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加藤周一コミュの過去の講演会の感想

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長野での講演会 または「主知主義」のピン

「主知主義概論━ヴァレリーの場合━」林達夫・1938/12を読了。平凡社著作集・第4巻・批評の弁証法・p105-121。そこに「「主知主義」のピン」と言う言葉が出てくる。赤ん坊が泣いている。その原因が分らず、乳母はあれこれと考えあぐねる。そして心理学や遺伝学までも総動員してみるが、さっぱりだめだった。最後に、子供の下に、ピンがあったことが、判明し、事態は解決を見る。後から振り返って考えてみれば、それまでに困惑し、原因究明のために、あれやこれや、てんやわんやで費やしたエネルギーの総量はなんだったのだろう。それとはまったく無関係に、無慈悲に、至極単純且つ平凡な結論であっけなく解決したではないか。しかし、哀しいかな、世の中には、事ほど然様に、対応が急を要し、瞬時に判断を迫られ、機転を利かせて、即刻、気付かねばならない事例が往々にして多い。

ヴァレリーの知性は、今の世に、是非とも必要であると思われる。「言語的状況の清掃」ということを重んじていた思想家。『ヴァリエテ』一「精神の危機」三「精神のポリティーク」「知性の総決算」。我々を脅かすことをやめない内外の力に対して、整然として対抗していけるように、自己を知的に武装していく為にも。それは具体的に何なのだろう。私見は途中で考えながら、おいおい、述べてみたい。

それと関係があるとは断言はできないが、こういうエピソードがある。『中国とつきあう法』桑原武夫・加藤周一・潮出版社・1978/4/5.対談集。その前書きを
桑原さんがお書きになられている、時は1967/4。所はウィリアムスバーグ。日米民間人会議において。米国のヴェトナム政策を巡って紛糾が起こった。すこし引用しよう。

「ある日の会議で、何がきっかけか覚えないが、物理学の小谷正雄さんが、いつも通りごくおだやかな口調であったが、アメリカのヴェトナム政策には賛成しかねるといった。するとスカラピーノ教授がいきなり物凄い調子で、ペンタゴン絶対支持の長広舌をふるった。小谷さんがいささかひるむかに見えたとき、加藤さんが鋭く切り返した。座長(松本重治さん)が、重要な問題だが、予定のテーマからはずれるので、あとで個人的に話合ってもらうことにして、本題に進みたい、と提案した。皆賛成だったので、私はチェアマンは私がつとめ、夕食三十分後にやります、と口をはさんだ。

 その場所には小谷、スカラピーノ、加藤の三氏のほかに、十人ばかりの傍聴があり、リースマン教授もじっと聞き入っていた。討論の進行はもう覚えていないが、加藤さんは米軍の北爆開始の年月日、その出撃機数等をはじめ正確なデータを次から次へと提出し、それを冷静な論理でつないでゆく。その見事な攻撃にさすがのスカラピーノ氏もややグロッキーと見えた。十一時に私は散会を宣したが、加藤さんの判定勝ちは衆目の一致するところであった。
 私たちの世代にも外国語に堪能な人は少なくなかった。しかし、どこかに西欧コンプレックスが残っていて、白人との議論は遠慮がちになるのだったが、その夜の論戦をみて(私の聞きとり能力では微妙なニュアンスなど解りはしなかったのだが)、普遍的なものとしての日本知性が歴史的に躍進したことを実感して嬉しかった。その快感は低次のナショナリズムにつらなるものではない。」

さて、ここからが本題である。すこし遠回りをしてしまったようだ。上記に、デヴィド・リースマンさんのお名前が出てくる。どなたでも御存知の『孤独な群集』みすず書房の著者である。ということから、類推して、もしかしたら、この同じ会議の別のエピソード(?)かもしれないのが、次である。あれは加藤さんが、長野で行なった講演のときだったと思う。対談形式で川田龍平さんとお話をされた、その後の質問コーナーでだったか?加藤さんに、こんな問いが寄せられた。「先生が、もっともエライと思われた方はどなたですか?」

加藤さんは、こんな風にお答えになられた。「或る国際会議の時だった。言語は英語だった。参加者は日本と米国双方からだった。会議が始まり、米国側の出席者は、母語(native)ということもあってか、猛烈な早口で機関銃の様に一方的に話した。それは日本側の出席者にとって理解するのには困難と見えた。その時に、提案があります、と言って、リースマン教授が挙手をされた。『ここは日米双方からの出席者で構成された会議なのですから、日本側の皆さんにも理解できるように、もっと我々の側で話すスピードを落とそうじゃありませんか。』と。

