ヒュー、ポンッ。ポンッ。ポンッ。
『えー、これより一名町 尾三輪ハロウィンパーティーを開催しまーす』
いぇーい! ひゅー! いいぞー!
10月31日、午前10時。一名駅を中心に小さな祝砲が上がる。
既に待っていた人、電車から降りてきた人。
一名の町に、これまでにないような人だかりが生まれていた。
いや、これを人だかりと言っていいのだろうか。
角を生やした者、獣耳を生やした者、ローブを纏った者。
人ではないモノに变化した者達が、一名の町を練り歩いていた。
電車から降りてきた者達はその様子を見てビックリしている。
それはそうだろう、彼等は『ハロウィンパーティー』のつもりでやって来たのだから。
だが、降りてみると和洋様々なモノ達で溢れかえっている様は想定外に違いない。
駅の正面にある商店街では様々な出店が用意されていた。
出店と言っても店内の椅子を外に出しただけの急拵えの店である。
だが、そこには様々な山の幸が並び、良い匂いを辺りに振りまいている。
『おーい、こっちの刈り終えた田んぼじゃ酒も振る舞っているぞー!』
商店街の向こう側から大きな声が響いてきた。
人々が稲の刈り取りが終わった田んぼを見やると、
そこでは虎柄の腰布を巻いて角を生やしたモノ達が酒を片手に盛り上がっている。
ひょいっと手渡された焼き茸と目の前の酒盛りの誘惑に抗うのは、難しかった。
「いやぁ、いきなりこんなのやるって聞いた時はびっくりしたけど何とかなるもんだ」
「ほっほっほ、そうじゃろう? 私の言った通りじゃろう?」
盛り上がる商店街の片隅で、日本酒を片手に持った商店街のドンと私は笑っていた。
===
妖達を訪ね歩いた翌日、私は彼の元を尋ねていた。
最初はびっくりしていた彼だが、私の真剣な面を見て話を聞く気になってくれた。
やはりマッスルポーズをしながらずずいっと迫ったのが効いたのだろう。
私は彼に、ハロウィンパーティーの手伝いを申し出る為にやって来たのだ。
だが、妖側のことは伏せつつ概要を説明した時は流石に苦い顔をされた。
後2週間ほどしかないのだからそれも当然といえば当然のことだ。
だが、彼も昨日の宣伝を見ていた一人である。
ねっとわーくとやらが発達した今、あの宣伝効果は凄まじかったらしい。
町にも普段見かけぬ物好きな奴等が訪れ始めていた。
「で、わざわざ主犯の一人である面ちゃんが来たって事は何か話があるんだろ?」
落ち着いた彼は開口一番そう言った。
学生の頃も抜け目なく立ち回っていた彼は、今では商店街のドンと呼ばれる男だ。
この寂れた田舎町の商店街がなんとかやっていけているのも、
彼の尽力と人柄によるものが大きいのだろう。
「ほっほ、流石に商店街の主は誤魔化せんかの」
「昨日は外人が『ゴメンナサイ』とか言ってきて思わず許しちまったがよ」
そう言いながら彼は手元の『ぱそこん』を弄りながらため息をつく。
そこには昨日の様子を撮影した様々な映像が映し出されていた。
どうやらあの宣伝は予想以上に大きな反響を生み出してしまったようだ。
「俺達には寝耳に水の話だから理由を聞かん事には納得もできやしねぇ」
「だがお前さんが欲しいのは納得じゃあるまい?」
「ああ畜生、その何でもお見通しって面が昔から気に食わねぇんだ」
「だって私、面の妖怪じゃもん」
「上手いこと言ったつもりか!」
そんな掛け合いをした後、彼は商人の面になる。
彼の目は、起こってしまった過去ではなく、今と、そして未来を見据えていた。
「ハロウィンパーティーは、やる。 この機を逃すつもりはさらさらない」
「そう言ってもらえると私達としても助かるのう」
「だが準備の時間も、金も、人手も、なにもかもが足りないのは分かるだろう?」
「ああ勿論、そうじゃろうとも」
「−−率直に聞く、どこまで用意できる?」
「人以外なら、なんでも用意するつもりじゃ」
