バクーニン主義とは、ロシアの革命家であるミハイル・バクーニンの思想。
バクーニンは、プルードン、クロポトキンと共に近代のアナキズムを代表する人物とされ、プルードンの経済思想(アソシエーション論)、クロポトキンの建設思想(相互扶助論)に対して革命思想(総破壊と不可視の参謀論)を展開したとされる。
しかし、プルードン、バクーニン、クロポトキンの思想は、同じアナキズムとして一括出来るものではなく、むしろまったく別の思想であり、別個の、時には対立的なアナキズムだといえる。その意味で、それぞれプルードン主義、バクーニン主義、クロポトキン主義ということが出来、それはブランキ主義やマルクス主義などとパラレルなものでもあるだろう。
バクーニンの思想としては、「総破壊の理論」と「プロレタリア独裁批判」が有名だ。前者は、初期バクーニンがヘーゲル左派(青年ヘーゲル派)の雑誌に書いた「ドイツにおける反動」の「破壊への情熱は創造への情熱である」という言葉によって知られ、後者は第一インターナショナルでのマルクスとの論争、マルクス派との党派闘争の根幹をなしたもので、マルクスの提唱するプロレタリア独裁の実態は、プロレタリアに対する共産党(共産主義者)の独裁にすぎないというものだった。
しかしバクーニンの革命思想の本懐は、その組織論や運動論にあるというべきだ。
バクーニンは、革命家による秘密の前衛的結社を組織し、革命家の組織が革命の参謀となり、既存の権力を打倒した後は、革命家の組織が、非公然の不可視の独裁を行使し、反革命を粉砕するという内容になる。このようなバクーニンの思想は「ボルシェヴィズムの先駆」と評されることも多いが(ロシア・マルクス主義の父とされるプレハーノフはレーニンの思想を「バクーニン主義」と批判)、ボルシェヴィズムの先駆にしてボルシェヴィズム批判の先駆でもあるところにバクーニンの思想の矛盾と可能性があるというべきだろう。
バクーニンについて日本語でのまとまった文章としては、E・H・カー、ピルーモヴァ、千坂恭二があるが、カーのパクーニン伝は純然たる伝記でバクーニンの思想にはほとんど触れておらず、ピルーモヴァのもの伝記であり、またソ連時代のものという制約がある。バクーニンの思想を知る上で参考になるのはバクーニンの思想形成を丹念に辿り、バクーニンの運動論・組織論や過渡期論を明らかにした千坂のバクーニン論だが、1970年代前半に『情況』誌に連載されたままなのが惜しまれる。
千坂恭二:総破壊の使途バクーニンの内容
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