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本作りネットワーク/全国版コミュの出版業界あれこれ(出版取次の話)

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ウマ前のトピックの続きです。ただ本を作りたい人には無縁の話かも知れませんが、出版社を始めたい、取次口座を収得したいという相談が次々と寄せられているので、先ずは出版取次の実情と取引条件のことなどを紹介しました。


【取次口座と取引コード】
出版物のほとんどは、出版取次を通じて書店に流れる。アマゾンやセブンアイなどのネット書店も基本は同じで、出版取次を通じて本が持ち込まれる。

出版取次で扱ってもらうためには出版取次との取引口座が必要だ。出版取次には、トーハン、日販(日本出版販売)、大阪屋、栗田(栗田出版販売)、大洋社、中央社、日教販などがあり、そのそれぞれと個別に取引口座を開設することとなる。

ちなみに私がメインで使っている太陽出版は、上記の取次全社に口座を持っている。出版社によっては日販だけ、あるいはトーハンだけに口座を開設しているところもあるが、今では書店ごとに取次1社取引になっているので、少なくともトーハン、日販、大阪屋の3社に口座を持っていないと、全国の大型書店で扱えないようになってしまう。

取引口座開設に伴って取引コードと言うものが付与される。この取引コードは取次各社が発売元を区別するためのコードで、最初に口座を開設した取次が取次協会に申請し、そこで定められたコードが、その後の新規取次口座でも適用される。

誤解のないように付け加えると、この取引コードは、本の裏側に印刷されているISBNコードと呼ばれる日本図書コードや書籍JANコードとは全く関係が無い。Cコードと呼ばれる図書分類コードとも異なり、あくまで出版社(発売元)と出版取次との取引に使用される。

【卸正味】
出版取次にとって出版社ごとに取引条件が異なることは昨日のトピックに紹介した。実は出版社にとっても、各取次ごとに条件が異なる場合もある。個別の出版社、個別の取次は当然のように自社に都合のいい条件での契約を求め、その結果としてお互いが歩み寄り妥協した契約条件を定めた結果だ。

この10数年、何社かの例外を除き、取次が認める新規取引条件の基準は、ほぼ卸正味(おろししょうみ:卸値を定価の何掛けにするか)67%となっている。最近の新規口座では、定価1,000円の本の卸値は670円と考えてもらえばいいだろう。10年近く前に私が例外処置として取得した取次口座でも68%に留まった。

先ず、この卸正味のことについての新旧出版社、大小出版社の格差だが、古い専門書の出版社ならば卸正味73%も不思議ではない。同じ1,000円の本でも卸値は新規出版社の670円に対し730円。6%、60円の差となって現れてくる。

講談社や小学館などの大手出版社の場合には定価別正味というものが適用されている。800円以下の本ならば67%、1,200円までは69%、それ以上は71%というように卸正味が異なる。ただここでは、大手か中小か、新規か老舗かによって、卸正味だけで数%の違いがあると覚えておいてもらえればいい。

【歩戻(ぶもどし)】

《取次への新規取引出版社では当然のように、5%程度の「歩戻(ぶもどし)」が取引条件のうちに組み入れられる。みんなが呑まされている条件だから仕方ないという人も多いが、これこそ出版社としての生死を分ける条件そのものだと思う。》


新規に出版社を始めた人たちがコロリと呑まされる条件が『歩戻』だ。ついつい卸正味の交渉に気を取られてしまう(それが出版取次の狙い目でもあるのだが)。

『歩戻』は、新刊配本をしたり、長期委託や延勘扱い(このことは後日紹介する)の時に配本手数料として取次が請求してくる、いわば配本手数料のようなものだ。ただし出版取次は「配本手数料」とは決して呼ばない。あくまで「歩戻」だと言い続ける。

余談だが、この歩戻という呼称がおかしいのではないかと幾度か取次に問い詰めたことがある。「さー、何でそのように呼ぶのか分かりません」「商慣習で使っている業界用語ですから」とこのような答えばかりが返ってきた。

ある日、元大手取次の専務で、既に退職して悠々自適の生活を送っている老人に聞いてみた。
「キミねー、それは商慣習だよ。業界用語と言っておけばいいだろう。これを配本手数料と言い換えてみなさい。公正取引委員会に目を付けられるよ。取引上の優位な立場を利用した行為だとして独占禁止法に触れるんだ」

