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2024年08月17日23:39

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春日部〜16〜袂別

2003年8月..


最終出勤の後は、送別会をして頂いた。



須坂の駅から少し歩いた所にあるバー『Hearts』はヤマグチさんとコバヤシさんが通っているという、ダーツもある洒落た店だ。そうだ。


そんなに広い店ではないが、ひたって飲みたい人もダーツやりたい人も共存できる程度の。

そんな雰囲気。らしい。




バーというものに行ってみたい。という気持ちはあったのかもしれない。



「会場どこか希望あります?」

ヤマグチさんからの電話に

「いつもお二人が行ってるってバー行ってみたいっすね。唐揚げとかあれば最高ですね」

と答えた。



…つーか俺そんなに唐揚げ好きだったっけかな…。


最近はポテトがあれば何処でも。と答えるようにしているが…。


鶏肉というのがあまり好きでなくて、みんなが「美味しい」と言っているものでも臭みを感じてしまう。

恐らく『一般に良い香り』と言われている『鶏肉の香り』を嫌いなのだろう。



しゃーない。




ただ、経験的に揚げたやつは結構いける。給食の唐揚げ然り、チキンカツ然り。


ニンニクやら生姜やらで臭みを抑えて(みんなクサイ思ってるやんけ)から衣と油でコーティングしてやれば、食感含めて美味しく頂けますよね。




ショットバーみたいなところだと、飲むのがメインになるから、送別会としてやってもらうのだから『唐揚げ』ぐらいあると食べるのメインの人も安心だろう。


という意識があったのかな、きっとそうだ。そうに違いない。どこまでもイイ人を演じる男、俺。





…。




20時閉店後…スパシオ(車)をアパートに置いて駅の反対側へ歩く。


店長の引継ぎをしたのでコバヤシさんも一緒だ、彼は店に車を置いて帰るらしい。





「こっちに歩道橋あるんで駅の反対側いけるんすよ」

長野地元民のコバヤシさんを案内して駅の反対側へ。彼は長野市民なので須坂周辺はあまり詳しくない。


車だと迂回して踏切を渡るのだが徒歩なら歩道橋を歩いて直線で西口へぬけられる。



「暗いすねえ、痴漢とか出そう」
コバヤシさんは思った事を口にする。今日の勤務中もメガネを値切っていたお客さんが店を出るか出ないかのうちに

「クセつえーなぁ!この店!面倒くせぇ客多!」

とか叫びだすのでこちらはヒヤヒヤ。


…悪気はない。






線路を越える歩道橋を渡るのも今日が最後かもしれない。ほんの数本ある街灯が照らす暗い道だ。


10回も通ってないんじゃないかな。




着任以来、東京に帰る社員と最後に飲んだりすると、この歩道橋と駅のデッキの境あたりで挨拶して別れる。という場所なので今日は




『須坂を去る自分』



を感じるのだった。



なんか哀愁漂う場所なのよね。



「コンドウさんが東京帰る前の日、飲んでここで別れたんですよね」
呟いてみる。

「あー…」

コンドウというのは同期で若里の店長だった男。業績不振で店長降ろされ東京に戻った。

「俺も長野を去ることに…感慨深いです」

「あー…」

コバヤシさんは軽く頷くのみ。明るいを通り越してお調子者の感もある。

こういうのには食いついてこない。


駅横をぬけて西側へ。コンコースを降りて一階の歩道を歩く。




駅前通りから暗い夜道を通り抜け少し行く。




「そこっすよ、迎賓館の地下」
コバヤシさんが指差す。


駅から北東へ5分ほど。大きい宴会場の敷地らしい。


『Hearts』と書かれたシンプルなネオンライトが一つ。



階段を下りて地下へ。

コバヤシさんが扉を開ける

カランカラン!

