■「共謀罪」法案、国連特別報告者が懸念 首相に書簡送る
(朝日新聞デジタル - 05月20日 18:09)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=168&from=diary&id=4581713
昨日の小説の続きを載せつつ、共謀罪の問題点を語ろう。共謀罪で「普通の人が逮捕される」「普通の人が有罪判決を受ける」というよりも、「普通の人を任意で呼び出して、取引を持ち掛け、友人を裏切らせ、目障りな市民運動家などをつぶす」というのが実際の使い方になると思う。
以下の小説では児童ポルノ禁止法という基準が曖昧な法律の危険性を書いたが、共謀罪はさらに曖昧である。また、この小説を書いた後に「司法取引制度」もできた。
「あなたの行為も共謀罪に該当する。だが、この調書にサインをすれば、あなたのことは逮捕しない」と言われた時、あなたは拒めるだろうか。
以下、2014年6月に載せた小説の再放送。
塩浜修著 「小説で学ぶ逮捕・勾留・取り調べ」 第2話の2 TPPと児童ポルノ禁止法・山田編・2
< 前回のあらすじ>
「TPPに反対する若者たちの会」の副会長・山田は、ある雑誌でTPPの問題点を取り上げているのを知って会員たちにこの雑誌を勧め、学生1人には余分に買っていた雑誌のうち1冊をプレゼントした。
しかし、この雑誌の一部に16歳の着エログラビアがあり、それが児童ポルノ禁止法に触れるとして、山田は任意で取り調べを受けていた。
今回のスタート
山田はもはや隠すつもりもなく、その雑誌を買ったこと、会員たちにこの雑誌を勧め、学生1人には余分に買っていた雑誌のうち1冊をプレゼントしたことなど全て認めた。
事実関係は実に単純であり、取り調べはすぐ済むのではないかと思った。
しかし、「TPPに反対する若者たちの会」の組織のことをあれこれ聞かれ、意外に時間がかかった。
当初はここぞとばかり、ISD条項のことなど、いかにTPPが危険なものかをアピールしたが「そういうことを聞きたいわけではないんだよ」と言われた。
聞かれるのは組織内部の人間関係など。特に会長である亀田静子県議のことについてしつこく聞かれた。
休憩時間には上沢巡査部長はどこかに行くが、必ず別の刑事が立ち会う。立ち会いというか見張り役は二人いたが、二人とも「TPPに反対する若者たちの会」について興味深げに聞いてきた。後でよく考えたら休憩中も何か聞かれるのでは休憩にならないではないか。上沢氏にとっての休憩になるだけである。
夕食休みもあったが外に行けるわけではなく、見張り役の刑事の一人に頼んで夕食を買ってきてもらい、こちらが金を払う。カツ丼をおごってもらえるわけではない。
高いのを買われては困るので、「ツナかおかかか梅のおにぎり」と頼んだ。これらなら105円くらいだろうと思ったのだ。ところが、レシートを見たら「おにぎり全品100円セール実施中」とある。だったら焼肉おにぎりを頼めば良かった。自分で直接買うのでない場合、こういう時に困る。
夕食後、上沢が「今、上に聞いてきたんだけどね、君の逮捕は無い!」と言った。
断言され、(ああ、良かった)と思った。
「反省もしてるし、協力的だしね。」ということだ。全く反省はしていないが、まあ、そういうことにしておこう。
大体、反省って、何を反省するのだ。
こっちはTPPの問題点が載った雑誌を買っただけであり、16歳のモデルが別のページに載っていたからって何を反省するのか。
上沢による取り調べは高圧的なものではなく、日常のおしゃべりのようだった。
上沢は事前に読んでいた山田のブログから、山田が飼っている兎のこと、好きな絵画の話、よく行くラーメン二郎の話
(TPP反対ということで、国産にこだわる設定にしようかとも思ったが、適度にいい加減な方がリアリティあると考えた。作者註)
の話などをはさみながら、和気あいあいと進んだのだ。
良好な関係が一気に崩れたのは調書を見た後である。
山田は勝手に会員たちにこの雑誌を勧め、学生1人には余分に買っていた雑誌のうち1冊をプレゼントしたのであり、会長の静子県議は全く知らなかった。そのことは何度も述べたのに、調書では
「亀田静子会長と共謀して行いました」と書いてあるのである。
ここは絶対違うので調書にサインせず、訂正を求めた。
「どこが違うんだよ!!」
それまで日常のおしゃべりのような雰囲気で進めていた上沢が突然怒鳴った。