まさにその通り。この歩戻こそが、新旧の出版社、大小の出版社への排他的取引の元凶になっている。出版社ごとの歩戻の違い、そしてこの歩戻の違いがどれほど大きいものか例を挙げて考えてみよう。

昨日のトピックでも掲げた例だが、新規に口座を開設した出版社で、定価1,000円の本を毎月3点、年間36点発行した出版社の年間の歩戻負担は900万円になる。これが歩戻3%程度の中堅どころの出版社なら540万円、そして実は大手出版社を始め歩戻ゼロの会社も少なくない。

このような大手出版社や老舗の出版社がトーハンや日販の株主であるから当然の排他的処置と言えなくもないが、年間経費ゼロか900万円か。新規出版社の背負った十字架が如何に重いものか分かると思う。これだけで10年も経てば1億円近い経費の差となってくる。卸正味で差を付けられ、さらには歩戻で経費負担を迫っているのが今の新規取引条件だ。

【支払サイト】
売上が何時回収できるか。これも大きな条件の違いになっている。委託分は納品6ヵ月後の締め、その翌日払い。注文出荷分は納品分の70%を翌月払い、残り30%は6ヵ月後の支払い。これが新規口座の平均的な支払い条件ではないだろうか。

例えば大手出版社には、委託分は納品翌月全額払い、注文分も納品翌月全額払いのところもある。それほど大きくない出版社でも、委託分の内30%程度を翌月払い、残りは6ヵ月後の清算時期に清算払い、注文分は翌月全額払い。これが実態である。

卸正味で差を付けられ、歩戻で高額を負担させられ(それも翌月には引き落とされる)、かろうじて残った売上金の支払を、支払サイトをずらせて遅延させる。新規出版社の決算書を見ると名目上の売掛金だけが膨大に膨れ上がっている。極端な話、年間回収金額以上の売掛金になってしまうことさえある。

【さらに付け加えると】
新規出版社では取次への納品は、取次の集品窓口へ納めることが義務付けられている。返品も出版社側が受取に行くことになっている。多くの新規出版社は物流業者に委託してこの納品・返品搬送を行っているが、そこそこの出版点数があれば毎月数十万円の負担となっている。

それでは大手出版社や老舗の出版社の場合はどうか? 一部運賃負担はあるにせよ、取次の車が集荷に来て、返品も届けられる。この違いも大きい。何よりも固定費、人件費において大きな条件格差として横たわっている。


【中間まとめ】
新規出版社の抱える条件格差の問題を紹介してきた。私は基本的には新規の口座を開設すべきでないと思っている。その理由が今日書いたように、卸正味・歩戻・支払サイト・集荷等の余りにも大きい新旧の条件格差だ。

とはいえ日本における出版販売を考えた場合、アマゾンなどの直取引への模索はあるにしても諸経費を考えると取次利用のほうが遥かに効率がいい。出版物は多品種少量生産、さらに幾ら気に入っても同じ本を買う人がいないなど一過性の強い商品である。在庫を抱えコツコツと売り歩いているだけでは到底本は普及させることが出来ない。

私は、そこそこの規模での出版を考える人には幽霊口座の紹介や出版社のM&Aを提案し、そのお手伝いをやってきた。昨日も書いたように2〜3,000万円を既存の出版社収得に使っても、3〜4年すればそれ以上の収支の差となって現れてくる。

しかしこのトピックを読む人の多くは、資金も無く、人材も無く、知名度も無く、コネクションも無く、飛び抜けた技術や才能があるとも思えない。失礼な話だが、そのような人たちならばとっくの昔にこの業界に知れ渡っていると思う。それほど狭い世界でもある。

私はあえて、もし事業として考えるならば、せめて発行元だけの出版社にしなさいと言って来た。それも世間が受け入れてくれるものか、慎重に、最初はテスト販売のつもりで取り組むほうがいいですよと言って来た。さらに事業化以前の段階で、個人としての出版活動から始めるべきだと思っている。

思った以上に売れない。でも思い通りの本が出来たとき、思った以上の感動が戻ってくるのが出版のように思う。だから私も、いつまでもこの業界から抜け出せない。とんでもない道楽に魅せられたものだと半ば諦めている。

コメント(1)

ていねいな解説ありがとうございます。分かりやすかったです。

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