「はぁ!?」
必死に頭の中で算盤を叩いていたであろう彼が素っ頓狂な声を上げる。
何時の世でも人が驚く姿を見るのは楽しいもんじゃのう。
「食材であれば山の秋の幸を用意しよう。酒も鬼すら酔う物を用意しよう」
「場所はどうするつもりだ、商店街にそこまでの広さはないぞ」
「今は丁度田んぼの稲も刈り終えたじゃろうから、そこを利用する」
「刈り終え後の田畑とはいえ、農家の方々にはどう説明するつもりなんだ」
「借りた田んぼには泥田坊を派遣して、夜中のうちに手伝わせる予定よ」
他の田舎の例に漏れず、ここ一名でも農家の高齢化が問題となっている。
特に田んぼの手入れ等は重労働で、腰の曲がった老人には辛いものがある。
それを人知れず手伝ってくれるというなら農家も嫌と言うまい。
「んん、まぁ確かに嫌とは言わんだろうな−−じい様、ばあ様なら特に」
「音響、明かりも狸共や狐共、塵塚怪王や化け提灯が何とかするからの」
「あぁー、道理で昨日の夜中は太鼓や笛の音がよく聴こえたわけだ」
昨日の夜の子狸達の大合奏は私の意図したことではないが、
わざわざそれを説明する必要はあるまいて。
勝手に納得し始めた商店街の主を見ながらほくそ笑む。
「お主には駅から商店街周辺の飾り付けや、交通整理等の人の手配を頼みたい」
「駅周辺以外の賑やかしはどうするつもりだ、流石に手が回らんぞ」
「田んぼの案山子連中を仮想させて並べる他、人外に見える者達が練り歩く予定よ」
「あー、あー、あー。 深くは聞かないでおく。 俺はまだ常識人でいたいからな」
妖のことを知りつつ、お互いの領分に踏み入ってこない。
だが、利用できることは深入りせずに利用するこの男のことを、私は気に入っていた。
そこから、トイレの手配や治安維持に関して話をしつつ盛り上がる。
途中、お茶を持ってきた事務員が居たが、私達を見てそそくさと逃げていった。
きっとあの娘にはよからぬ企みをしている胡散臭い者達に見えたであろう。
噂が積もり積もれば、死後にこの男も妖怪に成るやもしれんな。
その時は妖怪の先輩として色々と教え込んでやるのも楽しそうじゃな。
「ううむ、思ったよりも、いやまず間違いなくこれは成功するな」
「成功して貰わねば困るよ、なんせ毎年開催するつもりじゃからな」
「毎年!? 面ちゃん、それは本気で言っているのか」
「本気も本気よ。 まぁ、来年以降は段々と人の手に委ねていくがの」
「こいつは一体誰の発案だ? 町としては有り難いが」
「祭りの名にもあるじゃろ、『尾三輪』の社に住む夕香というモノの発案よ」
尾三輪、尾三輪ねぇと男は呟いている。
こうしておけば夕香は否が応でも関わらざるを得まいて。
事前相談なしだからまた気絶するかもしれんが、そこは私の与り知らぬところよ。
さて、こうしてあれよあれよと悪巧みは進んでゆく。
商工会議所を通じ商店街に話を通し、行政や警察に話を通してゆく。
トントン拍子に進む話の裏には謎の外人の『ごめんなさい』があったとか、なかったとか。
そして迎えたハロウィン当日。
準備を終えてその時を待った一名の町の人々の眼前には、
本当にここが地元なのかと目を疑わんばかりの人の波が生まれていた。
===
そんな一名の町を離れ、私は八幡の社へとやって来た。
そこには既に子狸、外人、幽霊。そして夕香と鈴音の姿があった。
だが、何やら揉めている様子。
「なぁ、やっぱりうては出なければならんのだろうか−−」
商店街の服屋で見繕った衣装(店員がやけに協力的だった)に着替えた夕香。
だが、彼女はここに至って臆病風に吹かれてしまったようだった。
本殿の隅で狐耳を抱えてイヤイヤをしている。
鈴音は面白半分、幽霊は真剣に説得をするが夕香は耳を貸さない。
やれやれ、あれではまるで天岩戸に隠れた天照大神のようじゃな。
私はそう考えて、ティンと来た。そうじゃ、アメノウズメじゃ!
