岡田斗司夫の毎日メルマガ 2019/07/17
今日は、2019/06/30配信の岡田斗司夫ゼミ「『君の名は。』完全解説と、『な
つぞら』『ガンダム THE ORIGIN』、プラス6月のお便り&ステッカープレゼント
」からハイライトをお届けします。
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## 『君の名は。』と『Gu-Guガンモ』のドラマ構造
【画像】スタジオから
https://epbot.site/img/semi/nico_190630_01640.jpg
じゃあ、『君の名は。』の話に行きましょうか。
今日の第1特集です。新海誠監督の『君の名は。』ですね。
これについては、まず、映画公開当時に僕が語った解説があるので、その録画
映像を見ていただきたいと思います。
2016年、今から3年前の9月4日に、サロンのオフ会で語った、ほぼ10分間の映
像です。
この録画映像が終わった後に、また生放送の方に戻りますので、そのままお待
ちください。
それでは、岡田斗司夫ゼミの2016年9月4日号として公開した、3年前の映像で
す。よろしくお願いします。
(録画映像開始)
【画像】サロンオフ会映像
https://epbot.site/img/semi/nico_190630_01733.jpg
『君の名は。』というのは、飛騨の山奥に住んでいる女子高生・三葉と、東京
に住んでいる男子高校生・瀧の話です。
……ネタバレですよ。大丈夫ですね?
ある日、この2人のお互いの身体が入れ替わっちゃった、と。
まあまあ、「わあ! 俺、女の子になっちゃった! ……おっぱいモミモミ」み
たいなやつがあって、「わあ! 私、男の子になっちゃった! おしっこに行く時
に、なんか変なものがついてる!」みたいなものもあります。
で、お互い、自分が持っている携帯にメッセージを残すことを思いついて、2
人のコミュニケーションが始まる。一度も会ったことのない2人は、徐々に互い
に気になる存在になりました。
それと同時に、映画の中でも最初から語られるのが、1200年に一度、地球に接
近するティアマト彗星ですね。この彗星が、どんどん近づいて来る。
実は、この女の子というのは、3年前に死んでいるんです。
「お互いの身体が入れ替わった」と思ってたんですけど、実は「3年前の女の
子と、現代の男の子が入れ替わった」という話で出来ています。
ティアマト彗星は、地球に近づいて来る時に2つに分かれて、彗星の欠片が女
の子の住む村に落ちて来て、その村全てが消えてしまう。「これを知った2人が
、なんとかして全滅してしまう村からみんなを逃がそうとする」というのが、お
話のクライマックス辺りのプロットになっています。
結局、ちゃんと成功はするんですけどね。
瀧と三葉という2人の高校生は、その消えてしまった村の、クレーターの端で
、黄昏時、逢魔が時に出会うんですね。
その時間だけ奇跡が起こって、時間を超えて2人は出会う。お互いに「あなた
のことは絶対に忘れない」と言い合って、「みんなを助けよう」と決意する。
しかし、確かに覚えていたはずなのに、2人共、記憶がどんどん薄れて行くん
ですね。絶対に忘れたくない、覚えておきたいことなのに、どんどん忘れてしま
う。
それでも、肝心なことだけは覚えていて、「このままでは村が滅びる。だから
何とかして、村の人を騙してでもいいから、避難させなきゃいけない!」という
ことで、女子高生の三葉は、学校の放送部から嘘の避難放送をして、村の人を動
かそうとするんです。でも、村の人は動いてくれない。
そこで、村長だったか町長だったかをやっている三葉のお父さんに、話をしに
行って、「最初は信じてもらえなかったのに、最後は三葉の熱意がなぜか通じた
ような形になって、協力してくれて、みんな助かる」という話になる。
で、最後、もう、それから10年後くらいに、2人は東京の街で偶然出会うんで
す。
それまで、2人共「何かが足りない。自分は何かを探しているはずだ。何か思
い出せなかったことがあったはずだ」という思いを抱きながら、10年くらい生き
