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 タイムカード家族

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詳細 2014年9月20日 11:17更新

作家 謎◎匿 原案 米倉勝巳

“タイムカード家族”〜僕は母さんの好きな食べ物さえも知らない〜



幼いころ「ウソをついたら閻魔様に舌を抜かれる」といわれて、それじたいがウソじゃーんと指をさして笑ったら逆上したお母さんに本当に舌を抜かれそうになった。
 それ以来、僕はウソが苦手だ。
 自分がウソをついていると自覚してしまうと、舌の根っこがミチミチと音を立ててとても痛む。ちぎれる、というよりは、新しい舌がむりやり生まれてこようとしているような感覚。
 そんなパブロフの犬的ウソ拒絶症である僕は、生まれてから今までの13年分の経験から、ウソをつかない方法を二つ体得した。
 まず、一つめ。発見したのは小学校時代にまでさかのぼる。
「ヒマワリは太陽の方を向くと聞いたのに、どうして僕の庭のヒマワリはバラバラな方を向いているんですか?」という質問をする名目で子供電話相談室に電話をしたとき、僕は急遽アドリブをきかせて「どうして人はウソばかりつくんですか?」ときいてみた。この時点で僕の舌はミチミチミチ鳴っていたけれど一語一句かまずに発声することができた。
電話口でかまえていた植物学者は『ヒマワリは蕾からすくすく大きくなるときにだけ太陽をぐ〜んと追いかけるけれど、生長が終わって花が開いたらもう向きを変えることはできないから、みんな最後に太陽とにらめっこした方を向いているんですよ』うんぬんみたいな用意していたはずの解答をのどにつまらせながら黙ってしまい、自分自身が植物になってしまったようにハフハフしていた。役立たずの青ビョウタン。今後は自分の生態でも研究するんだなワハハなんて子供のイタズラ心の内側でちょっとほくそ笑みながら電話を切りつつ、僕はウソをつかない確実な方法を学ぶことができた。それはつまり沈黙をすること。
 あながち、植物学者の解答はまちがっていなかったのだ。
 植物のようにじっとする。それが世の中に排出されつづける、偽善・建て前・打算・陰口・詐欺・虚栄・腹のさぐりあい・おべっか・愛想笑い・はったり・行き過ぎた社交辞令・人情を無視した損得勘定・強要する敬愛・国民のためとかいいながらたるんだほっぺたで笑う政治家――、などというウソCO2を酸素に変える、真実の光合成なんだと。沈黙交易の生態系なんだと。僕は気づいたのだ。六歳で。
 ......なぁんて、風刺的に語ってみたけれど、ほんとうのところ、僕は自分の舌を痛みから守れれば満足である。中学二年である僕が世の中に絶望する必要なんてない。
博愛だの世界平和だのとカッコよく言ってみても(最近、なぜ人々はこれほどまで理解し合えないのかと嘆いていたロシアの作家の本を読んでしまったのでこんな面倒くさいことを考えてしまった)、「しょせんオレたち進化したサルだしぃ〜〜」みたいなひらきなおりが僕の裏返された矜持としてある。
それに表に出さないままお腹の底にしずんでいってジュクジュクと腐りだす宿便のような人間の本音が、僕はけっこう好きだ。ネバネバとして指にからみつく、言葉にできなかったキモチの澱。発酵した感情。それが不快であるだけに僕はヨダレが止まらない。僕はよく自分の腹蔵に手を入れて引っかきまわして爪のあいだにたまった腐乱本音の臭いをかいでうっとりするというようなスカトロジー風狂気的妄想に耽るのだ。
方便だろうと宿便だろうとかまわないけれど、ウソというやつを『真実と相違する』という意味で扱うなら情状酌量はいくらでもあるわけで、舌を抜かれるほど罪の重いものだとは僕には思えない。僕はいつも舌の根に与えられる刑罰に「意義あり!」と唱えている。



それではここで、ウソをつくのが苦手な僕から、ざっと僕にまつわる正真正銘唯一無二、真っ青なホントとでもいうべき家族構成を話しておこう。


蓼科 隆之 takayuki tadeshina(13)
 僕のこと。蟇(がまがえる)中学在学。学校には気楽に話せる相手はいるけど心からうちとけられる人物はいなくて、友達と親友の違いに悩む中二病疾患者。本人は不本意ながらも『変態』のレッテルを貼られ、同級生の田島・若林とともに、変態クラブ『桃色NEW党』に加入させられている。
 よっ、思春期。女の子が気になりはじめた。
 趣味は照明を落とした部屋でよからぬ考えを膨らませること。そして、それを日記にしたためること。(もちろん、この時の僕には、まさか僕の日記をめぐってあんな事件が起こるなんて、思いもよらなかったけれど...)

蓼科 梓 azusa tadeshina(15)
 僕の姉。鍛奔(たんぽん)高校在学の一年生。男性から金銭を受け取る代わりに自分の身体を慰み物に捧げるという内容のバイトをしている。つまり援助交際だ。鍛奔高校は県内でも有名な進学校だが、頭の悪いお姉ちゃんが「ここの制服を着てると高くつくから」という理由だけで猛勉強し、入学した。
 ちなみにこの前、僕が一人で勉強していると泥酔した姉が「多い日のナプキンは通常時より二千円高く買い取ってもらえる」などと言い出したため、両親が帰ってくる前にあわてて部屋に押し込んだことがある。
 ......ふぅ。本音というのは、言わなくてもよさそうなことまでしゃべってしまうので、大変だ。

蓼科 由美子 yumiko tadeshina(39)
 僕の母。スーパーのレジでパートをしている。若い頃はキレイだったらしいけれど、いまはどこにでもいるようなオバさんだ。田島いわく、「マドンナ文庫の表紙に出てきそう」な女性なんだそうだ。釈然としない僕に「日本人なら牧村僚くらい読め」ともいっていたけれど、なんのことかはわからない。
 命の痛みを知っている者の性なのか、世界中のお母さんと同じようにいつもなにかに疲れているような印象をうける。
 飲酒常習者。

蓼科 善男 yoshio tadesina(42)
 僕の父。名前の通り、善良さだけが取り柄の男だ。正直者はバカを見るということわざがあるけれど、父の場合はバカだから正直なことしか言えないといった感じ。
酒もタバコもやらない。自動車教習所で講師をしている。
 僕くらいの年頃になると普通は父親のことを尊敬するか反抗するか、あるいはその両方があるはずだと思うけれど、僕にはそれがどっちもない。たぶん父に対するありとあらゆる感情を殺してしまうくらい、軽蔑しているからだ。


 さて。これで僕の家族紹介はおしまい。それぞれささやかな問題は抱えていても、ごく一般的な家庭といってさしつかえないだろう。
 物語は、いままで事なかれ主義をつらぬいて周りの煩雑さを避けてきた父の一言からはじまる。
 夕食が終わり、いつものように一日が終わろうとしていた。
子供達は部屋へゲームをやりに、母親は台所へ缶チューハイを取りに。そして父親が趣味であるボトルシップをつく...らずに、みんなに召集をかけた。
「集合! 全員集合!!」
 きょとんとする僕ら。なにかよくない発作でもはじまったのかなとか不安になりながらとりあえず父親のまわりを囲むようにして集まった僕たちにむけて、あろうことか、蓼科善男はこう宣言したのだ。
「これより、タイムカード家族を開始する!」

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