『よしこ』ではなく、『よしふる』と読みます。司馬遼太郎『坂の上の雲』に登場する秋山好古の『好古』です。
4月に熱海から故郷の裾野市へ引っ越して、その店舗付き住居の店舗部分で、両親に定食屋をやってもらうことになりました。『好古』はその店に名付けた屋号です。10年前に寿司屋をたたんだものの、もう一度彼らの腕を発揮してもらうべく、満を持して開店しました。
オレの引っ越しが済んで、オレと両親と妹夫婦とその子供たちとで、ラーメンを食べに行きました。横浜に住む姉を除いたうちの家族が、久しぶりに集結した夜でした。
新しく始める店の名前に苦慮していたところ、ふと見上げたラーメン屋の壁に入船亭遊一という噺家が書いた色紙が飾ってありました。
『述而不作、信而好古』
その色紙に書いてあった言葉です。確か孔子の言葉ではなかったかと、チクチクアンテナがビビビ〜ンと震えたのでした。
「ところで、店の名前どうする?」
「ん?『好古』だよ」
「なにそれ?」
「まぁ、あとで説明するよ」
オレはそういって、不思議そうな面持ちの母親を尻目に味噌ラーメンをすすったのでした。
早速、オレは入船亭遊一という噺家に連絡を取り、「ぜひ新しい店に、あなたが書いた色紙を飾りたい」と伝えた。オレが日本橋まで落語を聞きに行くというと、遊一さんは「それなら、色紙を用意しておきます」と快諾してくれた。
こういうことは、些細なことからいろんなものが連鎖していく。家族でいったラーメン屋の色紙を何気なく見上げなければ、すべては始まらなかったかもしれない。
結局、遊一さんが直筆で書いてくれた文字が、新しい店の看板となり、開店日の25日には遊一さん本人が、わざわざ埼玉から裾野まで足を運んでくれ、深夜まで語らいは尽きずに、店の座敷に寝泊まりしていってくれました。
なんだか幸先がいいじゃないか。こういうことはなんでもかんでも縁起につなげてしまえばいい。
開店日の5月25日(水)は友引でもあり、いいことが更に倍になる一粒万倍日なのです。落語の世界でも、一粒万倍日は縁起のいい日なんだと、遊一さんが教えてくれました。
この先が、とても楽しみです。
『お食事処 好古』
410−1106 静岡県裾野市金沢192番地の2
電話・ファックス:055−997−8484
11:00〜14:00・17:00〜23:00 水曜定休
裾野市内から須山にむかう県道24号線を上る。大きなドッグランの手前の平屋。東名裾野ICから車で五分。最寄駅はJR御殿場線岩波駅。