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2018年11月23日23:56

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起訴された被告人の取調べを認めた最高裁昭和36年決定 弁護士岡本哲

起訴された被告人の取調べを認めた最高裁昭和36年決定
許容した例として知られる決定ですが、なるべく避けなければならない、という文言はこの判決でもはいっています。平野・法律学全集はもうでていた時代ですから否定説を意識せざるをえなかったことではあります。
リーガルクエスト刑事訴訟法 第2版 有斐閣 2018年では起訴後取り調べた検面調書の証拠能力を認めなかった福岡地裁平成15年6月24日等を引用しています。
 200件程度の刑事弁護の経験のなかではこのようなものは経験ないのですが、もしあったら異議を忘れないようにしないと。

窃盗同未遂被告事件
【事件番号】 最高裁判所第3小法廷決定/昭和36年(あ)第1766号
【判決日付】 昭和36年11月21日
【判示事項】 起訴後における捜査官による被告人の取調の適否
       起訴後作成された被告人の捜査官(検察官)に対する供述調書の証拠能力
【参照条文】 刑事訴訟法197
       刑事訴訟法198
【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集15巻10号1764頁
       最高裁判所裁判集刑事140号265頁
       判例タイムズ126号49頁
       判例時報281号30頁
【評釈論文】 警察研究48巻12号42頁
       研修164号70頁
       別冊ジュリスト1号38頁
       別冊ジュリスト32号54頁
       別冊ジュリスト51号58頁
       別冊ジュリスト74号66頁
       別冊ジュリスト89号74頁
       捜査研究434号85頁
       別冊判例タイムズ9号201頁
       判例評論45号6頁
       法学新報70巻1号45頁
       法学セミナー74号60頁
       法学セミナー75号49頁
       法曹時報14巻2号87頁

       主   文
 本件上告を棄却する。

       理   由
 弁護人松永東、同松永光、同縄雅登の上告趣意第一点について。
 所論は、単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない(なお、刑訴一九七条は、捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる旨を規定しており、同条は捜査官の任意捜査について何ら制限をしていないから、同法一九八条の「被疑者」という文字にかかわりなく、起訴後においても、捜査官はその公訴を維持するために必要な取調を行うことができるものといわなければならない。なるほど起訴後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないところであるが、これによつて直ちにその取調を違法とし、その取調の上作成された供述調書の証拠能力を否定すべきいわれはなく、また、勾留中の取調であるのゆえをもつて、直ちにその供述が強制されたものであるということもできない。本件において、第一審判決が証拠に採用している所論被告人の検察官に対する昭和三五年九月六日付供述調書は、起訴後同年九月七日の第一回公判期日前に取調がなされて作成されたものであり、しかも、右供述調書は、第一審公判において、被告人およびその弁護人がこれを証拠とすることに同意している。したがつて、原判決には所論のような違法は認められない。)。
 同第二点は、事実誤認、単なる訴訟法違反の主張であり、同第三点は、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
  昭和三六年一一月二一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐


覚せい剤取締法違反(変更後の訴因覚せい剤取締法違反,関税法違反)被告事件
平成15年6月24日
【判示事項】 起訴後に作成された検察官調書に証拠能力が認められない事例
【参照条文】 刑事訴訟法198
       刑事訴訟法322
【掲載誌】  判例タイムズ1143号192頁
       判例時報1845号158頁
【評釈論文】 研修672号27頁