てたんです。だって、お互い、もう名前も何も覚えていない状態ですから。
そんな中、東京の街で偶然、出会った2人は、お互い振り返って、「君の名は
?」というのを聞き合う。再会できたわけです。
その時に、「2人共、なぜか、すれ違った時から涙が止まらなかったから、わ
かった」という話になっているんですね。
「この構造、どこかで見たことあるな」と思ったんですよ。
何かというと、少年サンデー原作版の『Gu-Guガンモ』なんですね。
『Gu-Guガンモ』のメインキャラクター「ガンモ」というのは、高い空が飛べ
ない鳥だったんですけど、最終回の間際になって、やっと飛べるようになった。
そしたら、ガンモが空を飛ぶ時、なぜか、その周りで、いろんな鳥が一緒に飛ぶ
ようになるんですね。
その時から、話が「あれ? ガンモって、ダメな鳥だと思ったけど、鳥の王様
みたいだな」というふうになるんです。
そしたら、夜中に変な使者が来て、ガンモに「あなたは実は鳳凰なんです」と
告げるんですね。
ガンモって、ドラえもんみたいな、コーヒーを飲んだら酔っ払う、人間の言葉
を喋るキャラクターなんですよ。
でも、この姿は卵体という、巨大な卵だったんですね。卵に手足がついて羽が
ついた存在。だから、ちょっと飛べて話せるだけだったんですけど。その中には
、何十匹もの鳳凰の子供が入っている。
ガンモはそこで、「鳳凰というのは、人間の子供の純粋な気持ちというのを受
けて、清い気持ちのまま、この世に羽ばたかなければいけない。だから、1年間
という期間に限って、卵の状態で人間社会の中で過ごすことが必要でした。でも
、あなたの役目はもうすぐ終わります。あなたはもうすぐ消えてなくなります」
と言われるんですね。
つまり、ガンモというのは包み紙だったんですよ。元から捨てられる運命の、
1年間限定の包み紙。それが破れることで、素晴らしい鳳凰が生まれるんですけ
ど。
でも、ガンモのことを「自分の無二の親友だ」と思っている男の子や、その家
族にしてみれば、ガンモというかけがえのない存在はいなくなっちゃうんですね
。
最後は、ガンモの殻が破れて消えてしまうんですけど。その前の晩に、ガンモ
はみんなに挨拶するんですね。
「実は僕の正体は卵で、もうすぐいなくなっちゃう。でも、悲しまなくてもい
いよ。僕がいなくなった瞬間に、みんなの記憶から、僕は消えてしまうから。半
平太君、これからは僕なしでもちゃんと生きてね」と。
こんな、ドラえもんの最終回レベルの大感動の盛り上がりがあるんです。
これ、なぜかと言うと。
『Gu-Guガンモ』の作者である細野不二彦という人が、少年サンデー編集部に
最初にマンガを持ち込んだ時から、小学館の編集者は「ゲェェーッ!」って思っ
たんですよ。
「こいつ、メッチャ絵が上手い! おまけに子供向けの話が描ける! オバケみ
たいな大きいキャラクター描いてもいける! こいつは藤子・F・不二雄になるし
かない!」と。
細野不二彦って、もともと、『アクエリオン』とか『マクロス』の監督をやっ
たスタジオぬえの河森正治の友達だった人で、慶応大学の小等部の頃からSFばっ
かり描いてた人だったんですね。
それが、大学生になった頃、少年サンデーに持ち込んで「SFを描きたい」と言
ったら、「お前はそんなものを描いてはダメだ! 細野不二彦、お前は藤子不二
雄の後を継げ!」と命令されて、苦しみながら描いたのが『Gu-Guガンモ』なん
です。
まあまあ、『バクマン。』でいうと『走れ!大発タント』みたいな話なんです
よね。
そんな人が描いてるので、まあ、上手くて当たり前なんですけど。
さて、その最終回。
前の夜にガンモが、みんなに「これでお別れだよ。でも、みんなの記憶から僕
は消えてしまうから、悲しまなくてもいいんだ」という、藤子・F・不二雄ばり
の挨拶をするんです。
で、挨拶をし終わった瞬間に、その場でガンモの身体がボンッと破けて、その
中から何百匹もの綺麗な鳥がブワーっと世の中に羽ばたいていく。
この鳳凰がまたこの世界をきっと平和にしてくれる。良くしてくれる。
でも、半平太という主人公の男の子は、「ガンモのことは絶対に忘れない!
