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有栖川真理コミュの連作詩:Mithology ZERO

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I.〈創〉

 恐怖のなかで、収縮が始まる。それは、ひとつの神性・白銀の宝冠を賭けた〈内部〉への亡命である。しかしまた、それは追放である。排除である。そのようにして、わたしは逃走する。しかし、不可能な逃走を。わたしはわたしになるためにわたしを違おうとする。だが、この亡命・逃走は、何か自己実現を目指すような能動的な決意によるものではありえない。わたしにはどうすることもできない崩壊のなかで、わたしは始まる。わたしになるために? いいや、そうではない。創造の意志とは無関係に、根拠もなく、崩壊は始まった。その創造主じしんを全き後の祭りに産出する、主体なき創造として。存在が壊滅する否定的なゼロの自己触発の挙句に、このブラックホールの収縮、核崩壊のカタストロフの不可逆・非対称の崖崩れとして。分娩の苦痛へと存在が雪崩をうって殺到するようにして。ひとつの王国が滅び去り、わたしが生まれる。創造しえぬものの創造主として。



 この、後からの起源の引受けは、起源の場処を空疎にしつつ、そこへと見向く。ふたたび、見ることが見られることへの融即であるような振り返り、不安な顧みとして。このオルフェウスの背視は呟く、〈あなたは誰?〉と。まるで〈わたしは誰?〉と尋ねかけるように(だが一体誰に向かって?)。この不安定な問い。今し方穿たれたばかりの句読点の風穴のパンクチュエートのうえに、この、存在と非在とが引き裂かれつつまた融け合ってゆく始源の陰唇に、ひとつの曖昧さとして覆い被さってゆく疑問符――この空虚な充溢。この、殆ど無きに等しい幽かな遷移(ズレ)のなかで、ひとつの由々しい黙した恐怖が叫ばれるとき。



 神の死が煌(きら)めく。生まれつつ死にゆく神の奇妙な永遠、きらめく、始まりへと終わり続けていく神の無限の撤退。さようなら――さようなら。いなくなり、去りゆきながら、遺棄のなかに残留し、生き残る死者に、最初の孤独の寒さが告げられるとき。


 少年は、自分が神であることを知って泣く。


http://ameblo.jp/novalis666/entry-10000741244.html
mixi:http://mixi.jp/view_diary.pl?id=6537452

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II.〈非〉

いまを コプコプと溺れ くだってゆく すためきおちてゆく時の 溜飲の譬喩 のように 右回りの咽喉を右巻きに絞られ 窄んでゆく 絹色の しなやかな水の維管束の紙縒り のそとまわりの縦皺をふかめ 褶曲するせまい襞の 渓〔たに〕 を潤みながら その委細を ひとつひとつ ていねいに 擦〔なぞ〕り 削り 研磨する 溶液の流沙を 艶めかせ しなり うねやかに 婉曲円滑の経路を辿って くねり スパイラルに おりてゆく のみこんでいく 青いうすさへと消え 透いてゆく水の細胞のふるえは ひとつぶ 塩の かすかな結晶を銜〔ふく〕み ちからない虚数の精子の繊毛と ゼロの 白夜へと とおく翳〔かす〕んでゆく 緋の 痛みの卵子のようなひずんだ涙滴を ちいさな宝毬へとくるみ くるくると水銀の微球面をまわって わたしの 眸の蒼を溶かしてゆく漆黒の圓窗〔まるまど〕に射映〔うつ〕り受映〔うつ〕されながら 何処を転げてゆくのか

わたしの虚眼のうつろなこころの しずまる墨の泉にうつる 静かに やわらかな迷儚〔まよい〕を孕んで 悩みのように撚〔ひね〕られる おまえの やさしいからだを思惟〔おも〕う おまえの軟体をつよく搾りあげる くいちがいの気圧に 圧し殺される斜めの ほのじろい叫びのように身をよじり 声もなくひねられる 骨盤の尖った腰と ほそく括れこんだ しろく蛍光する腹から 臍の窪みから転がり出〔で〕 わたしを封じこめた真珠の時の素粒子が 流産〔るざん〕のように体表をかすめ 愛撫のように 負の 藍色稜線を辿って 黒の 微熱に幽んだおまえの鼠蹊部へと下る 溜め息のように だがこみあげる噎〔むせ〕びのすためきのようにゴブゴブと 呼吸をもとめて泳ぎあがる気泡〔あぶく〕のように 咽喉の瀑布〔たき〕を駆け遡〔のぼ〕ろうとすることば

ゴボゴボと気息〔いき〕へと弾け ゴブゴブと水を飲み呑まれ 溺れながら 上下する嚥下の漏斗を 右巻きに輪廻〔まわ〕り 渦巻き 夜天〔よぞら〕に粒星銀河を繁吹〔しぶ〕かせ 宇宙の白い裏面へと 排水口に吸われてゆく 右回りの時計盤〔とけい〕の眩暈の向うで 消え失せたコルク栓の浮標〔ブイ〕が流回する軌跡に沿い 左様〔さかしま〕な 天球儀の円周に ふわり 義眼の水星〔メルクリウス〕をうきのぼらせる 無言の うたごえの凝結を瞠る わたしの まだふるえ揺らいでいる瞬間〔またたき〕の残映のように
III.〈虚〉

 わたしをなかだちにしてゆるゆるとめぐる雲靄〔もや〕のもうもうの胚珠。この未分化のどんよりとした流体を纏わせ経巡る透明なけむりの渦巻きにわたしを暈かし、幽〔かす〕む暮れ色のグレイのなかへと言い淀むわたしを層へと分離するように身を引きわたしへと身籠るやいなや湯垢のようにしなしなとへたりこむ肉の衣が何かの自ずさへと坐るようにして畳まれてゆくバナナのような瞬間。

 しかし剥きとられた皮膚から露出される果肉はなく、ただそれらしい香りだけを残して空虚を醸し、わたしは黄黒い疲労へと既に腐り溶肉してしまったにちがいない。

 それだからペラペラの肌色のまだ湿り気を帯びた蛻〔もぬけ〕のしたに筋組織も骨組みもなく、ただ揮発性の臭気だけがかたちをとりかねながら、愚図愚図寝呆けて「わたし、わたし」と譫言〔うわごと〕を呟き、呟きながら、わたしを定められぬその漠然をむなしく咀嚼しつつその口元で益々わたしがガムのようにただ非定形へと捏ねられ続けるに過ぎないのだ。

   *  *  *

 アモルフな〈虚〉に脱げて床に落ち、虚妄に陥るわたしの衣装、様々なる意匠。王様の新しい衣装などどこにもなくそれはゴグとマゴグ、マゴグの王ゴグのドグラマグラの虚幻術に透明に融けてゆくだけの偽りの解脱術であるしかない。
 消え透く空ろへと虚ろに移ろう気味悪いわたしの幻影―透明な白い影が薄ら笑いとなってブランクのおもてに広がる、広がる気味悪さのきみの人の悪い笑いの意地悪い悟りの薄笑い。

 消えるのね、いつもそうやって、きみは―わたしはわたしから消えてその〈虚〉のなかに〈虚〉を繰り広げて透けてゆく。

 透けて見え透くそのとてもみにくい虚妄の現実。みにくい、とてもみにくいあらゆるもののあらわさのなかにわたしだけがいない。

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