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2024年10月03日16:29

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春日部〜20〜酒場

フォト



一ノ割駅から徒歩3分…てところか。

Bar…【heaven】
全部小文字だったか…今まで大文字で書いてたな…。


彼女が通っているという、バーだ。カウンターの店。


昭和の匂いがする古い建物…。2階に住居があるような、2軒店が連なっている…長屋スタイル。





昭和の喫茶店を雰囲気のある店に改装したような感じだ。





カウンターに6席ぐらいと、テーブルが3つぐらいあったかな。



中南米をイメージしたようなウッドスタイルの店で、手作り感漂う。奥のテーブル周辺はギターが転がってたりして雑然としていた。



便所は奥にあるみたいだ。






地元の後輩、筋肉大臣ことノブに連れられ足を踏み入れた。








…。




シノブから

「彼氏さんも連れてきなってみんな言ってるよ」

とか

「心配なのは分かるけどスーパーフリーの人達と同じ扱いするのはどうかと思う!実際に会ってみたらいい人達だってわかるよ」


とか言われた事もあり。







行くべきなのか…?







ノブもそこに入り浸っているという話なので、探りを入れるべくメールをしてみた。





「ノブさんって筋肉。大臣になってハレンチ行為仕放題…このハレンチ野郎が…」



人の彼女と酒場に出入りしている時点で文句言われても致し方ないだろう…そうだろ?



「えっ、えっ…?」


筋肉大臣はバツが悪そうだったが、



「いや、KKCの連中も…ホシノとかナシモトとかも来てるからさあ、利根ちゃんも来るといいよ、一緒に行こう」


という流れになった。



ホシノやナシモトというのは春日部を愛する『県民会』ならぬ『市民会』とも言うべきボランティア団体【春日部カスカビアンクラブ】…通称【KKC】の幹部的な連中…なのだがこの話には出て来ないかな…どうだろう、機会があれば出てくるかな。本編ではきっと…






いや、まあでもその飲み屋に行きたいかっつったら、行きたくなかったよね。




修羅場とかやだしな。




だが、俺のいない空間に彼女が通う事が危険なのだから…その集団に俺がいればよいのだとか…誰かが言ってた。シノブと…誰だったか。






行くか…






虎穴に入らずんば…





2003年9月…平日。

20時前にアパートまで迎えに来た(筋肉)大臣と線路沿いから駅の反対側へ。


シノブは21時過ぎまでバイトだと言ってたな…


メールしとこう。






2人でチャリだ。時代は平成、飲みに行くのにチャリは普通だった。








【すずらん通り】の看板をくぐりぬけ…



商店街の外れにある、住宅街の角の古い建物へ。外観は全く洒落てない…



黒文字で


『heaven』


と書き殴られた木製の看板、木枠とガラスの扉…




俺には既に諸悪の根源に見える。地獄の入口みたいな。。。




アウェーだからね…。完全アウェー…。唇を噛みしめる。






「こんちわー」

気軽に入るノブ(筋肉大臣)に続く。木目調のメキシコっぽい雰囲気というか…上になんかクルクル回ってんのよ、風車みたいの。


そして照明は黄色っぽい。


便所は奥にあるみたいだ…大事な事だから2回。



そんな感じ。





「いよぅノブ!」


カウンターの向こうで小さい丸メガネをしたおっさんが声を掛けてくる。40代後半〜50代?老け込んで見えるのは前歯が片方欠けてるからなのか。

ユニフォームではなく私服なんだろう。ベージュ系の地味な色合いのアロハシャツを着ている。


「こんちわー、今日は先輩連れてきましたよ」
(筋肉)大臣が再び声をかける。張り切ってんなお前。

「おーありがとう!お疲れ様です!ノブオの先輩?」


親しげにこちらへ話を向けてくる。



「え、ええ。そんな感じです、よろしくお願いします」


洋酒が並ぶカウンター側に頭を下げる。


なんかヘコヘコしてんな俺…情けない…のか?



