再び忍び寄るオウム真理教(現・アーレフ)
スパイ送り込む教団、東京拘置所を「パワースポット」と言うアーレフ信者…カルトの脅威今もなお
2013.7.21 [westピックアップ]
公安調査庁がアレフへの立ち入り検査時に撮影した教団施設内の画像。同庁の説明によると、中央にある紙の束は、同庁職員や警察官らの画像を印刷した紙で、ペーパーナイフのような刃物で串刺しにされた状態だったという(同庁提供)
日本脱カルト協会の理事で日蓮宗僧侶の楠山泰道(65)は平成7年、オウム真理教の教祖、麻原彰晃(58)=本名・松本智津夫=が逮捕されて間もなくのころから、オウム信者を約40人脱会させた。
高校教師の経験が長く、いじめや不登校など青少年の心の問題を扱ううち、信者の親たちから相談を受けるようになったからだ。
楠山が取り組んだのは、信者にかけられたマインドコントロールを解くカウンセリングだった。
「『魔』を入れないで」と口にした女性信者
ある20代の女性信者は初対面のとき、出された水も飲まずに黙ったまま、蓮華(れんげ)座を組んでいた。楠山はテーブルに仏教書を置き、こう切り出した。
「いいんだよ。私は勝手にしゃべるから」。オウム真理教の教義や、自分がかつて積んできた日蓮宗での修行について話した。
女性はオウム真理教で教えられた呪文「真言」(マントラ)を唱え始めた。目の前に自分より優れた宗教者がいる…。教義への疑念が芽生え、動揺したのだ。ついには「エネルギーが吸い取られる。『魔』を入れないで」と会話に応じた。
これを突破口に、カウンセリングは泊まり込みで数十日間続いた。教団に戻ろうとするなどの紆余(うよ)曲折はあったが、最終的に女性は無事、脱会できたという。

脱会への第一歩
「怒ったり強制したりせず、寛容に」「子供のプライドを壊さないよう、教団から『卒業』させる前提に立ってください」
楠山が信者の親たちに伝えてきた言葉は、この18年間ほぼ変わっていない。
オウム真理教は、出家制度によって親子の縁を強制的に切らせることが社会問題となった。親を捨ててまで入信へと走らせる強烈なマインドコントロール。この呪縛を解くには、無理に教団と引き離そうとしないことが肝要だという。
粘り強く話し合いの状況を作り出し、子が自発的に応じる形にもっていくことが脱会への第一歩になる。
秘密裏の勉強会
地下鉄サリン事件以後の騒動が一段落しても、楠山のもとには相談が寄せられた。カルト宗教に入信する若者と、脱会させたい親たちは後を絶たないからだ。
カルト視される宗教団体の中には、明確な違法行為で教祖らが摘発される例もあるが、反社会的な活動を繰り返しつつ法の網をかいくぐるのが大半だという。
「そうした教団にとって、オウムは隠れ蓑にも悪しき参考資料にもなった」
楠山によれば、オウム真理教の教義は「ユートピア」そのものだった。現実社会では未熟な若者に自信を持たせ、社会経験の代わりにヨガによる修行を与えた。こうした構造は、現在のカルト宗教にも共通しているという。
入信してしまう若者の家族たちも自衛している。楠山らを講師として、加害教団の枠を超えた勉強会を、ほぼ月1回のペースで行っているのだ。8年末から170回以上開催し、通算230余りの家族が参加。いまなお秘密裏に続く。
勉強会には過去、ある教団から脱会者を装った“スパイ”が送り込まれたこともあった。
このため、家族から信者本人を通じて教団側に情報が漏れないよう、事務局は神経をとがらせる。名簿の配布は最小限にとどめ、勉強会の開催場所や日時は事前に取り決めた方法で連絡。郵送の場合は、送り主や文面を事務局からの連絡とは気づかれないよう記載する徹底ぶりだ。
風化した教訓
楠山自身、脅迫電話をしょっちゅう受けている。死の危険にさらされたこともある。「あらゆる意味でオウム問題は私の人生を変えた」。カルト宗教と対峙するには、相当な覚悟が必要なのだという。
なぜ、そこまでする必要があるのか。
楠山は「18年たったいまも、オウム事件が終わっていないからだ」と言い、その意味をこう語った。
「優秀な人材が入信した社会背景は何だったのか。どんなマインドコントロールによって、テロを実行させるまでの支配が可能になったのか。どれ一つとして解明されていない」
教訓は社会に根付かないまま風化し、ポアと称して殺人を正当化する危険な教義を唱えた麻原への帰依を説くアレフに今、若者らが入会している現状がある。
公安関係者によると、アレフ信者の間では、麻原がいる東京拘置所が半ば“聖地”と化している。「パワーを浴びる」と称し、イヤホンで麻原の説法を聞きながら建物の周囲を回ったり、蓮華座を組んで瞑想(めいそう)したりしているというのだ。
麻原をはじめ幹部13人の死刑が確定しても、逃亡犯が全員逮捕されても、オウム真理教は現代社会に色濃く影を落とし続けている。(呼称・敬称略)
この連載は小野木康雄、川瀬充久、宇都宮想、牧野克也が担当しました。
=おわり=

オウム真理教
教祖の麻原彰晃死刑囚が昭和59年、ヨガ修行道場「オウム神仙の会」を設立。62年にオウム真理教に改称、平成元年に宗教法人格を取得した。坂本弁護士一家殺害事件(元年)、松本サリン事件(6年)、地下鉄サリン事件(7年)などを起こし、一連の事件で29人が死亡、6千人以上が負傷し、麻原死刑囚ら多数の幹部が逮捕された。13人の死刑が確定している。8年に宗教法人格を失い、今は「アレフ」と「ひかりの輪」に分派して活動。両団体とも団体規制法による観察処分を受け、公安調査庁の監視下に置かれている。
オウム真理教は、2000年アレフ破たんに伴い「アレフ」と改称。
その後、さらなる改称と分裂を経て、現在は「Aleph」と称する団体、および「ひかりの輪」と称する団体が教義や信者の一部を引き継いでいる。
当時オウム幹部だった上祐氏は、「ひかりの輪」として今も続行しているが、「オウムとは違う」と言っても内容はたいして変わらない。
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