折角なのでこの3人(?)に憑いてゆくことにする。
子狸はこの辺りの山に住んでいる化け狸で、2歳になったばかりという。
狸としてはそこそこ生きているが、妖としてはひよっ子もいいところでぃ。
幽霊ちゃんは14砦で死んじまった可哀想な娘っ子。
生前は『淑女』に憧れていたらしく、死んで尚未練として残っているらしい。
あまり外をうろついたりはせず、カフェとかでTVを見て過ごしていたとか。
道理で時代錯誤も甚だしい(でも似合ってる!)和服を着ているわけだ。
外人さんは町から町を旅する魔法使いのマレビト。
何でも折り紙を操る魔法を覚えてから名前と記憶を無くしちまったらしい。
人から妖になるには何かを失うって話だが、くぅ泣かせるねぇ。
で、今回はこの『一名町』にぶらっとやって来たらしいが、
そんな背景を聞かされて何もしないってのは男が廃るってもんよ!(妖だけどね!)
俺っちのことも話しつつ山道を歩いてゆくうちに道は獣道に変わっていった。
八幡さんの裏手にある道だから人も寄り付かないのかもしれねぇけど、
それにしちゃぁ荒れてんなぁ。
まるでこっちの道は間違ってますよと言わんばかりの有様でぃ。
やがて道は途切れて開けた空間に出た。
その中央に、これまた年季の入った神社がぽつねんと建っている。
(こんな辺鄙な所に社なんざあったかね?)
外人さんは珍しそうに『じゃぱねーぜしゅらいん(?)』を見てるし、
幽霊ちゃんはちょっとビクビクしながら近付いて行ってる。
確かに神社といやぁ神聖なもんかもしれねぇけど、
ここまでボロボロな神社にそんなご利益なんてあるもんかねぇ。
そんな中、子狸は好奇心旺盛にあちらこちらを走り回っていやがる。
子供は風の子、元気な子。妖とはいえ子供が楽しそうなのはいいことだ。
あんな風にはしゃがれちゃ、俺っちも体が(人体模型だけど!)疼いてきやがる。
その場でスクワットを始めながら神社を見回す。
一応、建物としての体裁は整っているが見るからにボロ屋だ。
もう何年も、いや何十年も手入れされてないんじゃなかろうか。
外人さんが戸に手をかけてみるが、どうやら鍵はかかってないらしい。
不用心にも程があるが、この様子なら御神体があるのかも疑わしい。
幽霊ちゃんが賽銭箱の上に取り付けられた鈴緒に気付いた。
だが幽霊ちゃんは物に触れないみたいで、スカッ、スカッと手は空を切る。
それに気付いた子狸がタタターッと走ってきて、鈴緒に飛びついた。
がらん、がらん、がらん。
取り付けられた鈴が大きな音を立てて鳴らされる。
あまり綺麗な音ではないが、あまり手入れされていないのだから仕方がないねぇ。
先程、外人さんから貰った折り紙の魔女面(精巧!)を付けながらぼんやり思う。
本来なら鈴緒っていうもんは神聖なもんなんだけどねぇ。
麻で編まれた鈴緒は、その大麻としての毒性から魔を祓うって話があるけども。
まぁ、ここまでボロボロじゃ子狸すら祓えないんだろうねぇ。
その時、どたどたどたと社の中から音が聴こえてきた。
どうやら3人は気付いていないらしいが、先客が居たようだ。
面を翁に変えながら、油断せずにスクワットを続ける。
外人さんがいざ中へ入ろうと戸に手をかけて少し開ける。
チラッと見えた建物の中は、やはり荒れ果てている。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
いや、ここは人が出るか妖が出るかの方が正しいかのぅ?
===
「誰ぞ尋ねてきたのか!」
スパーンと小気味良い音を立てて戸が一気に開かれる。
その音にビックリしたのか、鈴緒に縋り付いていた子狸がポトリと落ちた。
続いて覗こうとしていた外人さんも、ころんと気絶。
幽霊もきゅぅっと目を回して地面に(すり抜けない?)横になる。
中から出てきた狐の耳と尻尾を生やした童女はポカンとしている。
私も流石にこの光景にはポカンとする他ない。
まったく、最近の若いモンは鍛え方が足りん。
私はスクワットを継続しつつ、中から出てきた童女を観察する。
年の頃は10代に見えんこともないが、そこは妖。見た目通りではなかろう。
紫の和服を羽織ってはいるが、所々ほつれが見える。
ふーむ、しかし紫の和服ときたか。
下の八幡神社には鈴音という狐の神使が住んでおるが、
その関係者じゃろうか?