忘れない! 忘れない!」と言って、夜が更けて行く。
そして、その翌日の朝というのが、マンガのラストシーンです。
半平太が目を覚ますと、何かが足りない気がする。だけど、それが何かはわか
らない。思い出せない。
そんな中、お母さんが「もう学校に行きなさい」と言って、半平太にコーヒー
を淹れてくれるんです。コーヒーというのは、消えてしまったガンモがすごい好
きだった飲み物なんですけど。
半平太は、コーヒーを飲んだ瞬間に、なぜか涙が出てくるんです。
「自分は何かを忘れている。それは一番大事なものだったはずなのに。なんだ
ろう?」ということで、涙だけが止まらないというラストシーンなんですよ。
ものすごい感動のクライマックスなんです。
「要するに、『君の名は。』ってそういうことね」と。
「わかった。『Gu-Guガンモ』だったんだ!」と。
「泣けるあれを持ってくるのは偉い!」と、僕は思いました(笑)。
何が言いたいかというと、『君の名は。』にしても、『Gu-Guガンモ』にして
も「ハイ・ドラマ」を目指しているんですね。
それが「半平太がコーヒーを飲んだ時、なぜだかわからないけど涙が出てきた
」なんですけど。
でも、『Gu-Guガンモ』って、僕が改めて話をするまで、みんなも思い出さな
かったくらいの作品なんですよ。つまり、名作だけどマイナーなんですね。
ええとですね、今回、新海誠が挑戦したのは「作家性の諦め」なんですよ。
それまで、新海誠というのは、例えば『ほしのこえ』という「愛し合う2人が
何光年も離れ離れになってしまって、男の子の方は女の子のことをいつまでも思
っているはずなのに、勝手に結婚なんかしやがって、女の子の方は宇宙の果てで
宇宙人と戦っていて、いつか私はあの人に会える時が来るんだろうかと考えてい
る」みたいな、もう救いようのないほど切ない話を連続して描いてて、そこそこ
評価もあったんですけど。
「このままでは、俺はジブリにはなれない! 庵野秀明にはなれない!」と、
自分で思ったのか、他人から言われたのかはわからないけど。
そこからガラッと作風を変えて、「よっしゃあ、わかった! 俺はもう、中学
生や高校生、言い方は悪いけど馬鹿でもわかる映画を撮るぜ! ほら、作った!
