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ササイのことで思い出したコミュのThe Strange Girls──裸足でピアノを弾く女【18】

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 喉の渇きで目が覚めた時、どこにいるのかよく判らなかった。
 外はもう白みかけている。
 首をもたげて見回すと、俺の足許に押しやられた小さなテーブルに肘をついて、《うたえもん》が煙草を吹かしているところだった。
「喉渇いた」と俺は小さな声で言った。
「ああ、ちょっと待って下さい」と《うたえもん》も小さな声で答え、冷蔵庫からコーラの缶を取り出してきた。「これでいいですか?」
 俺も横たわっていた布団から這いだし、《うたえもん》と同じテーブルについた。
《うたえもん》はコーラを新しいグラス二つに注ぎ分けた。
 コーラの強い炭酸と甘さが心地よかったが、首筋とこめかみに、アルコールの残りを感じた。
 俺も煙草に火をつけた。

 女二人は二体の人形のように、タオルケットを突っ張らせて熟睡していた。
《うたえもん》は中腰になって二人をうかがうと、満足そうにまた腰を下ろした。
「なんで《うたえもん》なんだい?」
「たけし軍団の《大森うたえもん》に似てるって、ユッコさんが」
「あー、なるほど。そうかも」
 俺は、どこで雪子と知り合ったのかを《うたえもん》に尋ねた。
「店です。○○○の社員クラブ。ユッコさんとマリさんはそこのコンパニオンで、俺は黒服っす」
「なるほど」
 俺たちはそれから薄青い部屋の中で、しばらく黙って煙草を吹かしていた。
 やがて《うたえもん》が、訊きもしないのに、話を始めた。
「ユッコさんは、ああ見えて、気配りが細かいんですよ。ふつう俺らは人間扱いされないんですけど、ユッコさんは優しいし、チップなんかもいちばんよく分けてくれますしね」
《うたえもん》は、自分はいくつに見えるかと訊いた。
 てっきり同い年あるいは同学年と決めていたので質問の意味をはかりかねたが、
「同い年じゃないの? それとも、現役で一つか二つ若いのか?」
「俺もう、二十五なんすよ」
「え、そうだったんだ。意外だ」
 俺や雪子よりも三歳上ということになるが、いまさら急に態度を変えるわけにもいかない。
「まあ、そんななんで、彼氏とかそういうの、あり得ませんから、安心して下さい」
「ぜんぜん、そんな心配してないけど」
「あ。あっさりそう言われちゃうのもなあ」
「いや、俺もそんな、心配だなんて、する資格もないし」
「でもね、たまに自転車にいっしょに乗るんすよ。こう、二人乗りでね」
「へえ」
「ユッコさんの腕が俺の胴に回って、いい感じなんですよこれが」
「それはそれは」
《うたえもん》は眼鏡の奧の目を細め、すっかりうっとりしている様子だ。
「あとね、たまーにですけど、見せてくれるんですよ」
「見せる? 何を」
 俺の声が思わず大きくなったせいでもないだろうが、ベッドの上で誰かが身じろぎをした。
《うたえもん》は芝居がかった姿で、人差し指を口に当てる。
 そして、ささやくような声で、
「パイオツ、ですよ」
「はぁ?」
「こうやって……」と《うたえもん》は声をひそめ、あぐらをかいた背筋を伸ばしたかと思うと、Tシャツの前を、一瞬だけめくり上げ、戻した。
「まじかよ」
「まじっすよ。でも、たまーに、ですよ」
「ナマチチ?」
「見たことないんすか?」
 怪訝なようにもとれるし、勝ち誇ったとも言えるような口調だ。
「しばらく見てないな」
「でも、見たことは、あるんすよね?」
「あ、あるよ」と、少々うろたえる俺。
「いーい、形っすよね。最高っすよ、もう」
《うたえもん》は、顔をくしゃくしゃにしている。
「それ以上は?」
「それ以上?」
「見せてくれるだけじゃなくて、そう、ほら、ちょっと触らせるとか、さ」
《うたえもん》は顔の前で激しく手を振りながら、
「めっそうもない。もったいなくて、そんなのいいです。ぜんぜんいいです」手を振りながら、「たまーに見せてくれるだけで、もう十分ですよ、俺は」

