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フラペチーノ♪コミュの『fermez vos yeux』-(15)

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『fermez vos yeux 〜愛すること〜』(author:みあべ)
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=10625834&comm_id=804425
 

 第十五話 




côté noir 8

距離というのは非常に大切で、しばしば私はその感覚に悩む。
例えば、同僚との距離。
親との距離。
友人との距離。

どれもここちのよい距離というのは決まっていて、私の場合は比較的遠い。

彼女とは・・・。
こんなに近くにいたいと願うのに。

学校では別だ。
顔を合わせても会釈程度だが。

時折、抱きしめたい衝動に駆られることもあるが、
学校という職場は、私を「教師」という存在として必要とするところであるので、
その程度の良識はあるつもりだ。

でも、彼女の淹れてくれるコーヒーはおいしく、
だから、彼女がコーヒーを淹れてくれるのを心待ちにしている自分もまたいる。

「最近、アオイさん、綺麗になったと思いません?」

隣の席、同じ学年のクラスを持つ小峰という男性教師が小さな声でささやく。

どうやら、職員の間でも「アオイ」という愛称が浸透しつつあるようだ。

「セクハラで訴えられますよ」

教科書を見ながら、極力冷たく言う。

小峰の落ち着かなく、忙しく動く目が、私は苦手だ。
化学の教師としては優秀らしいが、少し変わっている。

「アオイさんに直接言ってるわけじゃないから、大丈夫ですよ。
彼氏でもできたんですかねえ。いいなあ。あんなうまいコーヒーが飲める彼氏」

妄想だ。

うるさい。
と声に出しそうになる。

「きっとかっこいいんでしょうねえ。彼氏」

知らん。

彼女をそんな目で見ている男がいることに改めて気づく。
そういえば、今日は顔色がよくなかったが・・・。大丈夫だろうか。

職員室の中でも、彼女と私の席は、かなり離れている。
が、視界には常に入っているので、私は彼女の後ろ姿を見ることができる。

予鈴が鳴った。

彼女は綺麗になった・・・。

ふんわりと彼女の脚にまとわりつく柔らかなシフォンスカート。
1時間目は私のクラスの授業だ。

ホームルームが終わって、彼女と教室前ですれ違うことを思って、
何か少しどきどきする。

ふんわりとすれ違う時に香る、ジャスミン。

今日はジャスミンだった。
金曜以外は、色で例えたらブルーやグリーン、オレンジといった、
ある程度硬質な香りをチョイスする。

金曜日だけは、甘い、甘いローズのような香りをほんの少しだけ纏う。

もし月に香りがあるとしたら、あんな香りだと思う。

私はそれが愛しい。
やわらかい、彼女の全てが愛しい。


この世は余計なものばかりでできている。
私は彼女さえいればいいと思うのに。
それは許されない。
先ほどのようなくだらない話を聞かなければなかったり、
彼女とのことを誰かに報告しなければならなかったり。
だが、それらは全て現実で、私が求めることが非現実であるのであれば、
現実にしか従えないということになる。

どこかで、折り合いをつけることができるようになるのだろうか。
それが、大人というものなのだろうか。
だとしたら、私はまだ幼い子どもと同じだ。

ジャスミンの香りを残して彼女がすれ違う。
私はまた少し、官能的な余韻に浸る。

そう。
これもまた、現実なのだ。

そう思って、少し、ほんの少しだけ安心する。


(16)côté rose 8 に続く。
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