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オリジナル小説を目指せ!コミュの遺影

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「遺影」

     とみき ウィズ



 黄色くくすんだ廃墟が立ち並ぶ街で敵味方の兵士は破壊の総仕上げに夢中だった。
 瑠散弾が通りで破裂して建物の外壁を崩し、土ぼこりをライフル弾や機銃弾が突き抜け、炎の帯が動いている物の後を追って通りを横切った。
 あちこちで断末魔と怒号が上がり、吐き気を催す無煙火薬の匂いと甘く、すえた破壊された人体の匂いが漂っていた。
 俺は傷だらけの一眼レフカメラを構えて通りや路地を走り回った。
 時折ヘルメットや防弾チョッキに銃弾や砲弾の破片が当たるが幸いな事に俺の体には届かなかった。

「やれやれ!もっとやれ!汚い争いを続けやがれ!その醜い姿を俺様が撮って世界に晒してやる!」

 俺は慌ただしくシャッターを切り、フィルムを交換し、すがりつく負傷兵の手を振り払い、助ける代わりにカメラを向けた。

「真田さん!危ないですよ!下がりましょうよ!」

 小太りの同僚カメラマンが俺の袖を引っ張って叫んだ。

「やかましい!ファインダーを覗いている時は大丈夫なんだよ!お前一人で逃げちまえ!」

「そんなぁ・・・!!」

 小太りのカメラマンが飛んできた破片に胸を裂かれて、派手に血しぶきをまき散らしながら倒れた。
 俺はすかさず身を低くしてそいつのそばに近寄った。
 小太りのカメラマンが昇天していた。
 俺は無事だったそいつのカメラを手に取り、フィルムを巻き戻して取り出すと胸のポケットに押し込んだ。
 数メートル走って通りの向こうに突撃銃を撃ちまくる3人の兵士の後ろに陣取った俺は死んだ小太りの男の名前を思い出せない事に苦笑いを受かべながら胸のポケットから奴のフィルムを出すと、フィルムケースに「コデブ」とマジックで書きこんで、腰のバッグに放り込んだ。

 3人の兵士の後ろでは、敵兵が鼻と口と胸の銃創から血を流しながら浅い息をして仰向けに倒れていた。
 一人の兵士が振り向くと、突撃銃を小脇に抱えて倒れている兵士に銃弾を撃ち込んだ。
 俺はその一部始終をカメラに収めた。
 頭の中に今撮った一連の写真のキャプションが浮かんだ。

『撃たれ倒れた十代の兵士は至近距離からとどめの銃弾を浴びて脳髄をまき散らして死んだ』

 俺はズームレンズ付きのカメラのファインダーを覗いて向かいの通りを舐めるように見た。

 隣の兵士が何か見えるか?と叫んだ。
 俺が、見た所敵の姿は無いと答えると兵士たちが互いを援護しながら通りを横切って行った。
 敵兵は後退したのか、彼らを追う銃弾は無かった。
 俺も後をついて身をかがめながら通りを横切ろうとした瞬間、先を行く3人の兵士に砲弾が当たり、粉々に消し飛んだ。
 反射的にシャッターを切った俺が通りを見ると年代物の戦車がガタピシと車体を揺らせながらこちらにやってきた。
 通りに出てしまった俺は唯一の武器であるカメラを戦車に向けた。

「ちくしょう!撃つなら撃って見やがれ!」

 俺は迫りくる戦車に向けてカメラを構え、ファインダーを覗いた。
 ファインダーを覗いている時は絶対に弾に当たらない。
 長年戦場を渡り歩いて、生き延びてきた俺の信念が無謀な事をさせている。
 俺の視界の隅で一人の兵士が戦車に向けてRPG対戦車ロケット砲を構えるのが見えた。
 戦車の砲塔が回って俺の方に砲身を向けた。
 兵士がロケットを発射したのだろう。
 ものすごい音と煙が上がり、戦車の砲塔と車体の間に爆発が起きた。
 それと同時に戦車の大砲が火を吹いた。
 シャッターチャンス!
 俺はカメラのシャッターを押した瞬間に光に包まれて意識を失った。



 あれからどうしたんだろうか?
 気がついた俺は日本に帰るジャンボに乗っていた。
 ビジネスクラスの席に腰を落ち着けて頭を振った俺を、隣の席に座っている上等なスーツ姿の中年の男が胡散臭そうに見た。

(ばかやろう、お前なんかよりも、よっぽど体を張って稼いでいるぜ)

