「理性の世界においては、人間は感情にとらわれない冷ややかな態度をもちつづける覚悟をもたなければならない」
大正デモクラシーの論客
長谷川如是閑のコミュです
真赤な血が皮膚の外に送り出るとき、人々は飽かず殺し合う。
真赤な血が真自な皮膚の色を淡紅に染めて、その下を流れる時、人々は飽かず抱擁し合う。
この抱擁――――血の温か味に蒸された、この抱擁を外にして、二人以上の人間がこの世に産れ出た理由が何処にあるであろう。
地上の悦楽は、そこに始まり、そこに終ると、人々は唄う。
けれども、その淡い血の色が、霜に染められた紅葉のように真紅に燃ゆると、人々は狂い出す。
その物狂わしさは、血を呑んだ獣のそれよりも恐ろしい。
血の兇暴は、強いものの前には鎮まる。何物も鎮めることの出来ないものは愛の兇暴である。
皮膚の下を流れる血は、皮膚の外に迸る血よりも恐怖である。
そこに二つの別なものがあるのではない、同じ「血」があるばかりである。
そこに二つの別なものがあるのではない、同じ「人間」があるばかりである。
(血のパラドックス)