       信州大学法学論集6号401頁
       法学セミナー49巻6号119頁
       主   文
 被告人を懲役八年及び罰金二〇○万円に処する。
 未決勾留日数中七〇日をその懲役刑に算入する。
 その罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 覚せい剤四袋(平成一五年押第七五号の一ないし四)を没収する。
       理   由
  (犯罪事実)
 被告人は、氏名不詳者と共謀の上、覚せい剤を本邦に輸入しようと企て、みだりに、平成一五年一月二六日、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩酸塩を含有する結晶七八九五・七一グラム(平成一五年押第七五号の一ないし三はいずれもその鑑定残量)については営利の目的で、上記同様の覚せい剤七六・二二グラム(同号の四はその鑑定残量)については営利の目的なく、スーツケース内に隠匿携帯し、中華人民共和国香港国際空港で、日本航空七五四便に搭乗するに当たり、上記スーツケースを同航空会社従業員に対し、福岡市にある福岡空港までの機内預託荷物として運送委託し、同日午後六時二七分ころ、福岡市博多区大字上臼井字屋敷《番地略》の福岡空港に到着し、そのころ、情を知らない同空港関係作業員をして、上記スーツケースを航空機内から機外に搬出させて本邦内に持ち込み、もって上記各覚せい剤を本邦内に一括輸入するとともに、同日午後六時五九分ころ、同市博多区大字青木《番地略》の福岡空港税関支署入国旅具検査場で、入国に伴う通関検査を受けるに際し、関税定率法上の輸入禁制品である上記各覚せい剤を隠匿したまま、その情を秘してこれを輸入しようとしたが、同税関支署係員に発見されたため、密輸入の目的を遂げなかった。
 (証拠)《略》
 (証拠排除)
 一 問題点
 被告人は、本件覚せい剤のうち、七六・二二グラム(平成一五年押第七五号の四はその鑑定残量。以下「取り分けた覚せい剤」という。)については、第二回公判期日の被告人質問まで営利目的を否定していた。しかし、その後、検察官は、第二回公判期日の被告人質問終了後に被告人を取り調べ、取り分けた覚せい剤についても営利目的を認める内容を含む、平成一五年四月二九日付け検察官調書(乙二九号証。以下「本件検察官調書」という。)を作成した。
 そこで、このような被告人質問施行後に作成された検察官調書に証拠能力が認められるかが問題となる。
 二  起訴後の被告人に対する捜査官の取調べの適法性に関する最高裁決定
 起訴後の被告人に対する捜査官の取調べについては、最高裁昭和三六年(あ)第一七七六号同年一一月二一日第三小法廷決定・刑集一五巻一〇号一七六四頁(以下「昭和三六年決定」という。)が、かっこ内の判断ではあるが、「刑訴一九七条は、捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる旨を規定しており、同条は捜査官の任意捜査について何ら制限をしていないから、同法一九八条の「被疑者」という文字にかかわりなく、起訴後においても、捜査官はその公訴を維持するために必要な取調を行うことができるものといわなければならない。なるほど起訴後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないところであるが、これによって直ちにその取調を違法とし、その取調の上作成された供述調書の証拠能力を否定すべきいわれはなく、また、勾留中の取調べであるのゆえをもって、直ちにその供述が強制されたものであるということもてきない本件において、第一審判決が証拠に採用している所論被告人の検察官に対する昭和三五年九月六日付供述調書は、起訴後同年九月七日の第一回公判期日前に取調がなされて作成されたものであり、しかも、右供述調書は、第一審公判において、被告人およびその弁護人がこれを証拠とすることに同意している。したがって、原判決には所論のような違法は認められない。」と判示している。
 ところで、昭和三六年決定によると、起訴後の被告人に対する捜査官の取調べが許容される条件としては、(1)第一回公判期日前の取調べであること、(2)被告人及び弁護人が証拠とすることに同意していることの二要件が必要であるかのようにも理解されるところである。