「なにやら夕香は恥ずかしがっておるようじゃなぁ」
「あら、面ちゃん。 そうよ、夕香ったらさっきからあの調子なのよ」
「ここは一つ、鈴音殿や幽霊も同じ衣装を着てみてはどうじゃ」
「はぁ!?」
目を丸くする鈴音殿をなんとかかんとか言いくるめて着替えさせる。
自分は恥ずかしい目に合わぬと高をくくっておるからそうなるのよ。
同じく着替えようとした幽霊は暗い顔で衣装を眺めている。
幽霊は物には触れぬ、興味はあるがその特性から諦めてしまっているのだろう。
だが、それは大きな間違いよ。
「幽霊、お主は確かに物には触れぬ。 だから衣装も着れぬと思っておるのじゃろう」
ビクッと肩を揺らして幽霊が飛び上がる。
ドレスの端や、黒髪縦ロールを弄りながらその通りだと彼女は小さな声で答えた。
「では尋ねるが、お主は『死んだ時』もそのような格好をしておったのか?」
キョトンとした後、自身の記憶を辿った幽霊はフルフルと首を横に振る。
彼女の服装は『TV』を参考にした『淑女』のイメージだと言っておった。
だがその『淑女』のイメージは死後の後付の筈である。
つまり彼女は幽霊に成ってから『淑女の姿』に变化したのだ。
「お主は服を着る必要はない。 『変わりたい』と思えば変われる筈じゃ」
恐らく彼女がその姿で居続けたのは、彼女が変わることを恐れたからだ。
自分のイメージする『淑女』で在り続ければ、変わる必要はない。
そんな思いが、彼女の姿を黒髪縦ロールのドレス姿に縛り付けている。
「夕香は自らの意思で社を出て、こうしてここに居る。 お主はどうするのじゃ?」
夕香をダシにして幽霊に一歩を踏み出すことを提案する。
夕香だけではない。私や子狸、そして外人も何かしら一歩を踏み出したのだ。
そんな夕香達と行動していた幽霊もまた、思う所はあるはず。
幽霊はしばらく黙した後、決意の表情と共に一歩前に出た。
そして、目の前の夕香を見て一つ頷くと、ぱぁっと光に包まれた。
光が収まった後には、夕香と同じ衣装に身を包んだ幽霊の姿があった。
時を同じくして、鈴音殿が衣装に着替えて本殿へと戻ってきた。
ぶつくさ文句を言っているが、衣装自体に不満はないようだ。
これで、アメノウズメ達は揃った。
===
「おぉー! 鈴音殿、幽霊、なんと可愛らしい!」
私がまずそんな声をあげる。幽霊と鈴音殿は何やら恥ずかしがっているが、可愛い。
続いて子狸も可愛い、可愛いと声をあげる。
意図に気付いた外人も、同じように幽霊と鈴音殿を褒めちぎる。
「ふ、ふん、当然じゃない! この鈴音ちゃんは何を着ても可愛いのよ!」
可愛い可愛いと言われ続けて、鈴音殿が調子に乗る。
幽霊はまだモジモジしているが、可愛いと言われて満更ではなさそうだ。
すると夕香も顔を上げて鈴音殿と幽霊の方を見始めた。
そして自分の格好を見て、そわそわしだす。
ここじゃ!
「ほれ、夕香殿もそこで縮こまっておらず姿鏡で見てみるとよかろう」
外人と共に夕香を引っ張り出し、姿鏡の前まで連れてくる。
自分の格好を改めて見た夕香は、くるり、くるりと衣装を確認してゆく。
「ほっほー、夕香殿も中々可愛らしいのう」
「なんだ、夕香殿も鈴音ちゃんと同じぐらい似合ってるじゃない!」
夕香の傍に鈴音殿と幽霊が近付いてお互いの姿を褒め合う。
すると夕香も次第に緊張が和らいで笑顔を見せるようになった。
ほほう、これは中々−−
パシャッ!
突然、境内にカメラのシャッター音が響き渡る。
思わずびっくりした私達が音の出処を探ると、そこには服屋の店員がおった。
「もうね、ヤバイ。思わず撮っちゃうぐらいヤバイ。メッチャ可愛い」
連続でシャッター音が鳴り響き、フラッシュが焚かれる。
これは、好機。鈴音殿にポーズをとるように提案してみる。
彼女はそのまま自分が考えた最高のポーズをとってくれた。
そのまま幽霊と、夕香にも同じようにポーズをとってくれるように提案する。
最初は恥ずかしがっていたが、堂々とした鈴音殿に釣られてポーズをとる。
服屋の店員はその様子を次々とカメラに収めていった。
「あー、最高。アタシの人生の中で今が一番生きてるって感じがするわ」
ひとしきり撮影した店員は満足そうにそう言った。
コヤツ、なぜこのような田舎町で服屋の店員なんぞやっておるのだろうか。
ぐったりした夕香とは反対につやつやとした店員を見ながらそう思う。
「そうだ、ついでにアンタ等も入って記念撮影しとこうか」
あれよあれよという間に私達も並び、各々がポーズをとり始める。
パシャリ、というシャッター音と共に最後の撮影が終わった。
撮影が終わった後、私は店員にこっそり近付いて写真を見せてもらう。
どれもこれも可愛い写真だったが、私は笑顔で溢れた一枚に釘付けとなった。
「これを一枚、現像してもらうことは可能かの」
「オッケー☆ この一枚はアタシも気に入ってるしね」
さて、この写真をどう使うかの。
私は悪巧みをすべく外人の方へと歩み寄っていった。
境内に差し込む光は徐々に茜に染まり、逢魔が時の訪れを告げていた。
〜 その13【完】に続く 〜
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