「何度も言ったように、私が勝手に会員たちにこの雑誌を勧め、学生1人には余分に買っていた雑誌のうち1冊をプレゼントしたのであって、静子さんは天地神明にかけてそのことは知らない。」
怒鳴りあいが続いた。
上沢は不愉快そうに出ていき、15分ほどして戻ってきた。
乱暴に調書を打ち変えた。
今度は
「亀田静子会長と共謀して行いました」の代わりに
「亀田静子会長も知っていたに違いありません」とある。
「言ってもいないことを私の言葉で勝手に書かないでください。静子会長は知らない。私が勝手にやったんだ」
「知らないったって気づいていたに決まっているだろう」
「いや、気づいていないはずだ。」
「100%気づいていないと言えるか」
「ものごと100%なんてことはない。心の中のことまでわからないが、98%気づいていないはずだ。」
上沢は興奮したのか大声で言った。
「おまえのことなんか、どうだっていいんだよ!!この調書にサインすれば、また亀田静子県議を呼ぶことができる。後は亀田県議が気づいていなかったなら自分で『気づいていなかった』と言えばいいんだよ。違うか。あんたはこれにサインすれば良いんだ!!!」
まともな先進国がやっているように、取調べの様子を録音・録画する制度ができていたら、これで山田の勝ちである。上沢のこの発言は明らかに違法である。興奮してつい本音を出したようだ。
山田も段々読めてきた。どうやらターゲットは山田ではなく、現職県議会議員の亀田静子会長のようだ。
法律には特に男性のみが罰せられるとは書いていない。しかし、「自己の性的好奇心を満たす目的で」という条文がネックなのだろう。
警察というものが、いかに捕まえたい奴をこじつけてでも捕まえるという性質を持つとは言え、女性を児童ポルノ禁止法の単純所持罪で捕まえるとなると、恥知らずの警察も少しは「不自然だ」と思うらしい。世間が納得する形をとりたい。そこで、山田と共謀して周囲に配ったという形にしたいのだろう。
山田については、自分さえ良ければ良いと思って事実に反する調書にサインをすれば、助かるのだろう。
だが、「亀田静子会長も知っていたに違いない」という記述は明らかに事実と異なる。山田はしつこく書き直しを要求した。
上沢は「なんだよ。もう印刷したのに、紙が無駄になったじゃないか」と不機嫌な顔で言いながら調書を破り捨てた。こういうのも警察伝統のテクニックなのだろうか。
結局調書の表現は
「知っていたに違いない」から
「気づいていたかも知れません」に変わった。
「かもしれない」はそれはそうなのだが、ここまでのやり取りを考えると、わざわざこういうことを書かれること自体が危なっかしい。
「気づいていたかも知れないだろう。100%気づいていないとは言えないだろう。『気づいていたかも知れない』それは本当じゃないか。何がだめなんだ」と上沢。
山田もこのあたりで妥協した。
初めは「亀田静子会長と共謀して行いました」とあったのを
まず「知っていたに違いない」という調書にし、
さらに激しくやり取りして「気づいていたかも知れない」に変えさせたのだ。
(オレもよく頑張ったじゃないか)
(「かも知れない」と言えば、「かも知れない」のはまあ一応その通りじゃないか)
などと自分への言い訳にし、山田は調書にサインし、取り調べは深夜に終わった。
調書というのは、こちらが1人称でしゃべった形式で書かれる。ところが実際は警察側が書くのだ。そして、サインしてしまったら、中身を全て認めたかのように扱われる。殴ったり蹴ったりされるわけではないものの、サインしないと帰れないのだ。
家に戻り、これからどうするか、山田は迷った。
このままでいれば、山田本人の逮捕はなさそうだ。
だが、結局は自分の保身のために亀田静子会長を見捨てようとしているのではないか。なんて卑怯な男なんだ。
一方、山田はそんなに亀田静子会長とつながりが強いわけではない。TPP反対という点では一致しているが、別に友達というわけでも何でもない。自分の身を危うくしてまで本気で戦わなくても良いのではないか、後は静子会長本人の問題だ。
そんなことを考えているうち、涙がボロボロ出てきた。
自分はなんて卑怯なことを考えているのだ。結局、なんだかんだ言って、警察の流れに合わせていれば自分は助かるかもしれないと思ってるんじゃないか。
ずるい。汚ない。涙が流れた。
(戦おう。卑怯者にはなりたくない。)
山田は、今さらながら戦う決意をした。
(つづく)
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