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フラペチーノ♪コミュの『fermez vos yeux』-(7)

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『fermez vos yeux 〜愛すること〜』(author:みあべ)
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=10625834&comm_id=804425
 

 第七話




côté rose 4

ムスクの香りに包まれて。
私はうつらうつらと夢をみる。
彼が優しく、そして大事に抱いてくれている腕の中で。
スポーツはあまり得意ではないのに、少し厚めの胸と、
張った肩がとても好き。
長い腕と、長い指。
切れ長で、いつも何かを深く深く考えているようなまなざし。
そして、いつも正直に想いを伝えてくれるまなざし。
愛情も、迷いも、おそらくは嫌悪でさえも。

なぜ、周りの人には見えないのだろう。
それは多分、彼が隠しているというよりも、
周りの人には取捨選択の権利があるから。
彼のまっすぐな意思はおそらく、「捨」なのだ。
もしくは、本当に見えない。
純粋は崇高だ。
崇高は、人には届かない部分を指す。
であれば、他の人に彼の感情が伝わらない可能性はとても高い。

では、私にはなぜ見えるのか。
これは見えているという錯覚がなせるわざなのかもしれない。
それでもいい。
この人の本当の心を知りたいと思う。

3歳年上の彼は、今年で29歳。
その割に落ち着いて見えるし、理知的な物言いと他を圧倒する論理的思考、
そして説得力で、今では数学の教科主任をしている。
趣味はピアノ。
初めて彼のピアノを聴いたとき、とっても上手だと思ったけど、
何か少し物足りなかった。
二度目は、行きつけのジャズバーで飛び入りで演奏して、
その時は、少しだけ優しい気持ちになった。
三度目。
二人きりの時に、私が大好きなショパンを弾いてくれた。
優しい、そして、激しく、熱い、ショパンだった。

何度も、あいつに、なんで本格的にピアノを続けなかったんだ、と
言われたんだ。

胸に耳をあてているので、鼓動と同時に彼の声が響く。

うん。

だけど、もう、私は君を想ってしかピアノは弾けない。

うん?

音楽は。
クラシックであるほど、その中に「感情」がある。
「物語」と言い換えてもいいかもしれない。
弾き手には技巧だけではなく、その感情を表現する能力も求められる。
私には、長い間、それが欠けていた。
だから決して、一流にはなれないことはわかっていた。

彼が、そんなことを言う時は、たいてい悲しそうなのだけれど、
今日はとても優しく聴こえた。

私は、彼と初めて思いの一部が重なった日を思い出す。


理学部で数学を学び博士号までとったのに、なぜ私立高校の教師になったのか。

多分、自分の限界が見えたからだ。

初めて二人きりで食事をした夜に、白ワインのグラスを眺めながら、彼は言った。

悲しいですね。
それが本当に先生の限界だったはわからないけど。

なあ。先生と呼ぶのはやめないか。
学校にいるようで、なんというか、落ち着かない。
それに君は私の生徒ではないわけだし。

はい。

それもまた生徒のようだな。

彼は笑った。
私の大好きな笑顔。
大人なのだから当然だけど、おとなびた、でも少しはにかんだ笑顔。

幼い頃からずっと優等生だった私は、いつも誰かになにかを教えていた。
算数の割り算だったり、英語の訳だったり、対数関数だったり。
教師という職業も、あるいは予定されていたものかもしれない。

私は。

ワインはここちよく体に浸みていく。

私は大学時代、塾講師をしてました。
けっこう人気講師だったんですよ。あまり大きくはない塾でしたけど。

そうだろうな。
いや。この間の授業を見て、その話は説得力がある。

あ、ありがとうございます。

だけど、学校の先生にはなりたくなかった。
私は塾で、生徒たちの学校の不満を聞いたり、
それになにかアドバイスらしきものをしたり、
テストに出る傾向の高い練習問題をやらせたり、
その程度が関の山だと思って、ました。

だから、普通の企業に、いわゆる総合職として就職しました。

仕事は忙しくて、最初の一年はいつも辞めることばかり考えてました。


二年目に後輩が入って来て、先輩が教育係になりました。

だけど。
彼女は仕事をする上で必要な基礎力はなにひとつ指導しなかった。
私は見ていてかわいそうだったけど、
二人の間をとりもつほどには成熟していなくて。
二人の愚痴を聞いて。
そして彼は辞めていきました。

続けて。

優しく彼が言う。
まるで違う方向にあった二人の意識がシンクロしそうになる感触があった。

彼女の評価もさがりました。
そのせいか。
翌年の教育係は私になってしまいました。
私は本当に一から教えました。
一般常識だって、就職活動のために勉強はするけど、
実際には何も知らない。
電話も積極的にとらないし、会社の不満を言うことを仕事と勘違いしている。
批判は必要ない。あなたに必要なのは会社を、組織を知ること。

一年かけて彼にありとあらゆることを教え、私は会社を辞めました、
その時には、私は誰かに何かを教えることが好きなのだと確信していました。
だから、学校の先生をやってみようと思ったのです。
単純、ですよね。

いや。
いわゆるキャリアデザイナーとか、
コンサルタント業には興味を持たなかったのか?

それは。私の年齢とキャリアでは難しいし。
なにより。

女性であることが、不利となることが明白だったのです。

私はその頃疲れていて。
人の三倍努力しなければならないような業界は無理だと思いました。
別に・・・、

わかっている。
今の仕事が楽だろうなどとは思ってもいないだろう?

はい。

驚いたのは。
企業に比べて、学校というところがあまりにも保守的で、
外部社会との関係をいかに断つかということに執着していること。
生徒たちはいつかその社会に出ていくというのに。

自分のクラス以外の子の名前すら知らない人、多いですよね。

それで更に。
自分のクラスのことはよくわかっているのかといえばわかっていないのだ。

彼が軽く頷きながら言った。

じゃあ。なんのために毎日学校に来ているのでしょうね。
何に対してお給料をもらっていると思っているのでしょう。
模試の偏差値だけをみて、どこの大学なら受かる、
という話なんか、予備校がやってくれます。
私たちがすべきことはもっと生徒たちの近くで行う、
優しい指導なのではないでしょうか。

耳が痛いな。

と彼が苦笑した。
そして、
どうやら、私は、君のことを好きになってしまいそうだ。
と続けた。


(8)côté noir 4 に続く。
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=10941848&comm_id=804425

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