毎朝、透は僕が保育園に連れて行く。
電車から降りても僕たちはすぐに出口へ向かわない。
ホームの途中で透と僕は立ち止まる。
通過する準急や急行を見るため
その電車がホームから見えなくなるまで見送るため
時間は朝の通勤時間帯。
もちろん電車を降りた人たちは我先にと改札に通じる階段に向かう。
でも僕たちは電車が停車しない側のホームに二人で立つ。
通過する準急や急行を見るため
その電車がホームから見えなくなるまで見送るため
それが新幹線や特急のように特別な車両だったら分からないでもない。
でも普通の私鉄の普通の通勤車両。さっきまで自分が乗っていた各駅停車と何ら変わりがない。
それでも必ず通過を見送ってから階段に向かう。
いつからこのルーティンが始まったのかは記憶にないけど、昨年末にはやっていた気がするので数ヶ月単位なのは間違いない。
風が強くて寒いときは「なんでこんなところに突っ立ってるのか」と当然思うが、無理やり連れて行ったところで踏切を通過する電車を見るので実は大差がない。
待ったところで1分か2分だし、ご機嫌に保育園に行ってもらうための税金みたいなもんだと自分に言い聞かせている。
毎日毎日同じ時間に乗りもしない通過電車を見送る親子がいるから
他の乗客は「あの親子、今日もあそこにいるよ」と思っているのだろう。
当然駅員さんも気がつく。
特に話はするわけではないけど「黄色い点字ブロックの内側を…」のアナウンスのときには余計な気遣いをさせないように、さらに内側で電車を見るようにしている。
ある日いつものように通過電車を待っていたら駅員さんがつかつかと寄ってきて「電車好きだよね?」と声をかけてくれた。
透が「うん」と元気に答えたらポケットをゴソゴソしはじめて、何かをくれようとしてることは分かったが引っかかってしまってモタモタ。ようやく限定品のメモ帳をくれたけど、ちょっとの期待感と気恥ずかしさが入り混じってたし、何より指差し確認するはずの通過電車が迫ってきてたので、お礼も早々に「電車来てますよ」とか言ってしまった。
いつも見る駅員さんだし透が作ったアイロンビーズの10000系、30000系、50000系を渡すことにした。
毎朝いてくれるわけじゃないけど、持っていったその日は調度ホームにいてくれて「ありがとう」を渡すことができた。
さすがにお礼をくれるとは思ってなかったようで驚いていたが、いつもと同じ様にニッコリ受け取ってくれた。
そんな思い出がいっぱい詰まった登園も残りわずかです。
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