mixiユーザー(id:11669269)

2019年01月23日05:29

85 view

評判の悪い その4 完

 7 結論
 Aの供述には不自然な点があることは原審も認めているところであるが,上記の検討によって,その信用性は大きく揺らいでおり,上記のような諸事情があるにもかかわらず,これについて十分に考察することなく,証言内容が一貫している等の理由でその信用性を肯定し,決め手となる証拠も提出されていないのに,被告人の弁解を排斥して強姦の犯罪事実を認定することは,「合理的な疑いを超えた証明」の点から大いに問題があるといわなければならない。
 裁判官古田佑紀の反対意見は,次のとおりである。
 私は,事実認定に関する当審の審査は,原判決の認定が論理則,経験則に照らして不合理といえるかどうかという観点からなされるべきであるという点については異論はないが,本件において原判断の証拠評価及びこれに基づく認定に経験則に照らして不合理はなく,上告を棄却すべきものと考える。以下,その理由を述べる。
 1 多数意見は,脅迫行為等に関するAの供述が状況等から見て不自然であるとする。
 しかしながら,通行人が相当数ある路上で脅迫行為,時には暴行も行われることはまれではない。また,性犯罪においては,被害者(多くの場合女性)が,威圧的な言動により萎縮して抵抗できなくなる場合が少なくないのが実態であって,警戒していない相手が,態度を豹変させて,粗暴な威圧的言動を示すと,恐怖を感じ,パニックに陥るのはよくあることである。女性を萎縮させ,心理的に抵抗ができない状態に追い込むには,多くの場合,粗暴な威圧的態度を示すのみで十分であることは,つとに指摘されているところである。「殺すぞ」という明白な危害の告知を受けた場合に抵抗できない状態になることに何の不自然もない。客観的,事後的には,助けを求め,あるいは逃げることが容易であると認められる状況や機会がありながら,積極的にそのような行動に出ることができず,抵抗しないまま犯人の意のままになっていることもしばしば見られる。警察官がすぐ近くにいても助けを求めることができないことも珍しくないのであって,交番が近くにあるということにさして意味はない。被害者としては,周囲の者が怪しんで声を掛けるなどしてくれ,犯人が断念することを願うにとどまることも多い。通行人がいる路上であるから脅迫行為が行われることは通常考えられないとか,容易に逃げたり助けを求めることができる状況があるのに被害者がこれらの行動に出ないのは不自然である,あるいは抵抗を試みていないのは不自然であるというような考えは,一見常識的には見えるものの,この種犯罪の実態から乖離したものであって,現実の犯罪からはそのような経験則や原則が導かれるものではない。このようなことは,性犯罪に関する研究等においてもしばしば指摘されているところであり,多くの性犯罪を取り扱う職務に従事する者の共通の認識となっているといえる。
 本件の状況からも,Aが脅迫されたという路上は,ホテルの入口の前付近であるが,すぐ側は駐車場であり,通行人は若干いた程度と認められ,脅迫するために大声を出す必要はないのであるから,通行人等に気が付かれないようにAを脅迫することに困難があったとは考えられないし,被告人は袖を引っ張るなどしてAに威圧を加えながら本件ビルに至ったというのであって,Aの行動が不自然とはいえない(なお,本件のように,路上で行きずりの女性に働き掛けるような場合,やるだけやってみるという域を超えて,あくまで執拗に目的を実現しようとすることは,必ずしも多くないものと思われるし,相手方も,単に恐怖を感じたのみにとどまった場合は,被害申告をすることはほぼないのが実際であろう。)。
 なお,本件脅迫は,Aが話を打ち切って立ち去ろうとしたことを受けて行われたというのであるから,唐突というより態度を豹変させたということが相当であるし,Aが当時キャバレークラブに勤務しており,接客業務の経験があるとしても,そのことが路上で見知らぬ男から「殺すぞ」と脅迫された場合に抱く恐怖感に影響するような事情とはいえない。
 また,この種の犯罪に関しては,通行人等も,よほどの異常を感じない限り,男女間の問題と考えて見ないふりをすることが多い。本件においては,警備員が目撃しているところ,夜7時過ぎ頃マンションの居住者と思われない男女が人目につきにくい屋上に出る階段の踊り場に入り込んでいたのであるから,警備員としては注意するのが適当であったとはいえようが,プライバシーに介入することとなることを恐れて放置することは十分あり得ることである。
 被告人は,自認するところによっても,本件まで,約5年間,多数回にわたり,見知らぬ女性に対し,金銭を提供し,あるいは金銭を提供することを装って,階段踊り場や駐車場等で手淫等の性的行為をさせることを繰り返し,時には姦淫に及んでいたというのであって,その中には他人に見られたことや必ずしも被告人の意のままにならない女性もいたであろうことは十分想定できるところ,上記のような点も含めて,他人の反応,女性を自己の意に従わせる手段や女性がどのような行動をとるかなどを熟知していて不思議はない。
 2 多数意見は,Aが述べる姦淫の姿勢は不安定なもので,わずかの抵抗で拒否することができるものであり,また身長差を考えればそのような姿勢で姦淫をすることは容易でないという。
