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2019年01月23日05:22

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評判の悪い強制性交無罪の最高裁平成23年7月25日判決はどのような事件か

評判の悪い強制性交無罪の最高裁平成23年7月25日判決はどのような事件か
            弁護士 岡本 哲
  平成18年12月27日午後7時の千葉の繁華街で、犯行当時被告人48歳、被害者18歳(クラブ勤務)というもので姦淫既遂で起訴され、手コキフェチの被告人に無罪がでた事件です。手コキフェチが姦淫しようとはしないだろう、という感覚は1審2審の裁判官にはなかったのでしょうか。
刑集ではなく裁判集ということで事例判決という扱いです。裁判集になると大きな裁判所の資料室とか法学部図書館でないとみえません。判例検索ソフトと判例時報にはいったのでわりと簡単にみることができます。

この判決は、人権団体からはいろいろと批判されています。『性暴力と刑事司法』2014年『逃げられない性犯罪被害者――無謀な最高裁判決』2013年など。最高裁判決だけみると多数意見通り無罪と思えます。1審2審有罪で最高裁破棄というのは平成元年の新潟ひき逃げ事件とかありますが、弁護人にとっては宝くじにあたるような、珍しい事態ではあります。
 特殊な性的嗜好の説明とかこのような話をきらう学生がいるような環境ではセクハラとかアカハラとかいわれかねないので大学での教材としては困難そうです。
井田良(まこと)『講義刑法学・各論』有斐閣・2016年110頁では、暴行脅迫の程度のところで、が強姦罪(刑法177条は平成29年改正で強制性交罪になっています)の被害者の犯行を抑圧する程度に達していない場合は強要罪で処罰可能だ、としています。犯行を抑圧する程度の暴行・脅迫については、被害者の同意について錯誤がないというメルクマールではないか、と指摘されています。
千葉捕捉意見は説得力あります。判決文でもろにでているわけではないですが、いわゆる玄人女性に高額報酬(3万円?相場の3倍以上)で手コキをもちかけて実際は金を払わないということを繰り返していた、被告人がこのときだけ姦淫既遂目的というのは不自然不合理とは思われます。古田反対意見はこの点を克服できていません。パンティストッキングの現物がでてこなかったことも検察側にはいたかった。
そのうえで脅迫文言及び前後の被害者の行動等に相当くいちがいがあります。

 欺罔して手コキをさせたことは平成29年改正でもフォローされていないから、刑法177条にはあたらないようです。精液かけたりしたことの証拠保全ができていたら迷惑防止条例とかにはあたりますから複数やっていたら3年くらいの刑にはなりそうです。

 被告人の性的指向の事情もあったうえでの被害者の供述の変遷と姦淫既遂に関しての客観的事実の齟齬があります。
2019年段階なら、都会のまちなかでの既遂ならすぐ婦人科で証拠保全したり、事後的避妊をしないのも、いまなら不合理ということになりましょうか。

 強姦既遂で被害弁償なしなら懲役4年は当時の相場でしょう。昭和のころからすると5割増しくらいです。


強姦被告事件
【事件番号】 最高裁判所第2小法廷判決/平成22年(あ)第509号
【判決日付】 平成23年7月25日
【判示事項】 通行中の女性に対して暴行,脅迫を加えてビルの階段踊り場まで連行し,強いて姦淫したとされる強姦被告事件について,被害者とされた者の供述の信用性を全面的に肯定した第1審判決及び原判決の認定が是認できないとされた事例
【判決要旨】 通行中の女性に対して暴行,脅迫を加えてビルの階段踊り場まで連行し,強いて姦淫したとされる強姦被告事件について,暴行,脅迫及び姦淫行為を基礎付ける客観的な証拠がなく,被害者とされた者の供述があるのみであるという事情の下では,その供述の信用性判断は慎重に行うべきであって,供述内容に不自然な点や変遷があることなどからすると,その供述の信用性を全面的に肯定した第1審判決及び原判決の判断は不合理であって是認できない。
       (補足意見,反対意見がある。)
【参照条文】 刑法177前段
       刑事訴訟法317
       刑事訴訟法411
【掲載誌】  最高裁判所裁判集刑事304号139頁