となんか鳴り、


「お疲れ様ですぅ」

元気よく入っていくコバヤシさんに続いて俺も店内に。



公休だったミヤシタさんと女性社員のサクラさん・店から直で来ていたコダマさんは既にテーブル席で談笑していた。


「店長、お疲れ様でしたあ」コダマさんは立ち上がって大きめの声。泣き笑いみたいな表情。
スタジオポリーニというブランドの薄いグリーンのメガネが上品でよく似合う。

さっき店で別れたばかりだけど改めて労いの言葉をかけてくれる、ええ娘や。



「お疲れ様です。色々ありがとうございました」

俺も無駄にかしこまる。


暫くしゃべり、勤務だったヤマグチさんとフジミが合流して、飲み会が始まった。


「明るくいきましょう!利根川さんの新しい門出に、カンパイ!」

黄金色のビール、Carlsbergと書かれたビアグラスを手にしたヤマグチさんの声かけで、

「カンパーイ!」

と一同。



エリア長のフジミが音頭を取るべきかもしれないが、奴は少し浮いていたのと、もうさっさと飲もうという雰囲気がヤマグチさんにそうさせたのだろう。30分近く待ってるからね。





俺が辞めることで、徳間店長だったコバヤシさんが須坂店長に、信州中野閉店後ラウンダー(店長公休日に店を回る=スタッフ)になっていたヤマグチさんが徳間に入った。





面倒をかけてすいません…という気持ち。
俺のせいで異動発生してるからね…不振の店を受け取る人も、責任者にされる人も、上司に逃げられる人も…ごめんなさい。



ビールを飲み干して、沈みそうになる気持ちを上げていく。上げていこう。


「私が役に立てなくて…ごめんなさい」
コダマさんはそのように言う。


俺が辞める事も、店の業績が上がらないことも、あなたのせいではない。決してあなたのせいではない。。。



仕事とはいえ客単価にこだわる会社の圧の中で、率先して接客に出てくれたので感謝しかないんですけども…。


「安いのをくれ!チラシの安いのをくれ!」というお客さんと

「高いのを売れ!とにかく高いのを売れ!」
圧を掛ける会社。

業績不振で勤務時間減らされても続けてくれて、感謝しかないです。暇な時間も有効に掃除とかしてくれたので、店はいつも綺麗だったし。。。




「いや、コダマさんのせいではないです…どう考えても」


悪いのは会社です…。


言外に滲み出てみんな苦笑する。



「お待たせしましたー」
と、バーテンのお兄さん。


唐揚げが来た。デカいやつだった。

「利根川さん!大好きな唐揚げですよ!」
コバヤシさんが声をあげる。

ザ・チキンて感じの奴で。俺はなんかこう衣と鶏皮みたいな脂ついてるのが好きかなあ。。。


「俺とり肉あんま好きじゃないんですよね」

「」

「いや、嘘です!唐揚げは大好きなんです!」

和気あいあいとしながらキンキンに冷えた生ビールと揚げたての唐揚げ。

夏の宴会に最高の組み合わせ。


助けてくれた仲間と語り合いながら旨い酒。



葬式に本人が参加できたらこんな風に楽しめるのだろうか。




飲んで、話そう。もう少しで僕は消えるけど。






ミヤシタさん(男性社員)とは同い年でウマが合ったので沢山話をした、気がする。

一緒に勤務したのも一番多かったので飯食いに行ったり寮でスーファミやったり、職場でやらかしてくれた話など、思い出話のネタは尽きなかった。

…彼女募集中なので女性陣と話をしたそうな雰囲気はでていたが…。



サクラさん(女性社員)は俺をあまり好きじゃなさそうな人で、コダマさんの隣でヤマグチさんやコバヤシさんと話すことが多かったか…俺とはコダマさんを介して少し話す程度…だったかな。



コバヤシさんとはたまに飲みに行ったりしたので、権堂という長野の繁華街に飲みに行った時の思い出話や須坂店の事を話した…かな。クレーマーの件とか、客層の話とか。


ヤマグチさんは実質長野エリアのリーダーだったので、俺はいつも頼っていた。中途入社だが実力があり兄貴分のハラシマさんと同格の人、という印象なのだが俺のような若造にも『店長』としての敬意をもって接してくれていた。

