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映画評論(ゲイのみ)コミュのハート・ロッカー

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 ☆☆☆☆☆(5星満点)

 戦場でのあっけない死・恐怖と狂気に駆られた殺し合いを描くことで、『プラトゥーン』や『ディアー・ハンター』そして最近では『硫黄島からの手紙』などの名作が、「戦争の不条理」を観る者に訴えてきた。そしてこの『ハート・ロッカー』もまた、見終わった後に戦争の不条理を痛いほど感じさせる傑作であった。
 
 しかし今作は、先の名作たちのように無意味な死や殺し合いによってそれを感じさせる訳ではない。もちろん死と殺し合いの最前線が描かれているのだが、それが淡々と何の目的も無く続いている日々を強調する事で、戦争というものの不条理を訴えているのだ。その強調に一番貢献しているのが、兵士の日誌を読み進めていくかのようにエピソードを並列的に語る、脚本の構成である。時間的な経過が唯一の流れと感じさせる脚本が、実に素晴らしい。こうしたエピソードの並列という構成は、特に目新しい手法ではない。しかし大概、主人公の心の成長とか徐々に環境が変化していくとか、何かしら裏で巧みな "映画的流れ" が展開されているのが良品の常である。ところがこの『ハート・ロッカー』ではそんな伏線は用意されていない。唯一DVD売りの少年のエピソードに因果関係を含んだ流れを見い出せるのみである。それこそがこの映画の最大の魅力であり新しさなのだと思う。「こんな毎日」に何のゴールも無いとは!そう感じさせる事が、この映画の狙いだと感じた。

 ビグロー監督のカメラ演出は、いわゆる「手持ちの記録ビデオ風」という最近よく目にする手法である。それを撮影している記録係とか戦場カメラマンとかが居る設定でもなく、主人公が一人っきりであるはずのシーンでも平気でクイック・ズームやガタガタ揺れる手持ち移動を使う。それらはカメラの存在を観客に感じさせる事になるということを承知の上で、あえて多用している。正直、最初は戸惑った。リアリティーを醸し出すはずのこの「手持ち風」が、逆に演出を感じさせてしまって興醒めする失敗を何度も目にしてきたからである。(『クライマーズ・ハイ』などその代表)しかし、中盤からは全く気にならなくなった。それには、照明の存在と演出的カメラ位置(車のフロントガラス越しから車内を撮るカメラ位置など)の徹底的な排除が、功を奏したのだと思う。

 演出的なカメラ位置が無いため、主人公たちの表情をあまり明確に見せてはくれない。それを補うかのように、音声だけは映画的なクリアネスを貫き通している。ビグロー監督、何から何まで計算づくなのである。

 表情があまり分からない映画なのに、主人公を演じたジェレミー・レナーはアカデミー賞の主演男優賞にノミネートされた。これはアカデミー賞によくあることだが、演技が評価されたというよりも、その役柄が評価されたという事なのかもしれない。この映画の主人公が、「問題はある奴だけど基本はイイ人間」であったことが、下手をすると後味の悪い映画になるぎりぎりのラインを下回らずに済んだ要因かもしれない。この主人公、最近の映画の中でもとびきり魅力的である。

 アメリカの映画人たちが選ぶ米アカデミー賞が、『アバター』でなく『ハート・ロッカー』を選んだというのは、意外なようで実はここ数年の流れかもしれない。アメリカは、良い意味での「アメリカ的映画手法」がある程度成熟してしまったのだと思う。それは技術面で特に顕著で、だからこそ更なる進化を望む時、成熟した既存の手法をあえて拒んでいる作品に新しさを感じるのだ。ヨーロッパの映画祭ではすでに以前から見られていた現象ではあるのだけど、まあアメリカ映画業界という巨人故、やっとここ数年で目立ってきたのだと推察する。

 アメリカ映画のこの流れが、70年代に「ニュー・シネマ」の傑作が生まれたような良い方向に向かってくれる事を期待したい。アメリカ映画お得意の「映画的演出の巧さ」はきちんと残しつつ、既存に捕われないアメリカ映画をもっともっと見てみたい。

