえず空気を入れてみる。パンクしていると厄介だが、どうやら平気だったようだ。ゴツいブロックタイヤがパンパンになるまで空気を入れる。
次はチェーンだ。CRC556を持ってきてギアの部分にかけて回してみる。ガツっと音を立てて止まってしまう。チェーンが完全に錆びていて駒が動かないのだ。ダメかもしれないと思いながらも、自転車に乗りたいという気持ちは次第に高まってきていた。
 長丁場になるなと思い、新聞紙を敷きチェーンの駒ひとつひとつにCRC556をかけては手で動かしてみるを繰り返した。
 錆と油の混ざった酸っぱい様な匂いはしかし、やりがいを感じさせてくれるものだった。ちょっとしたエンジニア気分で少しずつ再生してくる自転車に、二ヶ月の休暇をとって健康を取り戻しつつあった自分を重ね合わせていたのかもしれない。
 とりあえず一周しおわる。チェーンを回してみる。しかし、まだかなりの引っ掛かりが残っている。が、とりあえず無理やり走ってみることにした。
 その無理やりが功を奏したようだ。手の力より足の力は大分強い。無理やりに回転させられたチェーンは軋みながらも固まった駒を動かし始め、徐々にスムーズに回っていく。
 とてもよく晴れて4月にしては暑い日の午後だった。そのまま、いつもの散歩コースを走ってみた。速い。普段なら3時間以上かけて歩くコースを1時間足らずで走り終えた。その機動力に僕は一発で自転車の虜になっていた。
 そして、この機動力なら海までいけるんじゃないか?と思った。江戸川の散歩コースには海まで〜キロと立て札がある。それによれば往復40キロちょっと。その距離は、そのころの僕にとってはまだ、夢のような距離だった。

 会社に復帰する前の最後の日曜日だった。僕は海に向かってペダルを漕ぎ出した。
 天気にも恵まれ、風を切って進む僕の心もその日の空のように晴れやかになっていく。松戸と市川の境は未舗装だったが、それ以降はサイクリングロードが続き、マラソンする人やペットと散歩する人たちを追い越して快走する自転車の道行きは快適であった。片道20キロ。走り出す前は長いと思われたそれは、実際にはあっという間に過ぎて行った。
 サイクリングロードの終点から工業地帯に入り(この辺りはグーグルマップで調査済みだった)しばらく行くと行き止まりに東京湾が広がっていた。
 たった1時間半の道のりだったが、その時の新大陸を発見したコロンブスのような気分でいた。
 自転車は楽しい! 強く思った瞬間だった。
 それから休日は自転車に乗ることが僕の日課になった。
 久しぶりの会社は確かにしんどかったが、病み上がりと言うことも考慮されていたし、なにより休日に楽しみの出来た僕は、それを励みに日々を乗り切ることが出来た。
 次の休みは中川まで出て、南下して江戸川を上って戻った。次の休みは手賀沼まで足を伸ばした。毎週のようにサイクリングを続けその距離は少しずつだが、伸びてきていた。
 そしてゴールデンウィークがやってきた。
 それまでは朝出てお昼ご飯までには家に戻るといった感じだったのだが、その日は連休初日と言うこともあってお弁当持参で家を出た。目的地は利根運河である。
 利根運河は野田市の南端を江戸川から利根川へと流れる運河である。そこがサイクリングロードになっていて景色がいいという。
 実際、利根運河は素晴らしい風景だった。運河自体は細く水量も少ないが、その両端に緑の土手が聳え立ち渓谷のようになっている。コレを書いている今現在、いろいろなサイクリングロードや景色のいいといわれる道を走ったが、それらの中でもオススメしたい場所の上位に入っている。(ただし、ロードでかっ飛ばしたい人には不向き、ゆっくり景色を楽しみながらのポタリング向け)道自体は短いので、わざわざ遠くからここを走りにというのは微妙だが、近くに住んでいるなら絶対にオススメである。
 利根運河を走破した僕の感想は、もう終わっちゃったのか、というものだった。ここから、また同じ道を引き返せばだいたい50キロくらい。休憩あわせて4時間くらいだろうか。せっかくお弁当も持ってきているし、天気も良くて気持ちいいし、全然走り足りないなぁ。それならば・・・関宿まで行ってみよう。
 それが僕の自転車生活の本当の始まりだったのかもしれない。
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