ほら、馬鹿が泣いてる!」というのが『君の名は。』なんじゃないかな、と。
まあ、「馬鹿が泣いてる」って言ったら、言い過ぎなんですよ。
さっきも言ったように、世の中の大半の人は、そういうのしかわからないんだ
から。メジャー作家としてデビューしている以上は、みんなにわかるのものを作
るのが正しいんですね。
わかる人にだけわかっちゃったら、それはもう『水曜日のダウンタウン』にな
っちゃうんですよね。
新海誠というのは、そういう方式で十数年間、頑張ってきた上で、「ああ、こ
の方法では先が見えない」と思い直して、徹底的にベタの方向に振った。
その結果、まあ、大ヒットしてるんじゃねえかなというふうに思います。
(録画映像終了)
……いやあ、2016年の俺は、ものすごく口が悪いね(笑)。
今だったら、まず、言わない言い方してます。「3年前の俺は、もう怖いもの
なんてなかったんだなあ」と思いますけど。
本当に口が悪くてビックリしました。
コメントで、ちょっと聞かれたんですけど、『君の名は。』というのは、SFな
んですよ。
というのも、科学的な縛り、例えば「複雑に混じっている世界線」とか、「タ
イムパラドックスの矛盾」とか、「ティアマト彗星の軌道」とか、そういう科学
的な縛りというのを、全部、楽しんで使いこなしてる。
この感覚がSF特有だと思うんですけどね。
さっき話した中で「ベタ」っていうのは何かというと、「わからない人にもわ
かるような感動をさせる表現」というのを、ベタと呼んでいるんですけど。
同時に、「作家性の諦め」というふうにも言いました。
これはどういう意味かというと、「自分の中で考えた、ストーリーとかテーマ
を作家性にするのではなく、自分が持っている絵の力、絵の表現というのを作家
性と決めた」ということです。
その結果、ドラマ部分というのは、あえてベタの方に思い切って持っていっち
ゃった。そういうところが、『君の名は。』のすごいところだと思います。
絵の力というのは、例えばどういうものかと言うと。
『君の名は。』にタイムラプス的な表現というのが出てくるんですよ。タイム
ラプスというのは、「日が昇って、その後、日が沈んでいく」というのを早回し
にして見せるみたいなものなんですけど。
これは、『AKIRA』というアニメの中で使われた、ストリーク表現のようなも
のなんです。
バイクが走る時、テールランプがビューっと後を引く。こういうのをストリー
ク表現と言うんですけど。
ストリークというのは、もともとビデオカメラのレンズの奥にある光学センサ
ーの限界によって発生するものなんですね。ビデオカメラの光学センサーの処理
速度が、現実に求められているより遅いから、光っているものが動いた場合、尾
を引いているように見えてしまう。つまりは、ビデオカメラの欠点なんですけど
。
『AKIRA』という映画では、それをあえてバイクが走るシーンに入れることに
よって、逆にリアリズムを表現したんです。
それと同じように、『君の名は。』でも、タイムラプス的な映像を入れること
によって、リアリズムを出している。
つまり、僕らが持っているリアリズムというのは「現実にどういうふうに物を
見えるのか?」ではなく、「日常的にどういう映像を目にしているのか?」によ
って出来ているわけですね。
なので、あえてビデオ風に荒くした画面にリアリティを感じる場合もある。ス
トリーク的な表現や、タイムラプス的な表現というのを、あえてアニメの中でや
ることによって、ドキッとするくらいリアリティが出る場合もあるんです。
あとは、新海誠の絵の力というのは……ちょっとこれ、説明しにくんだけど。
説明できるかな?
空に鳥の影があるんですよ。
(ホワイトボードに図説する)
【画像】鳥の影
https://epbot.site/img/semi/nico_190630_03027.jpg
すみませんね、絵が下手で。ええと、これ、わかりますかね?
太陽が沈んでて、空に鳥が飛んでるんですけど。鳥の後ろの空に、影がちょっ
とあるんですね。
これ、現実にはありえないんですよ。空に影が落ちるなんてことなんて、ある
はずがない。でも、新海誠の『君の名は。』の中には、空を飛んでいる鳥の後ろ
に軽く影が落ちているシーンが、何ヶ所かあるんですね。
これも、現実ではないんですよ。むしろ、マンガの表現に近いんですよね。
つまり、マンガの表現に近いことをあえて映像の中でやることによって、「こ
れ、なんか見た事ある!」っていう感じを出してるんですね。
僕らがそれを見たのは、さっきのストリークやタイムラプスと同じように、作
られた映像の中なんですよ。
それを、あえて入れることによって、ドキッとするようなリアリティを出す。
『君の名は。』というのは、新海誠の作家性というのを、こういった絵として
の表現の部分に限定して、テーマ的、ストーリー的なところは思い切ってベタな
方に振ってしまった。
つまり、ハイ・ドラマというのを押し付けず、ドラマの中に隠すことをしたわ
けですね。
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