最も偉大な作家の一人、ヘンリーミラー。だが彼は今や忘れ去られようとしている。水声社が「ヘンリー・ミラー・セレクション」の刊行を始めているが、私たちは新潮社「ヘンリー・ミラー全集」というすばらしい翻訳全集をかつて持っていた。ヘンリー・ミラー文学の精髄は、『南回帰線』や『北回帰線』あるいは『バラ色の十字架』といった小説群よりも、文明論的なエッセイや評論、紀行文にあると思われる。しかしこういった作品は、現在ほとんど目にすることができない。その点新潮社のHM全集には、そういった彼の作品が多数収められていた。訳者も(吉田健一、宮本陽吉、飛田茂雄、幾野宏ら)、きわめて優秀で、HMの驚異的英語散文(ノーマン・メイラーは、それをシェイクスピア以来というような表現で語っている)を、見事に日本語に移しかえている。
このコミュニティでは、ヘンリー・ミラー文学の魅力を味わっていきながら、新潮社版「ヘンリー・ミラー全集」の中から、ぐっとくる文章を抜き書きして、ご紹介していきたいと思っています。