 俺は男に、にっと笑ってやった。
 男は慌てて新聞紙に顔をうずめた。
 物凄い衝撃を開けると頭の中の細胞がどうにかなって記憶がとぎれとぎれになると言う事をある軍医から聞いた事がある。
 おそらく同じ事が俺の頭に起きたのであろう。
 また新しい体験をした。
 
 俺は窓の外の夜景を見た。
 成田に到着する前にぐるりと旋回する時の夜景がとても好きだった。
 また、生きて帰ってこれた。
 妻と娘の顔が脳裏に浮かぶ。
 俺は毎回、飛行機からのこの景色を見ながらぼろぼろと泣いた。
 それが俺の生還の儀式なんだ。

 成田に降り立ち、入国手続きを済ませるとATMに行き、金が振り込まれているか調べる。
 いつもよりもずいぶん多額に金が入っている。
 おそらく、あの戦車の写真がかなり評判が良かったのだろうか?それとも俺の数メートル先でとどめを刺されて頭蓋骨を破裂させた少年兵士の写真だろうか?それとも通りで戦車の砲弾で粉々に消し飛んだ3人の兵士の写真?まぁ、そんなことはどうでも良いさ。

 俺は随分くたびれたバッグと娘のために買い求めた特別大きな縫いぐるみを抱えて、タクシーに乗り込んだ。
 もうずいぶん遅い時間だ。
 娘はとっくに寝ているだろう。
 明日の朝は横にでっかい縫いぐるみが寝ていて、さぞ驚くだろうと想像して俺はほくそ笑んだ。
 白金のマンションに着き、俺は懐かしの我が家の前に立った。
 チャイムを押すと、妻が出てきて、マジマジと俺を見つめた後、俺に抱きついた。
 もつれながら玄関に入り、靴を脱ぐのももどかしく娘の部屋に行った。

 妻に似た美人な娘がベビーベッドで可愛い寝顔を見せていた。
 俺は娘を起こさないように注意しながらほっぺにキスをして、大きな縫いぐるみを横に寝かせてやった。

 ダイニングに戻り、椅子に座ると、妻が手を握ってきた。

「おかえりなさい。」

 妻が目に涙をためて言った。

「ただいま・・・・おいおい、いつになく大げさだな。」

 苦笑する俺に妻が抱きついて来た。

「だって・・・・」

「さて、浴衣に着替えるかな?」

 俺は家に帰ったらまず浴衣に着替えてからビールを妻と飲む。
 これが俺が生きて家にたどり着いた儀式になっているのだ。

「まだ、ここにいて。」

 妻が俺を抱きしめて言った。

「おいおい、帰って来たんだから寛がせてくれよ、可愛い奥さん。」

「お願いもう少しここにいてよ。」

 妻が俺を抱きしめる手に力を込めて涙声で言った。

 俺はただならぬ気配を察して立ち上がると奥の日本間に行った。

「お願いだから!もう少しだけここにいてよぉ!」

 妻が泣きながら俺を追ってきた。
 俺が日本間を開けると、壊れたカメラと血に汚れて半分に裂けたヘルメットがささやかな祭壇に置いてあり、黒い額に収まった俺の遺影が俺を見返していた。

 後ろから妻が俺に抱きつき、泣きながら言った。

「長い間、大変なお仕事をごくろうさまでした。
 あなたはもう、ずっとここにいて良いのよ。もう、どこにも行かなくて良いの。ずっとずっと私達とこ








終わり



コメント(3)

重傷の兵士に助けの手ではなくレンズを向け、殉職した同僚を悼むことなく、迷わずフィルムを抜き取ってしまう。
人としては非難を受ける行為も、カメラマンという立場である以上、それを貫く戦場カメラマンの生き様というか、信念や執念を感じました。

タイトルでなんとなくラストが分かりましたが、まとまっている作品だと思いました。

ただ、最後が途切れているのは演出なのか、掲載ミスなのか。
どっちでしょう?
DDDさん、感想コメントありがとうございます!

小説と言うよりは映像のシナリオの様な感じで書いてしまいました(汗)

スピーディーな演出で15分。いや、10分程度の映像作品模したら一番私のイメージに近いかもしれませんね。

ラストは演出ですが文章上での表現に苦労しています(汗)

題名は、かなり考える余地があります(汗)
感想:

序盤〜中盤にかけてよく書けていると思います。

ラストの描写、『文字による効果』は意図的という事も解るのですが、せっかくのラストの余韻が『文字効果』によりぼやけてしまっている気がします。ラストの内容よりも文字の意味が最後気になってしまう。
せっかく書けてるのにもったいないな。(余韻が)

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