「ヤヒロです、よろしくね」


グラスを2つ持ってカウンターから出てきた小柄な(…インテリヤクザと言う程の狡猾さは感じないが、なんか小悪党といった雰囲気…)おっさん。

ヤヒロ氏はニヤリと笑ってみせると挨拶もそこそこに酒が入っていると思われるトールグラスを奥のテーブル席に運んでいった。



20代ぐらいの女性客が2人。談笑しながらグラスを受け取る。


そのままおじさんは女子と話し始める、いいなあ。




…。




物欲しそうに眺めている俺に

「そこ座ろう、ビールでいい?」

筋肉(大臣)が促す。

「あ…ああ」

壁際のテーブル席に腰掛けつつ答えると



「ヤヒロさん!ビールとコーラ!」


筋肉が吠える。



ヤヒロさんは面倒くさそうにこちらを見やり

「えー、適当にやっといて」


と一言。



女の子に尻尾を振っている。良いご身分だな。







「マジか…」


筋肉は頭を掻くような仕草をして立ち上がりカウンターの中に入っていった。
 



少しして、


「あいよ利根ちゃん」


コロナの瓶ビールと自分のコーラ、ドンタコスみたいのを小皿にいれて持ってきた。



「ありがと、働いてんのお前?」


「いや、オーナーいないといい加減なんよね」


「へえ」
初めてくる飲み屋の事情にコメントは出来ず、コロナの瓶に添えられたライムを突っ込んだ。



酸味と苦みと喉越しが駆け抜けていく。喉越しが駆け抜ける…?キンキンに冷えてやがるからね。


「キンキンに冷えてやが…」





ノブから聞けた話はそんなになかったかな…




さすがに彼女も俺を裏切るような話を後輩にはしないのだろう…か。




ただ、


「一部の男連中と随分親しくしている」

とだけ。



…ただならぬ雰囲気は感じているから俺をここに連れてこようと考えたのだろうか?




…。




客は奥のテーブルの女子2人と俺と筋肉、後から来た大人しそうな男性が入口近くのカウンターに1人…店員はヤヒロさん1人。


平日にしちゃ結構入ってんのかな。

みんなくつろいでいるが俺だけが落ち着かない。


ちなみにビールとか飲んでると麻痺するのかウンコ症候群は割と緩和される。。。




…。






東武伊勢崎線の一ノ割という駅は大きくない。各駅停車しか止まらず、東口しかない改札を出るとエーエム・ピーエムと『あさひ銀行のATM』があり、右手に商店街が始まる。シノブがバイトしてるパン屋も商店街に。


左側はほぼ住宅地だ。


商店街や駅近の住宅地には居酒屋がポツポツとあるが、基本的に地元の常連が屯(たむろ)するような店ばかりで、新規開店したバーなんかが生き残るのは厳しいだろう。



現にこの店も店員が常連であろう女性客とかなり親しげにしている…


というかヤヒロさん酒飲んでるし…


俺とお揃いのビール瓶を片手に楽しくお喋りしている。。。


業績不振ならそれは立地以前の問題なんじゃねえの…?




