成年被後見人のインフォームド・コンセント
弁護士 岡本 哲
以下のような相談を受けたとき、読者諸氏はどう考えるだろうか。
2013年11月段階の日本の法制度、推定相続人として相談者以外に遠方に住む相談者及び被後見人とは仲の悪い親戚がいること、被後見人及び相談者と医師とは信頼関係はあること、後見人は親族ではない弁護士がついていることを前提とする。
質問
わたしの祖母は高齢となり認知症がひどく、現在後見人がついています。
今度骨折をしたところの手術をしたいのですが、同意とかはどうなるのでしょうか。
回答 形式的には医師がおばあちゃんに説明したうえで同意書におばあちゃんの署名捺印をとることになります。実際には手術前に集められるだけ家族を集めたうえで説明をきいたほうがいいでしょう。
解説
他人による医的侵襲行為への同意について、家族の同意だけではたりないという本人の同意を求める広島地裁判決平成元年5月29日判例時報1343号89頁がある。
医的侵襲の場合は医師が患者に十分な情報を提供したうえで承諾を得なければ治療行為たる侵襲行為はできないのが原則である。東大医科研病院事件最高裁平成12年2月29日において最高裁で確定された法理となっている。もっとも医療行為の必要性の観点から同意がない場合でもおこなえる場合も緊急行為や推定的承諾の法理など、多様なものがありえる。
同意の前提としては医療の性質・内容・効果・危険性を理解する能力があることが必要となる。被後見人である相談者の祖母については、理解する能力がないので、法的には同意は存在しない、ということになりうる。しかし、形式的に相談者の祖母の同意書がつくられ、それを問題にするひとがなければ、それはそれでとおることになる。
解釈論としても、同意能力のない人間の署名よりも理解能力のある人間の判断のほうがよい、ということで、後見人に同意能力ありとする説も有力である。現在100万円以上の財産のだしいれは後見人に裁判所への報告義務があるが、金額的に患者負担は小さくてもより大事な生命身体にかかわることを裁判所が監督しないのはバランスがおかしいし、大型医療契約や大型侵襲の場合は裁判所への報告をしておいたうえでおこなったほうが患者の医療の適正を監視するという点でも望ましいように思われる。被後見人と医師が共謀して不必要な治療を行い医師がもうけ、被後見人にキックバックあり、というようなことも老人医療の無料部分がおおきい現状ではありうるからである。(貧困ビジネス:貧困者を食い物にするビジネスに医療保護を受けるひとをかこいこんで過剰医療をほどこす、というものがある、通常は精神病患者のふりをさせるが、高齢者をかこいこむこともありうる)
この回答だと意味の説明をしいられ形式的書面に署名捺印させるわけで医師のやる気をそぎそうである。一般に患者や家族への説明で1時間程度手術前の時間を拘束されるのは医師にとってもたまらないので、政策的には筆者は病院専属の弁護士とかでルーチンの説明は医師本人以外でできるようにしたらいいのではないかと提案している。相談事例では一般の場合よりも意味な説明をしいられるわけである。
医師が訴えられることを防止する意味では推定相続人全員に同意を求めておくこともあるが遠方にいるひとがいる場合は全員は無理であろう。家族の同意は手術許容の法的要請ではないが訴訟防止という点で意味がある。実際、現場では本人と家族に説明がなされていることがおおい。
解釈論としては同意なしの範囲をひろげる可能性もあり、通常医療なら同意不要とする。イギリスの立法例は患者にとって最適な医療は同意必要なし、となっている。
成年後見人がついている場合は、被後見人に財産がある場合がおおく、お見舞いに全くこなかったような相続人が相続が発生してから医師を責めて訴訟をおこすことも考えられる。世の中には誠意が通用しないひともいることを考えたうえでやっていくしかない。
韓国では2013年の法改正で立法的に解決され、後見人の同意でよしとされた。
日本ではとくにこの点に関しての改正の動きはないようである。
日本では刑事法の問題は推定的承諾の法理で解決し、行政的な保険の適用は、医療に対する事後的な異議ですから、そうそうおこりえない、民事的にも患者負担が生じることはあまりないから立法をいそぐ理由はないのかもしれない。日本以外、韓国やアメリカだと高額医療費の負担がシビアであるし、イギリスでは医者がほかの国にいってしまって不足しているから医療自体を抑制する方向になったようだ。日本でも高齢者の医療負担がきつい状態になると、財産管理の問題も生じてくるから、同意の問題にも立法的な手当てを急がれることになる。
法整備がすすむということが高齢者の福祉後退をもたらしているのであれば、複雑な気持ちになる。
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