       裁判所時報1536号276頁
       判例タイムズ1358号79頁
       判例時報2132号134頁
       LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 季刊刑事弁護76号27頁
       警察学論集68巻2号118頁
       法律時報85巻8号118頁
       主   文
 原判決及び第1審判決を破棄する。
 被告人は無罪。
       理   由
 弁護人前田裕司ほかの上告趣意は,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 しかしながら,所論に鑑み,職権をもって調査すると,原判決及び第1審判決は,刑訴法411条3号により破棄を免れない。その理由は,以下のとおりである。
 第1 本件公訴事実及び本件の経過
 本件公訴事実の要旨は,「被告人は,通行中の女性(当時18歳)を認めてにわかに劣情を催し,同人を強いて姦淫しようと企て,平成18年12月27日午後7時10分頃,千葉市中央区内の路上において,同人に対し,『ついてこないと殺すぞ。』などと語気鋭く申し向けて脅迫するとともに,同人のコートの袖をつかんで引っ張るなどの暴行を加え,同人を同所から同区内のビル北側外階段屋上踊り場まで連行し,同日午後7時25分頃,同所において,同人に対し,同人を壁に押しつけ,左腕で同人の右脚を持ち上げるなどの暴行を加え,その反抗を困難にした上,無理矢理同人を姦淫した。」というものである。
 本件公訴事実について,被告人は,本件当日,報酬の支払を条件に上記女性(以下「A」という。)の同意を得て,本件現場にAと一緒に行き,手淫をしてもらって射精をしたが,現金を渡さないまま逃走したと供述し,暴行,脅迫及び姦淫行為の事実を否認したところ,第1審判決は,本件公訴事実のとおりの被害を受けたとするAの供述の信用性を認め,公訴事実と同旨の犯罪事実を認定し,被告人を懲役4年に処した。被告人からの事実誤認を理由とする控訴に対し,原審は,改めてAの証人尋問を実施した上で,Aの第1審及び原審での供述の信用性は十分認めることができるとして,第1審判決の事実認定を是認し,控訴を棄却した。
 第2 当裁判所の判断
 1 当審は法律審であることを原則としており,原判決の事実認定の当否に深く介入することにはおのずから限界があり,慎重でなければならないのであって,当審における事実誤認の主張に関する審査は,原判決の認定が論理則,経験則等に照らして不合理といえるかどうかの観点から行うべきであることはいうまでもない(最高裁平成19年(あ)第1785号同21年4月14日第三小法廷判決・刑集63巻4号331頁参照)。
 2 関係証拠によれば,次の事実が明らかである。
 (1) 被告人は,平成18年12月27日午後7時10分頃,京成電鉄の千葉中央駅前の歩道付近で,たまたま通り掛かったAに声を掛け,会話を交わし,その直後に,被告人とAは,同所から約80m離れた本件ビルに歩いて移動し,階段を上り,本件現場に至った。被告人とAとは初対面であった。
 (2) 本件は,同日午後7時25分頃,本件ビルの北側外階段屋上踊り場において発生した出来事であり,その際,被告人は射精し,その精液がAの着用していたコートの右袖外側の袖口部分の表面及び裏面に付着した。被告人は,射精後,本件現場を離れ,1人で本件ビルから立ち去った。
 (3) 本件ビルの警備員は,同日午後7時20分頃,制服を着用して本件ビルを警備のため巡回した際,本件現場にいた被告人とAのすぐ近くを通り掛かったが,そのまま通り過ぎた。
 (4) Aの勤務先飲食店の経営者及び従業員は,Aを伴い,同日午後8時30分頃,本件ビル地下1階の警備室を訪ね,警備員らにAが本件現場で強姦被害に遭った旨を訴えたが,警備員らと口論となり,警備員らの通報を受けて警察官が臨場した。その際,Aは,警察官に対し,強姦被害に遭ったことと,その際に警備員が本件現場を通り掛かったことを申告した上,その場にいる複数の警備員の中から通り掛かった警備員を特定した。
 (5) 被告人は,平成20年6月に東京都足立区内で,報酬の支払を条件にマンションの階段踊り場で女性に対し,自ら手淫行為をする様子を見るように依頼し,その同意を得て同女の手のひらに射精したのに,報酬を支払わずに逃走したため,同女が警察に被害申告する事態となり,付近で発見され,事情聴取を受けた。この件は事件にならないものとして処理されたが,その際遺留された被告人の精液のDNA型鑑定から,Aのコート袖口部分に付着した精液との同一性が判明し,被告人は,本件について検挙されるに至った。