 しかし、その後、弁護人が、起訴後第一回公判期日前に被告人を取り調べて作成した検察官調書は違法な手続によって収集された証拠として排除されるべきである旨主張した事案(第一審千葉地裁昭和五五年六月二四日判決・判時九九三号二一頁)において、最高裁昭和五六年(あ)第五五一号昭和五七年三月二日第二小法廷決定・裁判集二二五号六八九頁(以下「昭和五七 決定」という。)は、「所論引用の最高裁昭和三六年(あ)第一七七六号同年一一月二一日第三小法廷決定・刑集一五巻一〇号一七六四頁は、起訴後においても、捜査官はその公訴を維持するために必要な取調を行うことができることを認めたものであり(記録によれば、所論起訴後における被告人の取調が本件公訴を維持するために必要なものであったことが明らかである。)、起訴後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないことを判示してはいるが、それ以上に、起訴後作成された被告人の捜査官に対する供述調書の証拠能力を肯定するために必要とされる具体的な要件を判示しているとは解せられない」と判示した。
 この昭和五七年決定によると、昭和三六年決定の上記(1)及び(2)の各要件は不要であるとも解されるが、昭和五七年決定は、上記のとおり起訴後第一回公判期日前の取調べの事案であることからして、その判例の射程距離は、起訴後第一回公判期日前の捜査官の取調べに関する 案に限定して(2)の要件を不要としたものであると理解するのが相当である。
 したがって、起訴後第一回公判期日後の被告人に対する捜査官の取調べに関する最高裁の判例はなく、むしろ、昭和三六年決定及び昭和五七年決定が、「起訴後においては、被告人の当事者たる地位にかんがみ、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならない」と重ねて判示していることにかんがみると、被告人に対する起訴後第一回公判期日後の取調べを無条件で全面的に許容しているとは到底 されない。
 三 裁判所の判断
 本件は、平成一五年三月二六日、第一回公判期日において、検察官の請求による証拠調べが行われたが、冒頭陳述終了後、検察官は、取り分けた覚せい剤についても営利目的で輸入したものとして起訴していること、被告人が覚せい剤を取り分けたのは運んだものが覚せい剤であることを関係者に確認させるためであると釈明した。その後、同年四月二四日、第二回公判期日において弁護人の請求による証拠調べと被告人質問が行われ、弁護側立証も終了し、同年五月一五日の第三回公判期日において、論告と弁論が行われる予定であった。ところが、検察官は、被告人質問が終了した第二回公判期日後の同年四月二九日に、否認している共犯者を起訴するためには被告人の供述が必要である旨を被告人に告げてその協力を求め、被告人自身の本件被告事件に本件検察官調書が提出されることを説明することなく、また、弁護人の立ち会いや同意を求めることもなく、被告人を被疑者として取り調べた上で、それまでの被告人の捜査段階及び公判段階での供述と相反する内容の本件察官調書、すなわち、取り分けた覚せい剤についても被告人に営利目的があったことを認める旨の本件検察官調書を作成し、その供述調書を第三回公判期日において証拠として請求し、弁護人がこれに同意したため、裁判所は証拠として採用決定の上で取り調べた。
 そうすると、本件検察官調書は、公判における被告人質問の後に、被告人質問によって更に明白になった捜査の不備を補完するために、弁護人の援助を受ける権利を与えることなく作成されたものであることが明らかである。このような検察官の取調べは、被告人の防御権を奪い、憲法三七条一項、三項の精神を没却し、被告人の当事者としての地位を侵害するものであるのみならず、従前公判期日で行われた被告人質問を全く無意味ならしめ、刑事訴訟法の当事者主義や公判中心主義にも反するものであることが明らかであると言わなければならず、このような取調べの結果作成された本件検察官調書には証拠能力は認められない。
 以上より、本件検察官調書は、証拠能力がないことが判明したので、本件被告事件の証拠から排除されるべきものと認め、職権により刑事訴訟規則二〇七条を適用して、本件被告事件の証拠として取り調べた本件検察官調書を排除する。
 (事実認定の補足説明)
 一 争点
 弁護人は、本件覚せい剤のうち、取り分けた覚せい剤について、被告人には営利目的がないので、非営利目的の覚せい剤輸入罪が成立するにとどまると主張する。
 したがって、本件の争点は、取り分けた覚せい剤について被告人が営利目的を有していたかどうかである。
 二 本件覚せい剤の発見、押収時の収納状態
 本件覚せい剤が発見、押収されたときの状況は以下のとおりである。
 (1)被告人は、福岡空港から入国した時、紺色キャリーバッグ(以下「本件スーツケース」という。)一個、緑色リュックサック一個を携行し、灰色ポーチを着用していた(甲三、九)。
