mixiユーザー(id:2473503)

2017年02月10日12:19

748 view

『にんじんむし』と『はしなめうさぎ』



仲良し女子は古風な京女。
古い家に育ったせいか、昔の言葉や風習など妙なことをよく知っているのです。

七草粥を作る時に「♪とんどのとりが〜」と聞いたことのない歌を唄い始めたのでびっくりして調べてみたら「鳥追い」という害鳥を追い払う儀式だったり。
http://www.worldfolksong.com/songbook/japan/warabeuta/nanakusa-song.html



そんな彼女に

「なんかまぶたがピクピクしゆ」

と言ったら

「…『にんじんむし』や」

と返されたです。

「…『にんじんむし』? それ何?」

「『にんじんむし』は『にんじんむし』や」

「…何でそんなこと知ってんの?」

「『にんじんむし』やからや!」

…理由になっていません。
この人の話は大体こんな感じでよくわからない…。


検索してみたら、実質4件しかヒットしないどすげぇマイナーなものでした。
しかもきちんと解説したものは『和漢百魅缶』という、妖怪や怪異を集めたサイトのみ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

にんじんむし(人神虫)

播州や信州などに伝わる人間の体内にいると言われてる謎の虫。まぶたのあたりがピクピク痙攣するのはこの虫の仕業だとか。
また、お灸をすえるときなどは、この虫の上に立ててはいけない、とされていて、「にんじんそこのけ、にんじんそこのけ」というおまじないを唱えたりしたと言います。

☆ 莱莉垣桜文 附註
にんじん虫の居場所を動かすおまじないの文句は、地域によって色々あるようです。対州に伝わる「にんじん」も仲間だと思われます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ちなみに「にんじんむし」で画像検索するとキアゲハ終齢幼虫の画像が山ほど出てくるので苦手な方は要注意。
ああ、あの子 人参につくもんね…


で、この『和漢百魅缶』、数年前の時点で収録数が1200を超えるという超大作でございました。
http://wakanmomomikan.yu-nagi.com/mo.htm
五十音順リストをいくらスクロールさせても「あ」行が終わらなくてびっくり。

で、そこでたまたま知った↓コレの話が面白い。

http://wakanmomomikan.yu-nagi.com/momomi2/maki-1517.htm

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

なまきばし(生木箸)

山仕事をする人たちの間に伝わっているもので、木の枝を手折って、そのまま箸に使ったりした時は必ず、食後に半分に折って捨てないと、食べたご飯が体の中で暴れだして痛みが生じるんだトカ。

☆ 莱莉垣桜文 附註
「しりふきばし」や「はしなめうさぎ」や「おにがつえつく」など、箸をそのままにしておくと特定のものがそれを取ったりして害のもとになるとされてます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

で、ハイパーリンクを辿ると…

http://wakanmomomikan.yu-nagi.com/momomi2/maki-2185.htm

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

しりふきばし(擦尻箸)

豊後の直入郡につたわる「なまきばし」の類で、山で弁当をたべたときの箸を折って捨てないと、おばけがそれでおしりをふくと言われていました。つかったおはしでおしりをふかれた人間は、病気になったといいます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

http://wakanmomomikan.yu-nagi.com/momomi2/maki-2583.htm

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

はしなめうさぎ(舐箸兎)

土州の長岡郡につたわる「なまきばし」の類で、山で弁当をたべたときの箸をその場に捨てるときは、くちをつけた部分を地面の中につきさして捨てないと、うさぎがそれをなめると言われていました。つかったおはしをなめられた人間は、貧乏になるといいます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

http://wakanmomomikan.yu-nagi.com/momomi2/maki-3288.htm

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

おにがつえつく(鬼が杖突く)

「なまきばし」の類で、山で弁当をたべたときの箸を折って捨てないと、おにがそれを拾ってしまって杖にしてしまうと言われていました。信州安曇郡につたわるもの。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

…どれも名前が秀逸ですな。
そして大体、良くないことが起きる模様。【※註】

「おにがつえつく」は鬼の割に「箸が杖」ってやけにミニマムですが、まぁ『鬼』は本来、怪異の総称なので…
そしてコイツだけ不幸に触れてませんが、他者に使われちゃう時点で「嫌な感じ」なのかもしれません。



日本では箸や茶碗は「属人器」といって、特定の個人に属するものなのですね。
ちなみに誰のものとは決まっていないけれど、食事の間は個人に割り当てられる器は「銘々器」、大皿から取り分けたりするのは「共用器」と呼びます。

属人器は個人に所属するので、亡くなった人や嫁入りで出て行った娘の茶碗を割る、という儀式があちこちにあるのですね。
いなくなった人のものを置いておいても使えない、それほど日本人は属人器を他者が使うことを嫌がるのです。


江戸時代あたりだと一般家庭内において「個人の所有するもの」は殆どなかった様です。
そもそも部屋の中にはあまりモノを置かず、寝具ですら使用時だけ出してくる、というのが日本の文化だったので、スペースも生活道具も家族で共用だった訳ですね。

食事もその都度『箱膳』という箱型のお膳を出してきてその上に並べ、食後は食器を箱膳にしまって片づけていました(ただし、毎回は洗っていなかった模様…)。

この『箱膳』だけは個人の所有で、娘さんなんかは貰った付け文(ラブレター)などをこっそり隠せる場所は箱膳くらいしかないので、ここにしまうのが定番だったらしいです。
「身近にある、最も個人的なスペースに重要なものを隠匿する」という意味では中高男子がエロ本を隠すのがベッドの下なのと同じですね。

この箱膳文化の影響で属人器という概念が発達したとかなんとか。


で、この『なまきばし』とその眷属には「誰かに自分の箸を使われるの嫌」という属人器文化の影響がてんこもりで非常に興味深いです。


現在でもアイドルなんかは悪質なファンによる回収を怖れて、割り箸や紙コップなどを捨てる時に気を遣うと聞きます。
「ドルオタに箸をねぶられたりしたら気持ち悪すぎて病気になっちゃう!」という感覚は『なまきばし』と全く同じ…
やはり人間は昔も今もあまり変わらないものですね。

「キモい異類に箸だけは舐められたらアカン」のです。












【※註:良くないことが起きる】

これはフレイザーが言うところの『感染呪術』の典型例。
自分と接触した箸は自分と同じであり、それを怪異に使われることは自分が怪異と接触したのと同じ。
そして怪異の属性が自分に「感染」し、不幸になる、という図式。
詳しくは以下の日記を参照。

2013年10月21日の日記
『ヴァージン&スーサイド ヘビケラの季節に自爆テロした五人兄弟』
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1914417740&owner_id=2473503

2011年4月15日の日記
『感染の法則』
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1706473886&owner_id=2473503



8 4

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2017年02月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728