 3 第1審判決は,Aの被害状況に関する供述については,屋上踊り場において被告人が射精し,Aが着ていたコートの右袖外側の袖口部分に被告人の精液が付着していたという事実に符合すること,下着を脱がされた際にパンティストッキングが破れたので,近くのコンビニエンスストアで新しいものを購入し,履き替えたという供述については,本件犯行直後の時間帯に同店でパンティストッキングが販売された旨の販売記録により一応裏付けられていること,勤務先飲食店でのミーティングに出席後,同店で出す飲料水等を買いに出たAが,これらを買うことなく同店に泣き顔で戻り,心配して理由を尋ねた同店従業員らに対し,本件被害事実を申告したという経緯は,Aが供述するような被害に遭った女性の行動として自然かつ合理的なものであること,警備室を訪れた際に通り掛かった警備員を識別して申告しており,事実を真摯に訴えようとしている姿勢がうかがわれること,Aが虚偽の供述をする動機が見当たらないことなどが認められ,これらに照らせば,Aの供述は,その供述内容にやや不自然な側面があることを考慮しても,全体として十分信用できる旨判示した。
 原判決は,Aの本件被害に関する供述については,�“鏗可掌紊龍侈垣莪�食店の従業員らに対する訴え及びその後の警察での供述,�△修量鵤映�9か月後に被告人が本件について検挙された段階の検察官に対する供述,�B茖運海任慮�判供述,�い修量鵤垢�月後の原審での公判供述があって,その内容は,細部についてはともかく,基本的に一貫していること,第1審及び原審での各公判供述の際に弁護人の反対尋問に対して動揺していないことなども判示して,第1審判決の上記判断を是認した。
 4 所論は,被告人から暴行,脅迫及び姦淫行為を受けたというAの供述は,供述自体が不合理,不自然であって,客観的状況ともそごしているなどとして,信用できないと主張する。
 そこで検討すると,本件公訴事実のうち,暴行,脅迫及び姦淫行為の点を基礎付ける客観的な証拠は存しない。そうすると,上記事実を基礎付ける証拠としては,Aの供述があるのみであるから,その信用性判断は特に慎重に行う必要がある。Aは,午後7時10分頃,人通りもある駅前付近の歩道上で,被告人から付近にカラオケの店が所在するかを聞かれ,それに答えるなどの会話をしている途中で突然「ついてこないと殺すぞ。」と言われ,服の袖をつかまれ,被告人が手を放した後も,本件ビルの階段入口まで被告人の後ろをついて行ったと供述する。しかし,その時間帯は人通りもあり,そこから近くに交番もあり,駐車場の係員もいて,逃げたり助けを求めることが容易にできる状況であり,そのことはAも分かっていたと認められるにもかかわらず,叫んだり,助けを呼ぶこともなく,また,本件現場に至るまで物理的に拘束されていたわけでもないのに,逃げ出したりもしていない。これらのことからすると,「恐怖で頭が真っ白になり,変に逃げたら殺されると思って逃げることができなかった。」というAの供述があることを考慮しても,Aが逃げ出すこともなく,上記のような脅迫等を受けて言われるがままに被告人の後ろを歩いてついて行ったとするAの供述内容は,不自然であって容易には信じ難い。また,Aは,本件現場で無理矢理姦淫される直前に,被告人やAのいる1m50cm程度のすぐ後ろを制服姿の警備員が通ったが,涙を流している自分と目が合ったので,この状況を理解してくれると思い,それ以上のことはしなかったと供述している。しかし,当時の状況が,Aが声を出して積極的に助けを求めることさえ不可能なものであるかは疑問であり,強姦が正に行われようとしているのであれば,Aのこのような対応は不自然というほかなく,この供述内容も容易に信じ難い。
 以上によれば,Aは,被告人に対して抵抗することが著しく困難な状況に陥っていたといえるかは疑問であり,Aのいうような脅迫等があったとすることには疑義がある。