 (2)本件スーツケース内には、プラスチック製手提げ袋一個が、お菓子などが被さった状態で収納されており、その中には、薄紫色地に花柄等の模様が施された包装紙の包みが二包あり、それぞれの包みの中には緑色プラスチックケースが包装紙によって三重に包装された状態で入っていた。さらに、各緑色プラスチックケースの内部には、本件覚せい剤のうち二袋(同号の一、三)が、それぞれチャック付きビニール袋に入れられた状態で、収納されていた。
 なお、チャック付きビニール袋のうちの一袋(同号の一)については、包装紙をセロテープで留めた跡があったが、そのチャックは完全には留められてはおらず、更にビニール袋の左下部分が一部破損している状態で、一部の覚せい剤が緑色プラスチックケースの内部にこぼれた状態(同号の二)であった(甲九)。
 (3)これに対し、取り分けた覚せい剤は、コンビニエンスストアの白色ビニール袋に、何の包装もなく、ケースに入れられることもないまま入れられていた。しかも、白色ビニール袋の収納口は一重に結ばれただけで、本件スーツケースの角奥に衣類などとともに詰め込まれていた(甲九)。
 三 被告人の弁解
 ところで、取り分けた覚せい剤に関する被告人の供述は、捜査及び公判を通じてほぼ一貫している。すなわち、被告人は、捜査段階において、(1)密輸入する覚せい剤は、お菓子みたいに見えるようにカムフラージュしてあるとBから聞いていたこと、(2)ところが、実際には、一目で違法な薬物だと分かってしまう大量の覚せい剤であったこと、(3)そこで、Bや組織に文句を言うための証拠として、覚せい剤を取り分けたことを一貫して供述しており、他方で、文句を言った後、取り分けた覚せい剤をどのように利用するかは供述していない(甲四、乙一四、二一ないし二四)。そして、被告人は、公判廷においても、最終的に取り分けた覚せい剤を自分のものにするつもりはなく、「本当にその品物を見た瞬間、ああ、はめられたというのが強かったものですから、文句を言ってやろうというんで一部取った」「とりあえずBに文句を言ってやろうというのが強かった」「Bにそのものを渡すというのは別に思わなかったです。」などと供述している。
 四 裁判所の判断
 被告人が取り分けた覚せい剤の量は、七六・二二グラムであって、薬剤師による検査のため、あるいは、Bらに文句を言う際の証拠とするためにしては、あまりに多量である。そして、被告人は、少年時代に覚せい剤を使用したことがあり(乙三)、しかも、本件覚せい剤をなめて味見までした(乙一四、二三)というのであるから、本件覚せい剤をあえて検査してもらうまでの必要はなかったとも考えられる。これらの事情からすると、被告人の弁解は不自然、不合理な点が認められる。また、被告人は、本件当時、仕事をしておらず、ほとんど収入がない状態であった(甲四四、乙一、四)というのであるから、被告人が取り分けた覚せい剤を売却するなどして換金することを考えていた可能性も否定できない。そうすると、取り分けた覚せい剤についても、被告人に自己又は他人の利益を図る目的があった疑いはある。
 しかし、本件では、次のような事情を指摘することができる。
 (1)営利目的で輸入した各覚せい剤(同号の一、三)が、チャック付きビニール袋に入れられた上、外部からの衝撃を防ぎうるように緑色プラスチックケースに入れられ、しかも、包装紙で丁寧に三重に包まれて、二包まとめてプラスチック製手提げ袋に収納されていたのに対し、取り分けた覚せい剤は、無造作に、収納口が一重に結ばれただけで、コンビニエンスストアの白色ビニール袋にのみ入れられ、本件スーツケースの角奥に、衣類などとともに詰め込まれていたに過ぎない。このような客観的な収納状況の違いから考えると、取り分けた覚せい剤まで他の営利目的輸入の覚せい剤と同様に考えるのは合理的な疑いがある。
 (2)また、被告人は、Bから一見して覚せい剤とわかる物を密輸入すると知らされていたわけではなく、香港から持ち帰る品物がお菓子みたいにカモフラージュされて違法な薬物とは一見して分からないようになっている、と聞かされていた(乙六、八、一四)というのであり、この供述は、被告人の妻C子が警察官や検察官に対し、被告人から「(日本に持ち込む)お菓子は、薬を混ぜたものだから、誰にも見つからない。」(甲二八、四四)などと説明を受けた旨供述していることからも裏付けられている。
 (3)さらに、被告人が本件覚せい剤を最初に見て、Bらに文句を言おうと思ったことについては、被告人自身がカメラ付き携帯電話でわざわざ本件の覚せい剤を撮影していること(甲三二)からも裏付けられている。