シノブは駅前で

「新しく出来た店で売上やばいから助けて」

ビラ配りに言われて通う事になったと言うが…





完全にナンパだろ。






腹立たしくもなる。





カウンターに戻ってきたヤヒロ氏にビールのお代わりを頼んだりしてこの店の事を探る。




土日ともなれば昼間から集まって店の前でバーベキューやるとか…迷惑じゃねえかな…、もろ住宅地だぞ?店の敷地ですらない公道でって。。。

週末気が向いたら店閉めて車で六本木のクラブまで繰り出したりとか…。



なんというか…


『俺の知っている【彼女】が参加するような集団ではない』




気がする。





「シノブの彼氏なんだ?」

ヤヒロさんは人懐っこい人なのかフレンドリーに話してくる。ガラは悪いけれど。

「はい、ちょっと心配でお邪魔しました」

そういや俺のメガネ色入ってたな、金色のナイロールにクールグレー20%。


傍目にはチンピラ2人かもしれない。



「シノブ可愛いからね、うちの店の一番人気だよ」


その言い方は辞めろ…。



出入りしてる女の常連客の中で1番モテる的な意味なんだろうが…、彼氏にお世辞使っても何の意味もねぇだろそんなの…


「クラブ行った時も一番ノリが良くてさ、飛び回ってたからね、モテモテだったよ」







何してんだよ…。





何してくれてんだよ…。






…。





…コロナを飲み干す。



「すいません、なんか…強いの下さい」


やってられん…。やってられんだろ…?





テキーラを出される。








飲むでしょ…俺弱いけど…。






「お代わり下さい」













「お代わり下さい」










「酔いざましにビール下さい…」





いや〜もう…















飲まなきゃやってられないじゃないですか?




グダグダになっていく…俺。何しに来たっけ…



「利根ちゃんペース早いって…ほら水」


筋肉がグラスを持ってきた。


ありがとう…お前が彼女なら良かったかもな…。



お前男だけどな。


ヤだな。鍛えすぎたカンガルーみたいな腕してるし。







「はぁ…」




壁の方を向いてひたったように…水を飲む。
頬杖ならぬデコ杖。







凹むことしばらく…時刻は21時過ぎってところか…






「利根ちゃん利根ちゃん」

俯いている俺に筋肉が声をかける。








「…?」




「あの人だよ、ツナギの人」



いつの間にかカウンター奥に男が1人…座っていた。


こっちのテーブルを立ち去ったヤヒロさんと話をしている。

ショットバーには似つかわしくない薄汚れたツナギを着ている。





「あれが…?」






「ゴトウさんて人」



「ほう…」


何で名前知ってんだっけな俺…。


前回の別れ話の時に多少の経緯を聞いてたからか?





シュッとした男だ。





ガソリンスタンドで働いているのは見れば分かる…白を基調とした…白と赤のツナギ、仕事着だ。大分汚れている、ちゃんとしたバーなら入店断られそうなレベル。



日焼けした肌とワックスでひねりを加えたような前髪。全体的には短髪、黒髪。よくデザインされている。

やや彫りの深い端正な顔立ちに手入れされた濃いめの眉、男らしい印象に二重の瞳が柔らかさを加える。


身体は細いが筋肉質…といった印象。背も高そうだ。


…。




こりゃ勝てんかな…。




俺とて高校の時は惚れた女の子に一目惚れされた事もあるのでそこまでの低次元ではないはず…はずだが…陽キャじゃないし女慣れもしていない…。
ファッションセンスもない。




ガソスタの制服がオシャレなのかは知らないが、いかにも私服もレベル高そうな男だ。





圧倒的不利。分かっちゃいたけど。知らんけど。






ヤヒロさんと少し話をした彼はカウンターの内側に入り、自分の酒やらを用意しはじめた。



どないなってんねんこの店…。



ゴトウさんはやはりコロナビールを手に出てくると…。


こちらに向かってきた。殴りにきたのか…?




「ようノブオ、お疲れ」

「お疲れ様です」

筋肉は「です」の辺りを甲高い声にして挨拶した。たまにでる癖みたいだ。


「どうよ最近、また筋肉ばっかり鍛えてんのか」

筋肉イジリやら他愛のない話をしていたのだが、やがて回ってきたヤヒロさんから


「シノブの彼氏さんだって」


と俺の情報が漏れる。





「へえ」
ゴトウさんは一瞬固まり、しかし特に表情を変えることはなく、むしろ笑顔で

「おお〜シノブの彼氏。たまに話聞きますよ、いい子だよね」


屈託のない顔で話す。



「今日もシノブ来るって言ってたから、そろそろ来るんじゃない?」



「」




そ、そうですか…それは知らなかったな…。





話をしていくと、彼は俺の1つ年上。だから26か?バツイチらしい。


俺とは同じ中学だったらしい。面識はない。


俺からしたら恋仇だが、あちらは余裕なのだな。フレンドリーに話してくる。


モテるんならいいじゃねえかよ…人の彼女にちょっかい出すなよ…頼むから。


あー…なんか飲もう。でももう大分しんどい…


手を挙げて通りかかったヤヒロ氏に声をかける

「すいません…おかわりください…なんか…女の子が飲むようなの…」












テキーラが来る…。






飲むでしょ。飲むしかないでしょ?