 
 

コメント(9)

トップ・シーンからとにかく画面に緊張感がみなぎっていました。恐怖映画よりも怖かった。戦場のイラクにいるような気にさせられた臨場感、特に音響の存在感に驚かされました。映画館で上映している間に見ることをお勧めします。
正直、戦争を題材にした映画も、ドキュメンタリータッチってのも苦手なんですが、この映画は2時間余りほぼ集中力を切らさず見ることが出来ました。この映画は、そういうパワーを持ってますね。

戦争と切り離してみても、この作品は長く極限状態に置かれる人間の慢性化してしまう異常を描いてますね。

薄っぺらい感想でスイマセン。でも、ホントに良かったです。
DVD売りの少年とのやりとりや、自爆テロのイラク人を救おうとするシーン、全体的な"アドレナリン・ジャンキー"っぷりなど、共感する部分もあったが、延々緊迫感で引っ張る2時間余。7つのエピソードのうち2-3は省けたのではないか

そして、下品ですみませんが、全体的にま○このにおいがする。野郎っぺく描こうとしすぎて、カメラのこちらからの女の熱視線が感じ取れ、生硬でネチネチ煩わしい。作品とは裏腹に、本当は男を自立させたくない未練と依存が監督の本性で、これが演出の品格をだいぶ傷つけていた

というわけで心理描写の不整合と陳腐な大げささに首を傾げることしばしばだったが、退役軍人でも「この映画はAvatarより現実味がない」という人が何人もいる↓
http://movies.nytimes.com/2009/06/26/movies/26hurt.html

監督の性別はともかく、本人は兵士へのオマージュのつもりだろうが、兵士に対しても監督自身に対しても洞察が未熟で、無神経で兵士に失礼だなと思った

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以下、映画とはずれるが、爆発物の解体といえば、以前TV(世界バリバリバリュー)に地雷解体を仕事にするカンボジア人が出てた

人なつこい笑顔で結構ハンサムだった。幼少時ポルポトに連れ去られ地雷を埋める仕事をしたが、その罪滅ぼしにと地雷除去を仕事にしてきた

ある日は農家の庭先で、鍬が金属に当たったということでこの人が呼ばれる

彼が手で少し掘ってみると、小型の地雷の下にもう1つ大きな地雷が埋まっていた。つまり上の地雷を撤去すると、それを引き金に大きな地雷が爆発するトラップ。下の地雷は、農家を吹き飛ばす威力だという

一帯の住民は避難、何の装備もない素手で、10数時間かけ、彼は解体を終える

その謝礼は、日本円にして10数円と、村長から鶏3羽

家には妻と、養子に引き取った20人近くの地雷で手足を失った子らがいて、妻は彼を仕事へ送り出すたびに神棚に向かい、念が通じるほど必死で夫の無事を祈っていて心打たれた
 実は戦争映画というよりも、刺激的で緊張感あふれる環境の中でしか生きられない仕事中毒の話なんだと思いました。

 仕事の失敗で傷つく人たちの姿、話の通じない現地人との対峙、戦場での出会いと別れ、そういうものに胸を引き裂かれそうになりながらも結局爆弾処理を辞められない。次の仕事を考えると、目がぎらついてしまう。
 戦争は麻薬・・・というよりも、人としてちょっと壊れたところである種のバランスが取れてしまい、もう人生にそれ以外残ってない男の姿を描きたかったのかなと。
 女性監督だからこそ「オトコの職場」を同情ゼロで描けたと思う。女性ならではの一貫性と突き放しがあった。
 これを男の監督が撮ってたら、きっとつまんない「男のロマン」映画になって、大泣きするシーンが連発だったでしょう。カントリーミュージックなんか流れちゃったりして。イラクだっての!そして、仕事に目がぎらつくシーンは、もっと大義を背負わされたでしょう。多分、実際に戦争に出た人たちからは、コメントもされないような映画になったんじゃないかなあ・・・

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