 しかしながら,抵抗しないことが不自然とは言えないことは先に述べたとおりであるし,Aが述べる姦淫の方法,姿勢は,想像により容易に述べられるようなものではない一方,いわゆる立位のそれとして代表的なものの一つであり,それ自体として不自然なものではない。また,被告人とAの身長差は約22cm前後であるが,問題は股下の位置の差であるところ,日本人の平均的な身長対股下長の比率からすると,その差は,パンプスが左右とも脱げていたとしても,約10cmと推認され,姦淫行為の実行に支障があるようなものではないし,Aに,壁にもたれかかる姿勢をとらせていたというのであって,被告人の姿勢が特別不安定になるようなものでもない。
 なお,強姦は必ずしも長時間を掛けて行うものではないし,場所についても,12月27日の午後7時過ぎという時間からして,屋上は寒気が強かったと考えられる一方,屋上につながる階段踊り場は滅多に人が来ないところであり,強姦は薄暗いところで行われるのが通常といえるものでもなく,不自然ではない。階段踊り場はしばしば性犯罪に利用されているという実態もある。警備員の足音を聞いても逃げようとせず,交際中の男女を装ってやり過ごすのは,逃げ出せばかえって怪しまれることは明らかであって,むしろ常套的な手段である。
 3 膣内から精液が検出されていないという点は,膣内で射精していないと認められるので,むしろ当然のことである。そのような場合でもなお精液が検出されることがあるのは事実であるが,精液等が検出されないことが不自然であるという法医学上の知見は承知しない。また,外傷が認められない点も,Aは被告人にされるがままになっていたというのであるから,体表に外傷が生じる契機はなく,膣内についても,顕著な傷害が生じる可能性は考えられず,微細な表皮剥脱も含めて何らかの軽微な傷害が生じるかどうかは,女性の体調,年齢等によることが大きいと思われる。これらの点は,結局,Aの供述以外には姦淫行為があったことを示す客観的な証拠はないというにとどまり,それ自体不自然なことではないから,Aの供述が不自然であるという理由とはならないし,事実認定に疑問を生じさせるようなものでもない。
 4 Aが捨てたと供述するパンティストッキングが発見されていないこと,Aが捜査段階においてはパンティストッキング以外のものは買っていないと述べ,第1審においては飲物を併せて買ったか記憶していないが何か買ったかもしれないと述べていたところ,原審においてその旨の記憶があると述べているのは事実である。前者については発見されなかった理由は明らかでないが,ゴミ箱の捜査がされたのは時間が相当経過してからと思われるところ,それまでの間のゴミ箱の処理の状況等も明らかではないし,実際に捨ててもいないのに特定のゴミ箱に捨てたという,裏付けを取れば判明するおそれが高い虚偽の事実をAが作出する理由は見出し難い。後者については,多数意見は供述の変遷であるとするが,強い精神的ショックを受けた場合,強く意識したものでない行動などについて記憶が欠落していることはしばしば見受けられ,そのような場合,他の証拠から,明瞭な記憶はないものの実際はそのようなことがあったのかもしれないと考えるようになることは自然なことである。Aの供述は,飲物を買ったことの確実な記憶があるとしているわけではなく,「確実なことは分からないが,そのようなことがあった気もするようになった。」というのがその趣旨と認められる。Aは,自己の記憶について率直に供述しているものと認められ,上記の点をもって供述の信用性に疑義を生じさせるような変遷とすることは当を得たものではない。この点に関し,更に敷えんすれば,Aにとってパンティストッキングを購入したことは破れたストッキングを取り替えるという明確な意識を持った行動で記憶に残るものであるが,その際飲物を買うことは平静さを取り戻そうとする半ば反射的な行動であった可能性が多分にあり,それについて記憶が欠落することは十分に考えられる上,本件においては,警備員に抗議に行くという事態になり,Aもこれに同行したのであるから,その騒ぎのため忘れるに至ったとしても不自然ではない。また,原判断は,Aの供述のみで安易に判断したものではなく,Aが帰店した際にコンビニのビニール袋と思われるものを持っており,コンビニで買物をしたことが推認できることを踏まえたものである。
 5 多数意見は,被告人が金銭を提供するとして女性に性的行為をさせていた事実が認められ,携帯電話に保存されたそれに沿うような写真もあるし,現に被告人検挙の端緒となった本件から約1年半後の竹の塚における件(多数意見第2の2(5))において,被告人の弁解と同一の方法により,女性に手淫をさせた事実もあり,その弁解を一概に否定できないとする。