 したがって、被告人がBから騙されたと思って、日本に帰国した後でBらに文句を言おうと考え、その証拠とするため、本件覚せい剤の一部を取り分けたというのも、あながち虚偽の弁解とは断定できない。そして、被告人は、本件覚せい剤について、ほぼ覚せい剤に間違いないと思ったものの、覚せい剤であるとまでは確信していたわけではない(乙二三、被告人の公判供述)のであるから、知り合いの薬剤師に検査してもらおうと考えたという供述(被告人の公判供述)も、一概には排斥できないところである。さらに、取り分けた覚せい剤の量は、確かに多量ではあるが、本件覚せい剤全体の量からすると、わずか一パーセント弱にすぎないところからして、被告人が上記弁解のとおりの目的であったとしても、必ずしも不合理であるとまでは断言することができない。
 五 結論
 以上からすると、取り分けた覚せい剤の目的に関する被告人の弁解に疑わしさが残るものの、これを排斥するに足りる証拠がない一方、取り分けた覚せい剤について被告人に営利目的があったと認定するには合理的な疑いを入れる余地が十分にあると言わなければならない。
 (法令の適用)
 罰条
  営利目的輸入の点 刑法六〇条、覚せい剤取締法四一条二項、一項
  非営利目的輸入の点 刑法六〇条、覚せい剤取締法四一条一項
  密輸入の点 刑法六〇条、関税法一〇九条三項、一項、関税定率法二一条一項一号
 科刑上一罪の処理 刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として最も重い覚せい剤営利目的輸入罪の刑で処断
 刑種の選択 情状により有期懲役刑及び罰金刑を選択
 未決勾留日数の算入 刑法二一条
 労役場留置 刑法一八条
 没収 覚せい剤取締法四一条の八第一項
  本文(被告人が所持するもの)、関税法一一八条一項本文
 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法一八一条一項ただし書
 (量刑の理由)
 一 被告人にとって不利な事情
 被告人は、いわゆる運び屋として大量の覚せい剤を日本に密輸入しようとしたものであるが、営利目的輸入が成立する範囲については、報酬を得る目的で安易に本件犯行に及んでおり、その利欲的かつ自己中心的な犯行動機に酌量の余地は全くない。また、非営利目的輸入の動機についても、Bらに文句を言うためなどというものであり、およそ犯行を正当化する理由にはなりえない。
 本件において、被告人が営利目的で輸入した覚せい剤の量は、七八九五・七一グラムと非常に多量であり、仮にこれらの覚せい剤が密売されて社会に出回っていた場合、わが国の社会全体に多大な害悪がもたらされるとともに、その密売によって密売組織が多額の不法な収益を得ていたであろうことは容易に予想しうるところであり、本件は極めて反社会的で悪質な犯行である。また、営利の目的なく輸入した覚せい剤の量も七六・二二グラムとこれまた多量であり、悪質である。
 本件は、国際的な覚せい剤の密売組織による計画的な犯行の一環であり、被告人は、本件覚せい剤を本件スーツケース内に隠匿携帯した上、中華人民共和国香港国際空港発福岡空港行きの航空機の機内預託荷物として運送委託し、福岡空港に到着後は、本件スーツケースを同航空機内から機外に搬出させて本邦内に持ち込み、さらに同空港内の税関を通過しようとしたものであり、密輸入の遂行にとって不可欠というべき重大な役割を果たしている。
 以上の事情によれば、被告人の刑事責任は重大である。
 二 被告人にとって有利な事情
 他方で、幸いにして、本件覚せい剤は捜査機関に押収されて、その害悪が社会に拡散するという最悪の事態は回避されたこと、当初被告人は、より少量の違法薬物を輸入するものだと思っており、本件ほど多量の覚せい剤を輸入することまで予想していたわけではないこと、被告人は覚せい剤密売組織の手足として働いていたにすぎないこと、被告人には早期の社会復帰を願う妻子がいること、被告人は、本件犯行を反省し、知りうる限り本件犯行の全容を正直に述べて捜査に協力し、公判廷でも、大きな事件を軽い気持ちで起こしてしまい、周りの人に迷惑をかけたと述べていること、被告人にはこれまで恐喝事件による執行猶予付きの前科があるが、その執行猶予期間は無事経過していることなど、被告人にとって有利な事情も認められる。
 三 結論
 そこで、以上の事情を総合考慮して、被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。
 (求刑 懲役一一年、罰金三〇〇万円及び覚せい剤の没収)
(裁判長裁判官 陶山博生 裁判官 國井恒志 古賀英武)

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