ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

ササイのことで思い出したコミュの雪子のこと【04】

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 ここまで読み返して、気になった。
 文章の調子が気になった。
 僕は美文を気取っているわけではないのだが、どうにも青春というやつは、それだけでセンチメンタルなものになりがちだ。
 いかんと思う。
 ここで調子を変えることにしよう。
 美しいことは、美しいふりをした文体の中ではなく、そのできごとそのものに宿ってなければいけないと思うからだ。
 だが「僕」は「僕」のままにしておこう。
 「僕」が「俺」になるほどには、まだ僕は汚れていなかったからである。

============================

 赤田ががさつなお調子者であることは、頭に入れておいてほしい。
 その赤田が、放課後、まだ教室でだらだらしていた僕らのところへやってきた。
「ニュースニュース大ニュース。美男美女カップル誕生!」
 僕にはなんのことかすぐに判ったが、居合わせた友人達はさいしょ怪訝な顔をした。
 赤田が言うには、健二と雪子の二人が連れ添って帰り、今は中島公園あたりを散歩しているというのだ。
 なんでそんなことが赤田に判ったのか。
 すぐに謎が解けた。
 健二は「計画書」なるノートを作成していて、その中に、白岩雪子に声をかけるタイミングやその台詞、相手の反応によって自分の行動を変えるフローチャートを作っていたのだ。
 後でも触れることになるが、健二というのはそういう男なのである。
 何故だか健二はその「計画書」を、僕ではなく、赤田に見せたのだ。
 赤田は物陰から彼らをうかがい、二人が校門を出るところまでを見ていたそうだ。
「今から追跡しねえか?」と赤田が言った──そこにいた数人の顔を見回して。
 たしか、二人だけが、興奮してうなづき、赤田といっしょに飛び出していった。
 僕は行かなかった。
 行かなかった仲間が、他に二人いた。
 長島縦というやつと、稲葉太郎というやつだ。
「追跡なんて下品だよな」と縦は言った。
 その理由が、僕のと違っていることを、なんとか隠した。
 稲葉太郎は、これまた浪人組だったので、健二のことをよく知っていた。
「あいつは抜け目ないからなあ。それにしても、すごいお宝をゲットしたもんだな」
 やはり《お宝》なのか、と思った。
 というのも、あの日心臓に何かを刺されて以来、僕は雪子のことをよく見るのが怖かったからだ。
 彼女のことを知るのも怖かった。
 健二が「雪子に告白する」と言ってからはなおのことだ。
 
 友達が新車を買うことになったとして、だ、納車予定のその車を、ショールームに見に行って「いいなあ」と言ってやるやつがいるとする。
 僕はそれじゃない。
 なんだか、喩えが、悪いな。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

ササイのことで思い出した 更新情報

ササイのことで思い出したのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング