昭和61年・商法第1問
問題文
甲は、乙株式会社(発行済株式総額500万株)の株式一万株を証券会社を通じて購入し、株券を提示して株主名簿の名義書換を請求したが、乙会社は、当該株券につき株主名簿上の株式から盗難届が出されていることを理由に、名義書換を拒絶した。その後、300万株の株式を有する株主が出席した乙会社の株主総会において、200万株の株式を有する株主の賛成で取締役の選任決議がされたが、甲には、その総会の招集通知が発せられていなかった。乙会社の株主丙は、甲に招集通知が発せられなかったことを理由に、その決議の取消しを求める訴えを提起した。
この請求は認められるか。
株券発行会社が上場会社にほとんどいなくなった現在では意味がない問題とはいえます。中小会社ではありうるか。
甲のえた1万株の株券については即時取得が認められるので、乙が甲が株券を呈示して名義書き換えを請求したにもかかわらず、名義上の株主からの盗難届提出を理由に拒絶したのは、悪意重過失について調査不足であり、不当拒絶といえる。
したがって、甲は1万株の株主であることを、株主名簿の記載がなくても対抗しうる。
株主総会は株主全員に招集通知をなしたうえになされるのが原則であるから、甲への招集通知を欠く株主総会は甲が出席したとか委任状をだしてその決議権を行使したというい特段の事情なき限り取消原因がある。
もっとも300万株のうち1万株の脱漏であること、200万株の賛成がえられていることから、1万株の賛否がどうであろうと決議は成立するのであるから裁量棄却の余地があるが、どうであろうか。株主総会は討議を通じて総会の意思を決定するものであり、出席できなかったことはその機会を失わしめるものであるから。裁量棄却にはあたらないと解する。乙としては取消後再度総会招集をおこない、決議取消の基準時以降の取締役を再度選任することになる。
司法試験論文式 昭和61年・商法第2問
問題文
甲は、乙との売買契約に基づく代金の支払のため、乙に対し約束手形を振り出した。乙は売買の目的物を約束の期限に甲に引き渡さないまま、この手形を丙に裏書し、丙は更にこれを丁に裏書した。その後、甲は、乙に対し、債務不履行を理由として売買契約を解除し、丁は、その事実を知ったため、丙に対し、その旨を告げて手形を買い取るように求めた。丙は、これを承諾して丁からその手形の戻裏書を受け、満期に甲に対してその手形金の支払を求めた。
この場合における丙と甲との関係及び丙と乙との関係について論ぜよ。
1 丙と甲の関係について
甲が乙に対して甲が買主・乙が売主である売買契約を原因として振り出した約束手形は乙→丙、丙→丁と裏書譲渡され、甲が乙に対して売買契約を解除した後、丙は丁から、戻り裏書を受けた。
手形が有因証券であれば、甲乙間の原因関係が消失しているので、手形上の権利は甲に対して存在しないはずである。しかし、手形は独自の要式証券であること、原因関係とは別個の意思表示がなされることから、原因関係から切り離されている。これは輾転流通する手形の取引安全に資するための法的技術なので、原因関係の当事者間には手形についても原因関係は当然適用され、原因関係で抗弁事由があったとしても、手形が裏書譲渡された場合は承継されないのが原則であり、悪意・重過失の第三者には対抗できる(手形法77条1項・17条)。乙→丙→丁と裏書譲渡された段階では甲乙間の売買契約は解除されていないが、解除されることが確定的であることについて悪意または重過失であれば甲は抗弁を対抗しうる。丙から丁への段階で丁は善意であり原則として丁は甲から手形金請求は可能であったが、丙から丁の段階では丙は悪意である。ただ、戻り裏書であり、裏書譲渡の売買契約におおいて瑕疵担保責任の実施として戻り裏書の形態をとっただけとも、通常の裏書譲渡とは異なること、丙から丁への裏書を消去した場合と同様であること、その場合は丙は善意の第三者として甲に手形代金を請求できることを考慮すると、戻り裏書には手形法77条17条の基準時としては当初の手形受け取り時を基準とすべきと解する。
したがって。丙が甲が解除することについて確定的に悪意または重過失の時を除いて丙は甲に対して手形金を請求しうる。
2 丙と乙の関係について
手形所持者として裏書人の担保責任(手形法77条1項1号・15条1項)を追及しうる。丙が原因関係の解除がなされることについて悪意・重過失ある場合でも可能と解する。裏書の担保責任は意思に基づく責任だからである。ただし、裏書譲渡の原因関係に基づいて、制限されることがありうる。甲の支払いがない場合のリスクテイクを乙丙間の値段交渉のさいにやっているはずだからである。
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