 次に,姦淫の有無については,Aは,20cm余りの身長差のある被告人に右脚を被告人の左手で持ち上げられた不安定な体勢で,立ったまま無理矢理姦淫された旨供述するが,これは,わずかな抵抗をしさえすればこれを拒むことができる態様であるし,このような体勢においては被告人による姦淫が不可能ではないにしても容易でなく,姦淫が行われたこと自体疑わしいところである。加えて,そのように供述するにもかかわらず,本件当日深夜に採取されたAの膣液からは,姦淫の客観的証拠になり得る人精液の混在は認められなかったし,膣等に傷ができているなどの無理矢理姦淫されたとするAの供述の裏付けになり得る事実も認められなかった。このほか,Aがコンビニエンスストアのゴミ箱に捨てたと供述する破れたパンティストッキングは,直後の捜査によっても発見されていない。さらに,Aは,破れたパンティストッキングを捨てた後,当初は,コンビニエンスストアで新たにパンティストッキングのみを購入したとしていたのを,その後,コンビニエンスストアでのレジの記録からこれに符合する購入が認められないとなると,第1審では何かを一緒に購入したかもしれないとして,レジの記録に沿うよう供述を変化させ,原審では飲物を買ったような記憶があるとしており,供述内容に変遷が見られる。このように,姦淫行為に関する一連のAの供述は,不自然さを免れず,姦淫行為があったとすることには疑義がある。
 他方,被告人は,3万円の現金をチラシにはさんでAに見せながら,報酬の支払を条件にその同意を得て,本件現場にAと一緒に行き,手淫をしてもらって射精をしたなどと供述しているところ,その供述内容と同様の前記2(5)の事実が存すること,被告人は,日頃からそのような行為にしばしば及んでいた旨供述するところ,被告人の携帯電話中に保存されていた写真の中には,そうした機会に撮影されたと見られるものが相当数存することなどの事情を併せ考慮すると,本件に関する被告人の供述はたやすく排斥できない。
 5 原判決の事実認定の当否の審査は,前記のとおり,論理則,経験則等に照らして不合理といえるかどうかの観点から行うべきところ,第1審判決及び原判決が判示する点を考慮しても,上記のような諸事情があるにもかかわらず,これについて適切に考察することなく,全面的にAの供述を信用できるとした第1審判決及び原判決の判断は,経験則に照らして不合理であり,是認することができない。したがって,被告人が本件公訴事実記載の犯行を行ったと断定するについては,なお合理的な疑いが残るというべきであり,本件公訴事実について有罪とするには,犯罪の証明が十分でないものといわざるを得ない。
 第3 結論
 以上のとおり,被告人に強姦罪の成立を認めた第1審判決及びこれを維持した原判決には,判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認があり,これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
 そして,既に第1審及び原審において検察官による立証は尽くされているので,当審において自判するのが相当であるところ,本件公訴事実については犯罪の証明が十分でないとして,被告人に対し無罪の言渡しをすべきである。
 よって,刑訴法411条3号により原判決及び第1審判決を破棄し,同法413条ただし書,414条,404条,336条により,裁判官古田佑紀の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官須藤正彦,同千葉勝美の各補足意見がある。
 裁判官須藤正彦の補足意見は,次のとおりである。
 私は,多数意見に賛同するものであるが,被告人の暴行,脅迫についてのAの供述の信用性に関連して,以下の点を指摘しておきたい。
 1 関係各証拠によれば,本件当時,被告人は,年齢が48歳で,それまでの四,五年の間,見知らぬ女性に100回以上にわたり手淫等の性行為に協力させていることを自認し,現に,本件発生より約1年半後の多数意見第2の2(5)の事件においては,行きずりの女性に報酬支払を装いつつ同様の性行為に及び,携帯電話には本件より前の同様の性行為に際して撮影したとみられる淫らな写真が数多く保存されている。このことよりすると,被告人には,街頭で行きずりの女性に声を掛け,巧みに虚言を用いて金銭で刺激するなどしてその女性を性行為の場所まで被告人について来させるという行動傾向があることが看取される。