ロンドン。演劇学校で学ぶイブは、授業中に突然現れたジョニー・クーパーの姿を見て驚いた。ジョニーはイブが片思い中のイケメンだが、舞台のスター女優シャーロット・インウッドの愛人でもある。「警察に追われている、助けてくれ」と懇願するジョニーに同情したイブは、とりあえず彼をクルマに乗せ、離れて暮らす父の家に連れていく。その途中で彼から、警察に追われることになった事情を聴くのだった。
その日の朝、ジョニーはシャーロットの突然の訪問を受けた。シャーロットは昨夜、夫と口論になり殺害してしまったのだという。血塗れのドレスのままジョニーの家に来てしまったシャーロットは錯乱しており、今日も昼の芝居があるのにこんな格好で劇場に行けないと泣きついてきたのだ。シャーロットの窮地を救いたいジョニーは、殺害現場であるシャーロット宅に忍びこみ、綺麗なドレスを持ち出すことに決めて実行するが、運悪く、そこにインウッド家のメイド・ネリーが出勤してしまい顔を見られてしまった。おかげで刑事たちはジョニーを容疑者として手配しているというわけだ。イブは話を聞き、密かにジョニーの無実を証明しようと思い立つ。血塗れドレスはジョニーが処分してしまったから物証はもう無い。しかしシャーロット本人に接近すれば、彼女が犯人であるという証拠が何か得られるかも知れない。そう考えたイブは、ネリーを買収してメイドとしてシャーロット宅に潜入するのだが…
「舞台恐怖症」。ヒッチコックの未公開映画です。ある〈禁じ手〉を使ってしまったことから非難され、ヒッチコック自身も反省して自ら「失敗作」の烙印を押してしまったいわくつきの作品ですね。しかし、ほんとに失敗作でしょうか?いやいや、そんなことはありません。完成度と面白さから言えば、傑作とすら言っても過言ではないと思います。
で、ヒッチコックのカメオシーン紹介後はネタバレ全開で行きます。
…メイド役の演技プランを考えながら歩くイブとすれ違うオッサンです。


さて、ネタバレです。これからオチを書きます。
シャーロットの夫を殺した真犯人は…
実はジョニーだったのです。
つまり冒頭、ジョニーがイブに語った「シャーロットが夫を殺して、僕の家に現れて…」のクダリは全て嘘なんですね。このクダリは回想シーンなんですが、当時の映画では回想はスジを整理するために使われる技法で、真実が描かれるのが大前提。それをヒッチコックは破ってしまったので「禁じ手」というわけです。しかし、ヒッチコックが計算した上かどうかは不明ですが、2つの場面が「ジョニーが犯人」と示唆しているのです。1つはオープニング。舞台の幕が上がってロンドン市内が映るショット。これから語られる物語が「芝居」であるということを示しているように見えます。芝居すなわち虚構というわけで、つまり「嘘」の話ってことです。もう1つは、イブの父の家に匿われたジョニーが、やたらと激昂し暴力的なところ。冷静で温厚なスミス刑事との対比で、明らかにジョニー=悪役と設定してあるのです。というわけで、ラストのどんでん返しは案外フェアに出来ているんですよ。
(通算1045タイトル)
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