眼鏡屋のオープンは7/6だった。
ワールドカップのあった年だから2002年だ。
優勝はロナウド擁するブラジル。準優勝はカーンのドイツ…
とはいえ俺はあんま見てなかったのかな。結構世の中盛り上がってたんだけど。
オープンに先立つ事2日。2002年7月4日。俺は須坂に来た。
始発に近いぐらい朝早い電車で来たので、着いたのもまだ朝と言っていい。
のどかな電車をおりてホームから改札へ。
駅舎には名産品の紹介ということで織物関連の品物。靴下とか学生服なんかがガラスケースに飾ってあった。靴下飾るかね…
駅舎は二階建てだった。
駅前はロータリーになっていて、左にイオン。
視界右側、ロータリーの向こうに外通路のある2階建てか3階建てのビルがあって、居酒屋とかが雑居、外通路のせいでコンコース?みたいに見える。駅から歩道橋がそちらに伸びている。
駅前から向かいのビルとか見てるとなんかプチ大宮みたいな印象を持ったね。埼玉県民の俺としては。
全然違うんだけどさ。
さて、
社員四人でタクシーに乗り、店まで。5分かからず。超近い。運転手さんに申し訳ないレベル。
出張のときは経費でタクシーが許されてるらしく、近くに取ったホテルからの出勤とかもそんな感じ。
…。
店長になる時に用意して色々書いてたノートがあった筈なんだけど、無ぇな。
オープン日とか、何を買ってくるとか、何を設置するとか。
今住んでる家にあるんじゃねえかと思うんだけど…無ぇ。
適当に書こう。
新入社員研修が終わった後に山形の新店に行ったことがあったので、新店は2度目という事になる。
言われた事しか出来ないけど。
前回は店舗開発部のフジオカさんという人がいて、色々指示してくれたのだが、今回は東京営業部のクワタさんがその役割だった。
体格はよく似ている。
会社の業績がV字回復した頃で、地方への大量出店を開始した為、開発の人間だけでは足りない。というのが理由らしい。
タクシーを降りる。国道に沿った立地。眼の前には和服屋さんみたいな佇まいの日本家屋。
隣は石材屋さん。石を削って作ったアンパンマンとかドラえもんとかが国道に向けて飾ってある。
メガネ屋の店舗は小さめのコンビニ程度の広さ。国道に広く接した駐車場が手前にある、10台くらいとめられる。
国道に向けて
『コンピメガネ』
という白地に青の文字で書かれた看板が大きい。
準備初日は東京から遠征してきたメンバーだけで、二日目は長野の現地スタッフとパートさんが合流する予定だ。
んで、明後日オープンの予定。
応援の社員は1日開店準備。
俺は社宅の準備で不動産屋いったり、アパートの説明受けたりしつつ準備に参加。
戻ってみるとフォロプター(視力検査する台。検眼というのは眼科医用語で、医者じゃない俺達がつかうのはよろしく無いとか)とかが運び込まれていた。
店奥のカウンターみたいな加工台も設置されていて、什器など運び込まれたものを組み立てつつレイアウトしていくあたりから参加した。
宅配便で届いた大量の段ボールを開封し、然るべき場所に配置していく。
その中に俺の荷物も。段ボール1個。
「あ、これ利根川さんの荷物っすね」
サイトウさんが休憩室の前に寄せてくれる。彼は短髪を逆立てていて細面。何処か鶏を彷彿とさせる。
「あ、ありがとうございます」
中には衣類とエロビデオが入っているので開けられる訳にはいかない。
太めのサインペンを持ってきて
『利根川私物』
と書きなぐり、休憩室の端へ寄せる。これで良しと。
…。
……。
時間経って夕方。
「今日はそろそろ終わりやな」
1日が終わった。いや、終わろうとしている。
18時で終業にしようとクワタさんが告げる。
「お疲れ様でした〜」
「お疲れ様です」
マルヤマさんとサイトウさんが寄ってくる。
「お疲れした〜」努めて軽く返す。
今日は俺以外はホテルに行き、俺はアパートに行き、荷物を置いてから飲みに行くというということで、俺達は既にオフモード。
「あれ、なんやこれ」
店奥のレジの前でクワタさんが呟く。
「マル、この画面分かる?」
大阪の発音で呼ぶ
当然今日は売上はないのだが、開店の日に備えてレジは試運転させる。毎日立ち上げたり締めたり。
マルヤマさんが行ってしまったのでサイトウさんと二人。
「レジ不具合すかね」
サイトウさんが間をもたせようと口を開く、にこやかだがニヤついているとも言える。
「大丈夫ですかね」
こちらもなんの事なく返す
「早く飲み行きたいっすね」
サイトウさんは結構よく喋る人で
「そういや利根川さんの荷物って少ないっすね」
と続ける。何か関心を持ったようだ
「引っ越しなのに抱えられる段ボール1個って何持って来てんすか?」
おっと…衣類とエロビデオとは言えず。
「すげえ無駄のない暮らししてんすかね、生活感のない部屋とかいけんじゃないスカ?」
スカスカスカスカうるせえなこの野郎。俺のエロビ…荷物に触るんじゃねえぞ。
「あ、ああ、服だけ持ってきてんですよとりあえず」
「マジすかあ。俺なんか東京行ったときも荷物山でしたよ。まじ尊敬しちゃいますよ」
この野郎俺のエロビデオを狙ってやがるのではないだろうな…。
とりあえず段ボール箱を彼の手の届かない所に避難させたい…。
ワンショルダーのリュックを背負って、箱を持ち入口の方へ運ぶ。
「帰る準備しないと…っすね」
そそくさと。
「おい、利根川!」
クワタさんの怒声が店内に響く
「お前先輩がトラブル対応してんのに帰る準備してておかしいやろ!カバンと荷物置いとけや!お前店長やろが!」
えっ、えっ。
すいませんでした。
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