2011年末にかいたものです。
--------------------------------------------------------------------
【民事法】自白と訴えの変更
顧問先の不動産管理会社から駐車場に長く放置されている自動車の撤去のための法的手続きを求められることがある。
自動車のナンバープレートから陸運局へ弁護士法23条の2を用いて問い合わせ、占有者・所有者を特定して内容証明郵便で撤去を求める。ふつうはこの段階で撤去してもらえるが、訴訟まで至ることもある。その場合でも損害賠償請求を求めることはあまりない。取れないと思っているからである。地方都市では被害金額があまり大きくないとあきらめる傾向になりがちである。
旧司法試験昭和61年第2問
甲は、駐車場として乙が使用している土地をその所有者Aから買い受けたと主張し、乙に対して、所有権に基づき土地の明渡しを求める訴えを提起した。
乙はA甲間の売買の事実を認め、裁判所は和解勧告のため期日を指定したところ、次の期日になって、甲は土地所有権侵害を理由として賃料相当損害金の支払いを求める請求を追加した。
乙は従前の態度を変えて、A甲間の売買の事実を争うことができるか。
もともとの甲の乙に対する訴えの訴訟物は土地の所有権に基づく返還請求権としての明渡し請求権であり、その請求原因は、1 原告甲の本件土地の所有、2 被告乙の土地占有である。2は当事者間に争いがなく、1について甲は現在の所有を否認されたため、前主の元所有と自分への所有権移転を主張したものとみられる。
乙がA甲間の売買の事実を認めたことは、請求原因事実に関する自白となる。
そのため自白として当事者および裁判所に対する拘束力が生じる。したがって自白の撤回は相手方の同意がある場合、刑事上罰すべき他人の行為によって自白した場合または真実に反して錯誤があった場合にのみ撤回可能となる。
ところが甲が訴えの追加的変更をおこなっている。第二の訴えの訴訟物は土地所有権侵害を理由とする損害賠償請求であり、請求原因事実としては、1 土地所有権、2 侵害の事実ということになり、訴えの追加的変更の場合追加前の訴訟資料は当然に利用可能なので1について自白が成立することになる。
別訴で第二の訴えがなされた場合はまったくの仕切り直しとして、乙は請求原因を争うことは可能である。ところが訴えの変更の場合は自白成立としてしまって争えなくなる、というのでは乙にとって酷となる。そもそも自白は処分権主義・弁論主義として私的自治から実体法上処分できるものについての処分が前提となっている。
第一の訴訟の訴訟物と第二の訴訟の訴訟物が異なる以上、異なる処分をなしうるのが原則である。
民事訴訟法学会の重鎮 新堂先生は係争利益の価値が著しく異なってくる場合には、訴訟追行態度変更の自由を認めて訴えの変更による自白取り消しの余地を認めている。しかし著しくというところが明確性を欠くきらいがある。本問に関していえば自力での明渡しについては費用0に近いが、損害賠償となると一月数万円であり、そもそも不法駐車をするような被告にとっては高額であり、著しく係争利益の価値が
異なるということも可能であろう。また動機が訴訟物として明示されているのであるから動機の錯誤理論の適用もありうる。
昭和61年当時は準備手続と口頭弁論がはっきり区別されていなかった。現在ならば準備手続き段階での暫定的自白として撤回可能なように処理する手もあるように思われる。
フランスでは口頭弁論終結時に当事者に書面を出させて、そこで最終的な主張として整理がなされ、事前の書面はすべて撤回されることになっているようである。これは最終書面だけ読めばよくなるので裁判官としては便利であろう。
ログインしてコメントを確認・投稿する