感謝しかない。礼を言い、俺が好きなヤマグチさんの前職でのエピソードを話してもらったり、彼女サンの話を聞いたりも、した。






感謝を伝えられたかどうか…


酒入るともう…グダグダでね。。。


春日部に帰る前には、挨拶に回ろう。




フジミは出会い系サイトにハマっているらしくひたすら携帯をいじっていた…。エリア長として厳しい事を言わなければいけない部分もあったのだろうが、それ以前に元々浮いていた。

そういうとこなんだよな。





「これスケベな女だよマジで」

女性陣に聞こえないように携帯の画面をチラ見せしてくる。

「ちょっと連絡してくるわ〜」

頻繁に店を出て行く。何しに来たんだかな…。





宴もたけなわ。だ。


たけなわって何やねん。


調べてみたら最高潮から少し落ち始めてくる辺りのことらしい。


じゃあ大体合ってるんだな。

それぞれが2人ぐらいで話し込んでいる様な状況になっていた。



俺はミヤシタさんと同学年コンビ。



コダマさんとサクラさんは女性2人。



ヤマグチさんとコバヤシさんは店長コンビ。




ミヤシタさんとくだらない話をしながらも、周りの会話もたまに耳に入ってくる。



…隣に陣取る店長コンビの会話が。



「結構夕方、店の前渋滞するぐらい交通量あるんですよ」
コバヤシさんが言う

「セイユー出来てから道混むようなったよね、会社帰りの人だけだったのが、買物行くから逆流もするようになったかもね」
ヤマグチさんは須坂住まいなので、周辺の動向に少し詳しい。

「即加工と無料メンテナンスを押し出して客数増やせると思うんですよね」

コバヤシさんの意気込みが伝わってくる。






ああ、なんか…な。




当たり前の話だが、脱落する俺は過去の話を。

彼らはこれからの話を。



ああ…俺は消えるのだ。



この人達の、中から。








「…すいません、ちょっと」


一人席を立って、店を出た。


階段を上がり、外へ。





夜風が涼しい。






昼は暑いが、夜はもう秋の気配。夏は終わりだ…終わり。





春日部よりは標高も高いのだろう。山から来るのか、冷たい夜風が酔った頭に心地よい。




少し歩いて、天を仰ぐ。




涙が出てきた。



なんだろうな。







辞めるのは逃げなのか





悔しいのか俺は





申し訳ないのか







やり残した事でもあるのか






なんなんだろうか。




涙があふれて、溢れて





星が滲む。





長野に来て、夜空なんか見たことあったっけか…。





やりたい事なんかないし、逃げかどうかなんか知った事か。悔しくなんかないんだからね…。








微かに嗚咽が洩れたかもしれない。







…。






悔しくなんかないんだから…。











チクショー








路肩に座り込み、しばらく。




…。




どれくらいの時間が経っただろうか。








涙は止んだ。もう戻れはしない。

みんなの中には。



戻りはしない。








メガネを外して、ワイシャツの袖を顔に当てる。





クセェし…








店に戻ろう。




コバヤシさんあたりにイジられそうだな。



Heartsのネオンは相変わらずピンクに光っている。



そういや貸し切りってわけでもなかったな。






迎賓館の敷地、入口あたりは綺麗にされた広場だ。ホテルのエントランスみたいな石畳。

人気がなくて、暗い。Heartsの看板と閉店間際と思われるお食事処の照明、少しの街灯が照らすだけ。


二階の店への上りの螺旋階段とHeartsへの下り階段がある。






「ん?」


下り階段に向かう前に人の気配に気づく。


ショートアフロみたいなクセ毛。にごつめの体。


フジミがいた。さっきもいたのか…?


奴は上り階段に座り込んで携帯をいじっていた。


「よう」声をかけてくる。

「あ…ああ、外にいたのか」


俺が泣いてんの見てたのかキサマ?


「利根川くんさあ…」



フジミはニヤリと笑い、








携帯の画面をこちらに向ける。


「この女マジエロいよ。週末会う約束入れてみたよ」



「そ、そうか…よかったな」




「でもな〜この前の女、東京まで行ったけど来なかったからなあ」








…。








お前も泣いていいぞ…。




















































続く
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