カナーレに行きたい会コミュの人生とは旅であり、旅とは人生である

俺がカメリエーレという旅に出てからおよそ10年の月日が経った。
27歳の夏、寒空のもと岡山のとあるイタリアンレストランの片隅でその旅は終わった。

あの頃はコーヒーをいれることに夢中になり
必死で彼女をつくることだけを目指した。
そして、ひたすらゲーム（ウイイレ）を楽しんだ。
デュアルショックは常に傍らにあった。

カメリエーレの旅がこんなに長くなるとは俺自身思いも寄らなかった。
インドネシア選抜からニョッキ、ツチバヌーチ、そしてカナーレの一員へ。

イタリア代表へも招聘され
世界中のあらゆる場所でいくつものゲームを戦った（ウイイレで）。

カナーレはどんなときも俺の心の中心にあった。
ウイイレは本当に多くのものを授けてくれた。
喜び、悲しみ、友、そして試練を与えてくれた。

半年ほど前からこのドイツワールドカップを最後に
約10年間過ごしたカメリエーレ界から引退しようと決めていた。

何か特別な出来事があったからではない。その理由もひとつではない。
今言えることは、カメリエーレという旅から卒業し“新たな自分”探しの旅に出たい。
そう思ったからだった。

プロになって以来、「コーヒー、好きですか？」と問われても
「好きだよ」とは素直に言えない自分がいた。
責任を負って戦うことの尊さに、大きな感動を覚えながらも
子供のころに持っていた焙煎に対する瑞々しい感情は失われていった。

けれど、カメリエーレとして最後のゲームになった7月13日の後
コーヒーを愛して止まない自分が確かにいることが分かった。
自分でも予想していなかったほどに、心の底からこみ上げてきた大きな感情。

これまでは、周りのいろんな状況からカフェへの思いを守る為
ある時はまるで感情が無いかのように無機的に、またある時には敢えて無愛想に（彼女以外に）振舞った。
しかし最後の最後、俺の心に存在した壁は崩れすべてが一気に溢れ出した。

そして、思った。

世界各国のどのレストランにいても聞こえてきた「MIZUKEN」の声援。
本当にみんながいたからこそ、10年もの長い旅を続けてこられたんだ、と…。

カメリエーレという旅のなかでも「カナーレ」は、俺にとって特別な場所だった。

俺が伝えたかった何か、彼女をつくる為に必要だと思った何か、
それをたくさんの人が理解してくれたんだと知った。
それが分かった今、カメリエーレになってからの俺の“姿勢”は
間違っていなかったと自信を持って言える。

だから今、俺は、安心して旅立つことができる。

新しい旅はこれから始まる。

今後、プロのカメリエーレとしてレストランに立つことはないけれど
カフェをやめることは絶対にないだろう。
旅先のサロンで、草むらで、小さなレストランで、誰かと言葉を交わす代わりに
豆を煎るだろう。子供の頃の瑞々しい気持ちを持って。

これまで一緒にカフェしてきたすべての人々、関わってきてくれたすべての人々、
そして最後まで信じ応援し続けてきてくれたみんなに、心の底から一言を。

“あやや、大好き”

　　　　　　　　　2006年7月14日　MIZUKENことみずけん