加藤さんは、それに感銘を受けられたと話した。そうお考えになった理由は、おそらく以下のものだろう。その発言・提案が発せられる源泉には、日米の出席者が対等でなければならないという基本思想が必要だ。つまり人間は平等であるという考え方感じ方。そして、同じテーブルについた以上、平等で公平なルール、前提条件が設けられるべきだ。そうすれば、会議は、より実り多い成果を生み出せるだろう。そして、そのアイディアを思いつくためには、両者の間で交わされている高度な議論の良し悪しに、目と心を奪われずに、その議論の前提条件たる、コミュニケーションの基本、即ち、相手を思いやる、心を砕く気持ちの方にこそ、より高いプライオリティ(優先順位)を置く心遣いが必要だろう。

それに気付かずに、早口で一方的に、ドッチボール競技の球のように相手に発言をぶつけるのは、赤子の下の「ピン」に気付かないのと同じ事かもしれない。その欠陥を早い段階で気付き、取り除かなければ、議論は、円滑に進まないはずだ。それらを加藤さんはリースマン教授の提案から咄嗟に汲み取ったのだろう。長野の講演で、加藤さんは、リースマン教授のお名前を挙げられて、会場から寄せられた質問にそうお答えになった。単純で簡単な事かもしれないが、果たして、誰でもが、その場で、リースマン氏のように気付けるかどうか。本当に賢いかどうかは、つまるところ、そういうことではなかろうか。即座に重大な欠陥に気付き、それを取り除く知恵。

私見。今の日本で、それに相当するものは何だろう。僕は、言葉の定義づけへの努力不足だと思う。曖昧な言葉の定義で、議論が混乱していると思う。いや、混沌と言うべきか。その根本原因は、ナショナリズムの感情を軍事力にではなく、またスポーツ競技観戦にでもなく、文化、もっと言えば、言葉へと、つまり日本語に求めないからだと思う。現状では、ビジュアル、視覚、映像に比重が置かれ、言葉が負け越していると思う。見た目で物事を判断し過ぎだと思う。では、日本語にナショナリズムの根拠を向かせるにはどうするか?脳の言語中枢云々の話に還元されるのだろうか?右脳、左脳の話?

良いお手本を示す、魅力的な言葉遣いの人や作品が必要だろう、と思う。今は悪い例が瀰漫していると思う。国の指導者に、襟を正せ、と求めるべきか。いや、反面教師ですらない反知性主義者たる彼らに、それは期待しないでおこう。僕たちは僕たちで勝手に自分たちにとっての善いものを探すだろう。その道しるべが加藤さんの残された作品だと思う。

コメント(2)

デビット・リースマンつながりで言えば、こんなこともありました。↓加藤周一さんのメーリングリストに、先ほど、某氏によって、投稿された文章です。


テレビが記録した知性たち

1999/3/5~3/8 NHK教育TV

大岡昇平、桑原武夫、安部公房、堀田善衞、久野収、小林一三、吉川英治、大宅壮一、長谷川如是閑、むのたけじ。

対談、解説者は、城山三郎、加藤秀俊、佐高信、如月小春、清水徹、草柳大蔵、 他。

先ほどから、昔、録画した上記の映像を見ているところである。特に、桑原武夫さんの所からは、学ぶ所が多かった。以下、要約。

研究対象ばかりでなく、方法そのものが斬新だったようだ。1961年に来日したデビッド・リースマンが、桑原さんたちの人文の共同研究を見て、「ハッピー・アマチュアリズム」と言ったそうだ。専門外では、お互いにみんなアマチュアなんだ。「こんなのはアメリカでも見たことが無い。」と。その素人性は人民、市民にもつながる精神だ。誰でもが理解し得る学問じゃなくちゃならない。それから学問は楽しくなくちゃならん。専門の事に関しては、testabilityに耐える知性でなくちゃダメだ。しかし、だからといって専門性(蛸壺)だけに潜り込んじゃダメだ。お互いがお互いに触媒になって垣根を取っ払っていく。権威主義的でない、オープンでフランクなボスだった=桑原さん。彼のなかには、フランス流のボンサンスが息づいていた。司馬遼太郎から本多勝一まで、幅広い交友関係があった。

場所柄についても、それは東京でもない大阪でもない、京都だからこそ出来たのかもしれない、と。家と、研究の場としての学校との距離が近い。直ぐに帰れた。大学のセクショナリズムを廃さなくちゃならない。お互いに自分の学問的経験を拡げていこうと志向して、自分の専門以外の、仮令、役に立たなくても、自己教育をしなくちゃならないという意思。また共同研究(合計六冊の成果があった)の後には、ご飯を一緒に食べたり、日本映画を観たり、・・・。そうした人の和が、次回の研究に結びついていく。それらが、専門外の知らない事を「恥ずかしい」と感じる気持ちを軽減する。穴があったら入りたい「恥ずかしさ」ではなく、清清しい「恥ずかしさ」に変わっていく。知識の水平化、普遍化を進めた、稀有な思想家。知識の共有化の為に、弟子筋の鶴見俊輔さんのアイディアである、カードによる知識の共産制を進めたかったが、タイプライターやコピー機がなかったので思うようにはいかなかった、と。・・・。

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