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2019年04月15日22:36

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読書感想

「日の名残」 著者・カズオ イシグロ ハヤカワ文庫


英国紳士のダーリントン卿に仕えていた執事のスティーブンス。
ダーリントン・ホールの新しい主人となったアメリカ人のファラディは、自分が帰国している間にドライブ旅行を勧めてきた。
結婚退職したかつての同僚、女中頭のケントンからの手紙も来て、彼女に会いに行くつもりで「イギリスの驚異」という本に載っていたイギリスを見に行こうと出発した。

1人のドライブ旅行の最中、ダーリントン卿と過ごした2つの大戦中の思い出、ケントンとすれ違う関係、執事である父の老いと最期。
様々な過去を思い出す。

執事としての人生を悔いているわけではない。
自分は偉大な執事だとは思わないが、大きな会議や父が死んだときの執事の任務を全うしたときの誇らしさ。品格についての考え。

職分を越えることなく、弁えた執事ぶりの35年間を過ごしてきたスティーブンスだが、常に執事であるために気がつかない振りをして、自分の私生活を捨ててきたことに気がついていく。
きれいなイギリスの自然を見ながら少しずつ、自分を顧みていく。

旅の最後にケントンと再会し、別れ際のお喋り。
ケントンは時々、実現していたかもしれないスティーブンスとの人生を考えてしまうことがある、でも時計をあともどりさせることはできない、今に感謝しないとと。
スティーブンスもきっと同じことをこの旅で感じたと思う。
今ある幸せやこれから当然やってくる幸せを遠ざけることはしていけないと、もう会うことはないかもしれないから体に気をつけてと別れを告げた。

1日の中で一番いい時間は夕方だと桟橋の灯りがともる瞬間をみて静かに涙を流す。

う〜ん執事として、盲目的なまでに主人に仕える人生だったスティーブンス。
最初の頃に思い出を振り返っている頃はよかった。
真の英国紳士なダーリントン卿が第1次世界大戦後の対ドイツ政策をもっとヨーロッパのために柔和していくべきだと外交政策に動いている様子は、スティーブンスが自慢に思うくらい高潔で紳士だった。
しかし時代が流れていく中で、その真っ直ぐさや高潔さを利用されてしまい始めた。
スティーブンスは本当は心の中で気がついてはいるのだけど、執事の領分を逸脱する、真の執事とは主人の考えや決定に従うことだと蓋をしてしまったため、後世ではダーリントン卿を悪く言う人が多くなってしまった。

最初は順調だったのに、どこで歯車が狂ったのかわからないくらい、ゆるやかに失脚していったな〜
この辺はじわじわ来る怖さだった。


ダーリントン卿が対ドイツ政策のために自邸で大きな会議を開いていく中で、人手不足から執事を引退したスティーブンスの父親が再就職としてダーリントン・ホールに来た。
最初は順調に見えた父親だが、老いから来る細かなミスや体力不足による仕事の困難さが目立ち始める。
物語の山場である国際会議の最中に父親とのやりとりがあるんだけど、それも父と子よりも、先輩の執事である父に自分の仕事の完遂ぶりを見てほしいと執事である自分を優先したスティーブンス。


ミス・ケントンとの仕事のやりとりは時々衝突はあるものの、2人で終業後にココアを飲んで仕事の話をする穏やかな時間を持ったりなどしてダーリントン・ホールを切り盛りしていた。
時々、ミス・ケントンからのアプローチがあるのだが、それに気がつかない振りというか、気づいてはいけないという危険信号を自らに発してミス・ケントンの奇行だと片付けるスティーブンス。
えぇい!
ニブいにもほどがあらぁ!


結局、ミス・ケントンからの好意にも、あくまで執事と女中頭だからと気づくことをせず、自分の好意もないことにし、形にならない恋として終えた。


そして歳をとったスティーブンスは、かつての父親のように年齢からくる衰えで、完璧にこなしていた執事の仕事が思うよう振るえなくなり、初めて執事ではなくスティーブンスとしての人生を振り返ってきれいな景色の中で静かに涙を流す。

あの時、ああしていたら、もしかしたら違った今があったかもしれないという後悔は誰にでもある。
それが音もなく忍び寄ってきて、順調だった歯車をちょっと狂わせていって、でも品格のある完璧な執事を演じるスティーブンスは気がつかない振りをしてきて、人生を顧みるくらい老いてから後悔として襲ってくる。

う〜ん、まぁそんな悲観的な話でもないんだが、ドラマチックな事が起こらない人生にも山あれば谷あり、満足と後悔ありという話だな。


これも主人公の視点のみで進む話だった。
ブッカー賞もノーベル賞も取った作家さんの2冊目に読んだ本になるんだが、書き方のパターンは同じなんだな。
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