 俺はなんとも言えない気持ちで、新たな煙草を吹かした。
《うたえもん》が、冷蔵庫に立ち、俺の前にコーラの缶をかざしたので、身振りで断った。
 時計を見ると、六時を回っていた。
「もうそろそろ帰ることにするよ」
「そうですか」
「うたえもんさんは、どうするの?」
「これから静かにここらへん片づけて、ユッコさんたち起きるの、待ちます」
「そう。じゃ、悪いんだけど、ここから駅までの道、教えてくれない?」
 散らかった小テーブルの上の煙草の箱やライターを使って、《うたえもん》は要領よく俺の帰り道を示してくれた。
「気をつけて帰って下さい。万が一迷ったら、ここの電話鳴らして下さい。俺、出ますから」
「ありがとう」
「どういたしまして。また近いうちに会いましょう。会って、もっとユッコさんの話をしましょうよ」

 帰りは、やはり思っていた通り、複雑な道のりだった。
 それでも何とか駅にたどり着くことが出来た。
 電車を乗り継いで寮に戻ったのは、七時半を回った頃だった。
 自分の部屋に向かうより先に、南村の部屋を訪ねてみた。
 部屋の前に、草履はない。
 南村は、まだ帰ってきていなかった。

コメント(8)

>会って、もっとユッコさんの話をしましょうよ
なんて。ファンの気持ち。
うたえもんは、自分にできることが身の回りの世話だったからそうしたのかなあ。


筆者に、感想書いて応援するってことも同じようなことですね。

本人がいないところで筆者の話はしたくたいと思いました。
たぶんそう会えることもないと思うので、人との話題に乗せることはなく。

ここで、物語についてはいくらでも話して、書きますが。
飲みの終わり、飲みの後の描画。
脳みそを耳掻きでホジホジされているような、
そんな気分に懐かしさを覚えます。
野球部のマネージャーを取り合いしているのか、それとも、二人とも水族館のみじめなオットセイなのか。
いずれにせよ、特別で魅力的な餌であることに、間違いありませんね。
《うたえもん》の由来が『大森』だった事はなんとなく想像がつきますし、ガタイの大きい“ボディーガード”の《うたえもん》と、それほど大きくはない「俺」との会話に、なにか面白味を感じます。
精神と肉体の優劣、でしょうか。
「俺」が《うたえもん》の事をどのように思っているのかが気になります。。。
南村のタイミングの良さが重なっているのが気になります。S美とご飯を食べたこと、代理とはいえ、デートしている事。
そして、この章の末尾。
帰ってない時点で際疑心の強い主人公のこと。
心中穏やかじゃないでしょう。主人公が一番満足する展開は南村が彼女をべた褒めなのにも関わらず、何もないか、むしろ肘鉄をくらう事ですが、最悪なのは、二人が関係あるのに、秘密にしていて主人公がいいツラの皮って状態かな…。
南村の性格の良さと容姿から言って後者はないとは思いますけど。

私としては、【ササイ】の時から地味に南村ファンなので、ここでシラノみたいな役どころを期待してみたりもするんですけど(笑)
正々堂々なら許してくれそうだし。

それにしても、主人公、陳列棚に女の子を陳列して、新しい女の子を収集してくる感じにも思えたりもしてしまいました。他の人に見せてうらやましがると大切に思うし、人の棚にいいのがあると欲しくなるし。
手に入ると飽きちゃうし。困ったものです。
でも、男の人ってそんなものなのかもしれませんね。
酔っぱらって訳わかんないこと書いてますね…>私
読んで、とっさにそう思っちゃったんですけど、感想もちょっとねかせて書かないと(汗)
「裸足でピアノを弾く女」という主題と別に「豚足を齧っていた女、鶏をむしってもらった女」などと、サブタイトルをつけたくなってしまいました。

黒服とは、うたえもんの態度に合点が行きました。
気が利いて腰が低いうたえもん本人は「俺」と雪子の関係をどう眺めているのか興味ありますね。

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