「いい飲みっぷりだねぇ、酒強いんだ?」

ゴトウさんはニヤニヤとこちらを眺める。


…吐きそうです。



「いや、もう戦闘部族になってるでしょ」

ノブが苦笑する。



俺は元々アルコールあまり飲めない体質なのか、すぐに顔赤くなり更に上半身に斑点が出るので【古代戦闘部族】と呼ばれていた。




どうでもいいことだな。槍を持ってこい。





しばらくすると外から男性客が入ってきて。


「おーっす、あれ?シノブ来てるよ、外にいる」


と告げた、ゴトウさんになのか筋肉になのか。



大臣の瞬発力は早かった


「利根ちゃん!迎えに行きな!」



40秒で支度しな!みたいな。



「あ?ああ…」


ちょっとフラつきながら店を出てみる…と、扉の左…左下。要するに足元。


いた。



【heaven】の看板の下あたりに俺の彼女はうずくまっていた。顔は見えない。



「シノブ…?」


「利根ちゃん…」


彼女は組んだ腕に埋めていた顔を上げた。

気まずさで一杯の顔をしている。



「なんでいるのよぉ」


呟いて、もう一度顔を腕に沈める。





「何でって…」



お前を取り返しに来たんだよ…。




もうフラフラだけどな。





お前を取り返しに来たんだが…罠にハマってテキーラ飲まされてこのザマだ…






「もうサイアク…」


何度か店に入るように促すと、泣きそうなのか笑っちゃってるのか分からないような雰囲気で、シノブは店に入った。





「お疲れ様です」

若干の気恥ずかしさと共に挨拶をしながら、ノブと俺のテーブルに着く。





「なんできたの?」



お前を取り返しに…とは言えなかった。




「いや、ノブが行こうって…シノブも俺に来いみたいな事言ってたでしょ」


「俺のせいにしないで」
筋肉はニヤニヤしながら慌てて見せる。


「信じらんないんだけど、もぉ〜」


決してきつい言い方ではなく、彼女は言った。



他の男に乗り換えられかねない店…状況なのだが、俺の彼女として振る舞ってくれるらしい。


シノブは注文したカンパリオレンジをヤヒロさんから受け取った。


カウンターに入っていかなくて良かったよ…。







気まずさは…ある。



気を使って他に行こうとする筋肉にはいてもらう事に。



「バイトのあとはいつもくるの?」
聞かずにはいられない。



「いつもじゃないよ、たまに…」



言葉の濁し方に違和感を感じてしまう。



バイトのない日は俺に会って、バイトの後はここに来ているのだろうか…。




気を使ってかテーブルに他の常連は近付いてこない。


俺と彼女とノブの3人だけ。



たまに前を通る時に何となく冷やかしていく程度。



色々話したはずだが…あまり思い出せない。




この店での事とか聞き出そうとして、気まずくなるとノブに話を振ったり…。


小便が近くて奥の便所に行く度に常連と軽口を叩いたり。



この店で過ごす時間が彼女にとって大切なものになっている事に苛立ちを覚えたり…した。



「大切な人達…仲間だから」

目をキラキラさせて言う。



「ちょっとジェラシー…」
俺は毎週400キロ運転して会いに帰って来てたのに…なんだよそれ。





「でもこれから一緒に来れるじゃん?」

シノブは笑ってみせた。





そうかもな…




君が俺と別れる選択をしないのなら…





そうかもしれない。





グダグダの酩酊の中に少しの希望を見出す。














そして…











…気付く。














彼女の右手に指輪がない事に。
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