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国東のたいていの寺には「奥の院」がある。
窟(いわや)であったり、権現社だったりするが、両子寺のそれは立派な建物だ。
「私は文殊仙寺(もんじゅせんじ)の奥の院が好きだわ」
鏡子さんは急傾斜の石段を軽快に登っていく。
上には国東塔があり、さらに梵字が彫られた岩の壁がある。
「両子寺七不思議」の入り口もあるが、ここはさすがに無理だ。
奥の院にあたる建物の正式名称は知らないから、願かけ処とでも言っておこう。(主に安産祈願だという)
鏡子さんは、やはり、願かけ処には上らなかった。
左手の、説明板もない入り口をくぐった。
やっぱり、ね。
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蝋燭って、こんなに明るかったのか。
ここに来るたびに、いつも思う。
清浄な光が仏たちを照らす。
選ばれた仏たちしか、ここにはいない。
言葉はいらない。
言葉にはできない。
そして、岩のくぼみには霊水──。
百年や二百年どころではない時間をかけて滲みだした水。
しかも、ひしゃくとグラスが備え付けてある──飲んでいいのだ、粗末にしないなら。
鏡子さんは、それでも清水寺に湧く無限の水のほうがありがたいと言うだろうが、
私は、あの世からこの世に渡されるような貴い水に向きあい、涙で視界がぼやけていく。
鏡子さんが手を握ってくれているのが、かろうじてわかった。
「魂が彼岸に行ってるわよ」
行っちゃいけませんか?
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