 確かに,少なくとも竹の塚の件の当時,被告人は本件で弁解するような手口をしばしば用いていたようにうかがえる。しかしながら,本件についての被告人の供述を見ると,捜査段階では3万円をおいて立ち去ったと述べ,第1審ではAが自分について下りてくれば金を渡すつもりだったが下りてこなかったと弁解していたところ,この弁解が排斥されると,原審において,空の包みを渡して立ち去った旨の弁解をするに至ったものである。第1審において上記弁解をしなかった理由について,「そのような方法で女性を騙したのは詐欺になると思った。そのことを言わなくても,路上で脅したという被害者の供述は信用されず,無罪になると信じていた」旨述べる。しかし,関係証拠によれば,被告人は,竹の塚の件において,金銭が入っている包みと空の包みを所持しているのを発見され,金の入っている包みを見せて手淫させたが実際に渡した包みは空であったことを供述するに至ったところ,金銭を提供するといって誘った事案と認められたことから事件にならないと判断されたものであって,本件で逮捕された当時,上記のような行為を供述してもそれが特に追及されることはなく,むしろ有利な弁解となり得ることは分かっていたと認められる。被告人は,竹の塚の件に関し,女性が手淫をしている動画があったことが事件とされなかった主な理由であるかのように供述するが,関係証拠とそごがあり,虚偽と言わざるを得ない。被害者の話が信用されることはないと思っていたという点は,そのように思う根拠が不明である。原審における弁解は,携帯電話への着信を装うことも含め,竹の塚の件の際の弁解と酷似しており,第1審における弁解がいれられなかったことから,事件とされなかった竹の塚の件を利用した疑いを否定できない。金銭の提供に関する供述は合意による行為と認められるかどうかに関し重要なものである。金銭の提供を申し出て誘ったという限度では被告人の供述は一貫しているが,その具体的態様については,上記のとおり,金銭の提供の有無を含め,大きく変遷しているのである。抽象的には趣旨が一貫しており,かつ被告人の立場における供述であることを考慮しても,その述べる具体的態様がこれほどに大きく変遷している場合,客観的に明白な裏付けがあるなどの事情がなければ信用性を認めるのは困難である。なお,女性に手淫等をさせている写真等があるとしても,すべてが金銭の提供を約束してさせていたものということはできない。
 Aに手淫をさせたという状況についても,被告人は,床に出すので携帯で撮影させてほしいといって手淫させ,実際はコートのポケットに入れた包みが空であることが直ちに確認されないようにするため,Aの右手の手のひらに射精し,撮影したと弁解するが,手淫をしている手である右手の手のひらで精液を受けさせるように射精するということが可能か疑問である上,Aは,被告人が床に射精するものと考え,手のひらに射精されることを予期していなかったことになるから,反射的に手を離すのが自然と思われ,精液を受けさせた右手を撮影するということも想定し難い。また,手のひらのみならず,コートの袖口にも掛かったのであるから,被告人が述べるような経緯であれば,Aは,抗議や苦情を言うのが自然であるところ,そのような状況は被告人の供述からも現れない。
 その他にも,被告人の供述は,原審が詳細に指摘するように,重要な点の変遷が随所に見られる。総じて,被告人は自己に不利益と考える事実は当初は述べようとせず,状況を見ながら弁解を転々と変更している様子が顕著にうかがえ,また,不自然な点が多々あり,このような被告人の供述に信をおくことはできない。被告人の原審供述が,当時の状況や客観的事実と積極的には矛盾しないとしても,それは,被告人が嘘であった旨を自認する様々な供述についても同様にいえることである。被告人の供述に積極的,具体的に信用性を認めるべき事情はなく,その弁解が客観的状況によく整合するというような評価には無理があると思われる。
 一方,Aは,当時店で使用するおつまみなどを買いに行く途中であり,被告人の主張するような誘いに応じるとか,見せ金をして誘うような手の込んだことを被告人がするようなゆとりのある状況であったとは考えにくい。また,Aが店に戻った際の様子は,震えて泣いており,他の従業員が明らかに強い異常を感じるものであったことが認められるし,本件から約1年半を経過して当時の勤務先を辞めているなどの変化があっても強い処罰感情を維持している。そのような事情は,騙されて結果的に不本意な行為をさせられたという怒りよりも,意に反する屈辱的な行為を強制された反応として自然なものである。
 6 原判断は,多数意見が指摘するような問題を踏まえて,第1審及び原審における2回にわたるAの証人調べや数回にわたる被告人質問を含む事実調べを行って慎重に判断したものであって,その内容も経験則に照らし不合理な点はない。社会的,一般的な経験則を用いる範囲を越えて,妥当する限度や実証性が明らかでない知見を働かせ,不完全な証拠を無理に分析し,憶測や推理を働かせて不合理な部分を繕うようなことをすべきでないということはそのとおりである。このことは有罪,無罪のいずれの方向についても変わるところはなく,その観点から見ても,原判断は,十分な具体的根拠に基づく合理的なものである。
 本件について当審が介入すべき理由は認められない。
 検察官飯塚和夫 公判出席
(裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫 裁判官 須藤正彦)


0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2019年01月>
日 月 火 水 木 金 土
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

最近の日記

もっと見る