しかして,一般的には,古田裁判官が反対意見で指摘するとおり,通行人がいる路上であっても粗暴な威圧的言動で女性が恐怖を感じてパニックに陥り,後日に振り返ってみれば何とも不可解なほどの無抵抗状態になって,犯人の意のままになることが実態としてあるところであるが,上記のような行動傾向や実体験の積み重ねがある被告人にあっては,強姦するため本件のような時間帯,場所で声を掛けた上,本件犯行現場のような別の場所に連れ込もうとするとしても,粗暴な威圧的言動によってAをついて来させるという手口は,上記の言葉巧みに虚言を用いて誘い込む方法が容易であり,かつ,安全であるのに比して,駅前の路上やそこから80mも離れた本件現場までの間では,Aが通行人等に対して助けを求めたりする行動に出るというリスクが大きいことが歴然としていたものである。しかして,人は,ある同一目的を達成するための手段として,自分にとって容易であり,かつ安全な行動とその逆の困難かつリスクを伴う行動との二つの選択肢がある場合は,特段の事情がない限り,前者の行動を採り,かつ,その二つの選択肢相互の落差が歴然としているほどにその傾向は顕著であるというのが,我々の経験則といえるから,被告人においても,この経験則に照らして,特段の事情がない限り,そのようなリスクの大きい手口の行動に出ることは考えにくい。しかるところ,本件においては,特段の事情は何ら証明されていないから,結局,被告人の上記の特徴的な行動傾向の下では,Aが,被告人から駅前の路上で出会った直後に唐突に,又は豹変して,「ついてこないと殺すぞ。」と言われ,そのコートの袖をつかまれたといった脅迫等を加えられたと述べる点は上記の経験則に照らして考えにくいのであって,Aの上記証言の信用性には疑問を抱かざるを得ない。原判決は,被告人の行動傾向のような重要な事実について考慮を払うことなく,Aの証言が信用できるとしているのであって,そのような信用性判断には経験則違反があるといえる。したがって,原判決の事実の認定については合理的な疑いがあるというべきである。
 2 なお,争いがない点のみを見ても,Aはその意に反して,かつ何らの対価もなしに被告人から手やコートの袖口に精液を掛けられたものであり,その後始末を余儀なくされた。このことから,Aは強い屈辱感,不快感を味わわされたことは明らかで,この点だけからでも,Aが抱いた被害感情は相当強かったことが十分考えられるところである。まして,当時18歳のAとしては,12月末の夜の階段踊り場で,右脚側でパンティストッキング,パンティ等を脱がされ,右脚を被告人の左手で持ち上げられ,姦淫され(もっとも,この姦淫の点は,符合する客観的事実がなく,判然としない。),その結果,パンティストッキングを買い替えさせられたとすれば,極めて強い被害感情を持つのは明らかであって,被告人に対して許し難い気持ちになることもまた当然と思われる。また,Aは,被告人からこのような予期しない被害を受けたため,用務とされていた買物もできないまま勤務先のキャバレークラブに戻ることとなったものであり,その説明も必要であったと考えられる。さらに,同僚従業員がAの強姦被害を受けたとの申告で勢い込んだという状況もある。これらの事情は,Aが帰店時に示していた様子の意味合いや本件現場に行くに至った経緯に関するAの供述の信用性を判断する上で,十分に考慮する必要があると思われる。そうすると,原判決が,Aにおいて捜査段階から公判段階まで一貫して脅迫等について意図的に虚偽の供述をし続ける動機は考えられないとしていることには疑問が残る。
 3(1) 被告人の駅前の路上での脅迫等の事実を裏付けるべき証拠としては,Aの供述が唯一のものであるところ,以上に述べた諸点よりするとその信用性には疑問があるから,原判決がこのAの供述部分を全面的に信用できるとして脅迫等の事実を認定した過程には,論理則,経験則等に照らして不合理な(自由心証主義の限界を超える)点があり,公訴事実について合理的な疑いを超えた証明がなされていないというべきである(もっとも,被告人の意思でAを本件現場に連れて行き,かつ,Aの着衣に被告人の精液が付着していること,被告人の供述には重要な点でにわかには納得し難い変遷があること,被告人がしばしば行ってきたという手淫関連の性行為と姦淫とは一般に密接な連続性があることなどからしても,被告人の弁解にも不自然,不合理なところがある。結局のところ,被告人の駅前の路上での脅迫等の事実については真偽不明であるということである。)。

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