紫といえば昔は高位の者が身に付ける高貴な色。
所々ほつれが見えるとはいえ、そんじょそこらの妖ではあるまい。
しかし、紫を纏った狐の娘子のぅ。
こう、喉元までなーんか出かかっとるんじゃが上手いこと出てこんわい。
まぁ、ポンと出てこんっちゅーことはそう大事なことじゃありゃぁせん。
「ほっほっほ、驚かせて−−いや驚いているのは小奴らじゃが−−すまんの」
「おい、起きろ! 起きるのじゃ! うて等が気絶してどうする!」
ペチペチと外人の頬を叩いている。
くすんっ。そんなあからさまに無視せんでもいいじゃろうが。
外人と子狸がパチリと目を覚ました。
幽霊は誰も触れないので大きな音を立てて気付けすると目を覚ました。
その様子に、狐の娘っ子はホッと安心したように見える。
私もスクワットを終え、ゆっくりとそちらに歩み寄ってゆく。
いま気付いたとばかりに声をかけてくるが、嘘つけ気付いておったじゃろうが。
これだから最近の若いモンは−−若いんか、コイツ?
さて、お互い落ち着いた所で自己紹介を始める。
この童女の名前は『尾三輪 夕香』と言うらしい。
尾三輪はこの辺りの地名だろうが、しかし『夕香』ねぇ。
最近−−いや、数十年も昔にその名前を聞いたような、聞いてないような?
なにぶん普段は学園の中に居るから世事には疎くての。
決してボケが始まってるワケではないんじゃよ。妖だし。
夕香が語ったところによると、どうやら彼女はこの辺りの土地神らしい。
なるほど、言われてみればそんな風格が−−いや、ないのぅ。
他の連中も首を傾げているところを見るに、あんまり有名ではなさそうじゃ。
御年500歳と言うから大層な婆だが(私なんて359歳なのに!)、
その見た目からその歳を推察するのは難しいだろう。
まぁ、ふんぞり返っている姿になーんも威厳がないんだから仕方がない。
さてそんな彼女だが、ここ最近は社に訪れる人もなく段々と弱ってきたらしい。
まぁ、ボロ屋と化した社を見ればなるほど確かにさもありなん。
むしろ良く消えずに残っていたものだと関心すらする。
よくよく聞くと、大体80年ほど前まではちゃんと参拝客も居たそうだ。
80年−−80年? なーんかやっぱり聞き覚えがあるんじゃが−−
とまぁ夕香の自己紹介が終わったが、3人は首を捻っている。
どうやら誰も夕香の事を知らないらしい。
===
「うぅ−−やはり誰もうての事を覚えてはおらぬのか」
あーあ、今にも泣きそうじゃ。
500歳の婆が泣き落としなんぞ見たくもないが、
童女の姿で泣かれた日には学園に取り憑いた妖として見過ごしてはおけんのぅ。
「おう、おうおう。 夕香、夕香か。 覚えておるとも」
「そ、そうか! お主はうてのことを知っておるのか!」
「うんうん、勿論じゃ。 これでも私は359歳じゃよ?」
「うては500歳じゃから、うての方が歳上よな!」
先程までの泣く一歩手前の顔から一転して、ぱぁっと破顔する。
むぅ、そういう面芸は面霊気の私のお株なんじゃが。
「うむ、うむ。 うては忘れられてなどおらんかったのだな!」
そのあまりの喜びように若干引くが、3人は何処となくホッとしている。
いやいや、婆じゃぞ。見た目麗しい童女じゃが、500歳の婆じゃぞ?
夕香が一息ついたところで再び雑談が始まる。
外人は己の魔法を使って折り紙をピョコピョコと動かして見せる。
すると夕香は目を輝かせてその光景に喜ぶではないか。
すると子狸がずずいっと前に出る。
狸と狐と言えば私が生まれるよりも更に昔から化かし合いをする仲。
外人の見せた業に己の化け狸魂がくすぐられたのだろう。
夕香に化かし合いを挑むと言い始めた。
うーん、しかし相手は歴戦の古強者。果たして2歳程度で勝負になるかの?
くるりん、ぽんっ。
子狸が人の姿に变化する。おお、中々上手いではないか。
まだ耳と尻尾は隠れてはおらんが、2歳でこれなら将来は一角の化け狸になるじゃろう。
だが、夕香はその様子を涼しい顔で見ておるではないか。
やはり500歳ともなるとこの程度は朝飯前だとでも言うのか。
(いやでもこの婆、最初から耳と尻尾が見えとった気がするんじゃが−−)
いやまぁ、きっと妖力が弱っているせいなんじゃろう。
でなければ御年500歳の化け狐がそんな中途半端な变化なんてする筈もない。
などと思いつつ、夕香の番が回ってきた。
夕香はふぅっと一呼吸つくと、次の瞬間にはその場から『消失』した。
(なんとっ、姿を完全に消してしまえるというのか!)
その場から完全に消えたまま、夕香は子狸の背後へと周る。
外人や幽霊がキョロキョロと辺りを見回すのを満足気に眺めながら、
夕香はぽんっと小狸の肩を叩く。
びくっと小狸の肩が揺れ、慌てて後ろを振り向く。
そこにはにぃーっと笑った夕香の姿が再び現れているではないか。
がっくりと子狸が膝をつく。これは流石に夕香の圧勝であろう。
しかしまぁ、私としては小狸の奮闘を讃えてあげたいのぅ。
まだまだ幼いんじゃから、これに懲りず精進して欲しいわぃ。
〜 その3に続く 〜
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